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命題・勇者は魔王を倒すべきか?  作者: 安堂C茸
03  忘憂の魔王
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03-07  目指せ湯けむり

 〈魔王水晶〉の探し方は大きく二つある。

 魔王の座標を観測できる〈大水晶〉という、〈魔王対策室〉が秘匿する謎の存在があるのだが、〈大水晶〉は〈魔王水晶〉の座標も観測できるらしい。

 よって、王城にあるそれの座標情報を共鳴盤、という耳飾り風の伝声器を通して得るのがひとつ目の方法である。

 ただし、この座標はいささか精度に欠けるため、細かい場所に関しては人が足で探す必要がある。


 もうひとつは、〈魔王水晶〉が光るという機能を利用した方法だ。〈対策室〉の所持する〈御玉鎖〉を光らせれば、その本体である〈魔王水晶〉も同様に光り輝く。

 勇者は基本的に配布されたひとつの〈魔王水晶〉しか光らせることが出来ないが、〈対策室〉は魔王が存命している〈水晶〉であれば、どれでも光らせることが出来る。


 あとは謎の光が見えた場所に赴いて、もし人が所持していたのであれば、「怪しい道具はこちらで預かります」と公務員の特権を用いて謎多き〈水晶〉を手に入れれば任務完了だ。

 ただし、〈先鋭〉の時のように〈水晶〉を光らせただけでは譲渡を渋る商人もいる。そのような場合は、口で交渉するしか手段はない。

 とはいえ、〈水晶〉を光らせて親鳥を追っ払ってから入手した〈旁魄ほうはく〉の例もあるため、状況に応じては有用な手である。


 そしてこの方法は、〈水晶〉が近くになければ光らせても空振りで終わってしまうため、〈御玉鎖〉を光らせるのであれば、前述の座標付近に近づいてから、というのが定番である。


「ですが、〈充溢じゅういつ〉は魔王と〈水晶〉の座標が近すぎますね。下手に光らせても、〈御玉鎖〉の光量で目が眩む可能性は高いかと」

「そうだね。たまには地道に聞き込みすることも大事だよ、イアニィくん」

「私は効率が良いと思った手段を実行するだけですよ」


 そう語ってイアニィは上司との会話を終了させた。

 〈大水晶〉からの座標情報を聞いたイアニィは、現在地から近いほうの〈魔王水晶〉を次なる目標とした。すなわち〈充溢の魔王〉の〈魔王水晶〉である。


 東西に伸びる横長の王国は大きく三つ分割出来る。

 王都を含む東部、大河と山脈に挟まれた中央部、水都が在する西部。

 今回イアニィとサナーリアが〈先鋭〉の〈魔王水晶〉を回収した街は、ちょうど東の端に位置していた。幸い、中央部へ渡るためのいくつかの橋は無事だったため、次なる目的地へはすんなりと向かうことが出来そうだった。


「起きたらホッポに向かいますよ。〈充溢〉の〈水晶〉探しに行きますからね。じゅういつ、ですよー。聞こえましたか? 起きましたか、サナちゃーん?」

「んぬぅ……おきたぁ」

「はい。ではさっさと着替えてくださいネ」


 寝ぼけ眼のサナーリアにそれだけ告げたあと、自室でテキパキと身支度を整えるイアニィ。


 宿の部屋の鍵は彼が預かっているため、朝が早い日はイアニィが彼女の部屋に入って叩き起すのである。朝に弱いサナーリアは、戸を叩くだけではすぐ二度寝を決め込んでしまうため、いつの日からか定着した荒療治だった。


「二年の歳月で学習しないものなんですかねえ」


 自室にある水差しから水を注ぎ、喉を潤わすイアニィ。

 荷物はまとめ、身なりも整えた。

 あとは、部下が目覚めて怒鳴り込んでくるのを待つばかりだ。


 何故怒鳴り込んでくるかといえば、彼女は毎度毎度、勝手に部屋に入ることに腹を立てるからである。内側から鍵がかけられるから代わりに管理しておいて、とイアニィに鍵を託すことを毎度律儀に忘れているらしい。あるいは、今回こそは自力で起きると意気込んでいた気もするが、いずれにせよ成功した試しはない。


 考え事をしながら窓の外を見つめていると、ドタドタという慌ただしい揺れが響いてきた。大方サナーリアが部屋の中を走り回っているのだろう。

 ご立腹になると勇み足になるのは分かりやすいが、宿屋に損害賠償を払うような事態は願い下げである。

 部下の来襲を悟ったイアニィは、残りの水をぐいと飲み干すのだった。





 ホッポは中央部の北東に位置する村だ。

 商工に強い東部や水産に強い西部と比較すると、中央部にはブランドめいた特徴はない。強いて言うならば、山越えや川越えを見越した宿泊施設や装備の提供を行う街が多いが、いずれも中規模程度である。


