表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/22

魔界と悪魔と僕と

何で出来てて、どうやって作ったのかまったく分からない、おぞましい黒い建造物。

そんな建物?が林立する町を闊歩するのは、やはり見るのもおぞましい悪魔たちだ。


角が生えていたり、翼が生えていり、牙が生えていたり、体が腐っていたり、羊や牛の頭をしていたり、いろんな種類の悪魔がいるけど、あいつらは悪魔だ!

なんでそう思うのかは分からないけど、直視できないほどの恐怖感がある。

本能が逃げろと警鐘を鳴らし、絶えず焦燥感にかられる。

僕の全身の細胞が、あいつらは悪魔だと言っているんだ。


そもそも、なんで僕はこんな場所に来てしまったのか。

施設の園長に買い出しを命じられ、嫌々ながら街に出て買い物を済ませ、重い荷物を引きずりながら帰途に着こうとしていた矢先、目の前が一瞬真っ暗になって、再び目が見えた時には、魔界にいた。



なんで?

どうして?



考えても考えても分からない。

でも、何かを考えてないと頭がどうにかしてしまいそうだった。


あいつらは怖い。

とにかく怖い。


その姿の一部を見ただけでも、全身に鳥肌が立つ程に、あいつらは怖かった。

ジェットコースターに乗っている時のような、足とお腹の中が浮かび上がる感覚。

高い所から落ちそうになった時の、ヒヤッとした感覚。

それらがずっと続く感じ。

身がすくみ、足が震える。

涙を流して叫び出したくなる。


そんな自分を押さえ付けるように、僕は思考を続けた。

突然、悪魔だらけの魔界に来てしまった理由を。

考えても考えても分からないことなんて分かってるのに、それでも僕は考えることをやめられなかった。

思考をやめた瞬間、あいつらがいっせいにこっちを向いて、襲いかかってくるような気がして、それを考えるだけで全身が震えてしまう。

だから、僕は何とか思考をやめずに他のことを考えようと、ただただ何かを考え続けた。


最初に転移したのが、どこかの家?の物置みたいな所で良かった。

2階建てのその建物は中に誰もおらず、入り口の扉には鍵がかかっているようで開かなかった。

当然、そこもよく分からないおぞましい見た目で、中に置いてあるものも、何なのかさえ分からない、おどろおどろしいものしかないのだけど、今にして思えば、あいつらがいないこの場所で良かったと、心底思える。


2階には窓があり、外を見ることが出来た。


そして、僕は見てしまった。


悪魔たちを。


それを見た瞬間、僕は大声で泣き叫びたくなった。

でも、僕の全身が声を出しちゃダメだ!と強く主張してきて、両手が勝手に口を塞いで、僕の喉はかろうじて声を出すのを堪えた。



直視はできないけど、視界の端にぼんやりと映すぐらいなら、その恐怖心をだいぶ和らげることが出来た。


あいつらはたくさんいた。


窓の外には街のような光景が広がっていて、あのおぞましい悪魔が、まるで渋谷や池袋の喧騒のように、大量に闊歩していた。

あいつらは互いに、口々に何かを話していたが、その言葉を聞き取ることは出来なかった。

距離的な問題というわけではなく、まったく聞いたこともないような言語を発していたからだ。


そして、その声もまた恐ろしい。


心臓をそのまま鷲掴みにするかのような、まさに地獄の底からの声だった。



しばらくして、僕は見た。


見てしまった。



それは人間だった。



始めは、視界の端っこ。

建物の陰に、なんだか安心するような感覚を覚えた。

こんなおぞましいものしかない魔界で、まさかそんなと思い、それでもわずかな希望にすがりたくて、その感覚の出処を、懸命に探した。


そうしたら、建物の物陰、置かれた箱のようなものの後ろに、見慣れた人間が隠れていたのだ。

その人を見た時、僕は心底安堵していた。



僕だけじゃなかった!



その事実は、こんな絶望的な状況に置かれた僕の、唯一の希望となった。


隠れていたのは、僕と同じぐらいの背格好の学生だった。

年齢も、たぶん同じぐらいだろう。

なぜ学生だと分かったのかと言うと、詰め襟の学生服を着ていたからだ。


彼はがたがたと震えているのが遠目にも分かるほどに、たいそう怯えた様子だった。



分かる。

分かるよ。


怖いよね。

あいつらは、とてつもなく怖いよね。


ああ一緒だ。

彼も僕と同じで、あいつらに怯えて、震えているんだ。


今すぐに駆け付けて、怖いよね怖いよねって、お互いに抱き締め合いたい。

飛び付いて、手を取り合って、大声で泣き合いたい。



でもだめだ。



そんなことをすれば、僕も彼もあいつらに見つかる。

それどころか、彼のもとにたどり着く前に、僕だけ見つかってしまうかもしれない。


そんなのは嫌だった。


あいつらに見つかったらどうなるか、分かっているわけじゃない。


それでも、

あの姿で、

あの目で、

僕のことを直視されたら、


そう考えただけで、体が震えてくる。


僕は今にも駆け出したい衝動を必死に抑えた。

太ももに爪が食い込むほど、ぎゅっと握り締めた。


今はまだ、だめだ。


あんなに悪魔がたくさんいる中に出ていくなんてだめだし、嫌だ。


僕は何度も何度もそう思って、何とか震える足を抑え込んだ。

足は震えすぎて、もはや膝から下の感覚が感じられなかった。



「えっ?」



自分を抑えるのに必死になって、一瞬、彼の姿を見るのを忘れていた。



その一瞬。



そのわずかな時間、彼から目を離しただけで、彼はそこからいなくなっていた。


そして、彼がいた場所に代わりにそこにあったのは、ボロボロになった、彼の上着だった。


その詰め襟の学生服は、右の袖が肘の所で破られてなくなっていて、ボタンはほとんど弾け飛び、


そして、


大量の血が付着していた。




見付かったんだ!


彼は、あいつらに見付かってしまった!




そして、僕が目を離したほんの一瞬のうちに、引き裂かれ、どこかに連れ去られてしまった。



そんな。


ようやく出会えた希望が、一瞬で絶望と交換させられた。


そして、あいつらに見付かったらどうなるのか。

その答えを、僕は知ってしまった。



怖かった。


今までも、かつてないほどに怖かったけど、

その怖さが、現実を突き付けながら、さらに僕を恐怖と絶望に突き落とした。


あいつらに見付かったら、ああなる。



その恐怖に押し潰されて、僕の頭は考えるのをやめた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