 イアニィらは王都の〈魔王対策室〉所属であり、東部と中央部の〈魔王水晶〉回収を行う。西部に関しては水都の〈対策室〉が担当しているため、報告書と〈水晶〉は郵送で受け取る。

 山越えのコストを見越した上での割り振りらしいが、効率化厨のイアニィとしては中央部の〈対策室〉でも回収を行うべきではないかと考えている。


 シェタボラという、中央部の大都市に置かれている支部は主に復興支援を行っているため、魔王関連の雑務は対象外なのだ。数年前までは魔王関連の仕事を手伝ってくれたらしいものの、どうやら一悶着あってからは、担当から退いたらしい。


「うへぇ、めっちゃ田舎じゃん」

「おや、ホッポは初めてでしたか?」

 

 馬車と街を乗り継ぐこと数時間。

 両足で地面にぴょんと着地したサナーリアは、ホッポを一瞥したあと肩を落とす。

 過去に宿泊目的でポッポを訪れたことのあるイアニィは、記憶の中のそれと今のポッポを照らし合わせた。


 中央部の北部は辺境という名が良く似合う。直線距離だけで言えば東部のグラジークに近いが、山間部に面しているホッポは、村の周辺に岩石がちらついている。

 作物が育ちにくい土壌らしく、緑は少ない。どちらかと言えば岩石の灰色の割合と土の赤茶色が強いため、干からびているとも形容出来る。


 だからこそ、ぽつぽつと点在する民家の隙間を縫うように立ち上る白い煙は異様に目立った。

 その正体は、過去にイアニィが訪れた際にも立ち寄った、中央部でも珍しい温泉である。


 そこまで見届けてから、イアニィは数年前と変わらぬ村の姿を再認識した。

 対するサナーリアは、イアニィの問いに答えるべく、視線はまっすぐ前に向けたまま口を開く。


「知識として知ってるのと、実際に訪れるのじゃ違うでしょ」

「ですが、王国にある半分以上の市町村は村です。新たに訪れる度に、田舎田舎と騒ぐのは飽きませんか?」

「義務でやってんじゃないっつの!」


 ガタガタ揺れる馬車ですっかり目の覚めたらしいサナーリアは、威勢よくイアニィを睨みつける。

 朝が弱くとも、毎朝きちんと髪をお団子にまとめあげる生真面目さはイアニィへは向けられない。いつだってイアニィに贈られるのは罵詈雑言である。


 軽い調子で会話を流しながらイアニィが向かったのは村の役場だった。横に長いけれど、それ以外は大して主張する意匠のない簡素な木造の建屋である。


 〈魔王対策室〉は魔王が発生した際、近隣の市町村に対して注意喚起という名の周知活動を行う。つまるところ貼り紙を貼って、近隣で魔王が観測されましたと警告するのだ。


「ツァラルさん曰く、〈充溢〉の位置は効果検証の時から殆ど変わっていないそうです」

「朝話してたのってそれですか。でも〈充溢〉の効果検証って、三十年くらい前じゃないっけ」

「よく覚えていますね。流石です、サナちゃん」


 条件反射のようにサナーリアを褒めれば、銀髪の部下は舌を出して顔だけで嫌悪をアピールした。


 魔王が発生したあと、〈魔王対策室〉は〈魔王水晶〉という魔王を探す小道具が正しく機能するか、その効果を検証する。つまるところ、魔王の近くまで接近して、〈水晶〉が魔王を正常に指し示すかを確認するのである。


 けれども、このホッポという村に近い場所に居座っているという〈充溢の魔王〉は、三十数年経っても、依然として移動をしていない。

 にも関わらず、ポッポは一見した限りでは平和な村そのものである。

 本来、魔王は生きているだけで被害を振りまく災害とも言える存在なので、近隣の村が平和であること自体怪しい、と語ったのはイアニィの上司だ。


「歩行機能のない魔王は珍しくありませんが、現時点で村に被害がないことを考えると、〈充溢〉と勇者は何らかの接触があったものと考えられます」

「今探してるのは〈水晶〉じゃん」

「勇者は何を探すかお忘れですか?」


 魔王と〈魔王水晶〉の場所が近いということは、勇者は魔王を追ってこの村まで訪れたということである。ただの偶然で〈水晶〉だけが魔王の近くに移動するのも考えにくい。


 〈魔王水晶〉は、しばしば魔王討伐に挑んだであろう現場から発見されることも多い。

 故に、魔王付近は最も〈水晶〉が発見されやすい場所とも言えるのだ。


「じゃあ何。村の人と〈充溢〉と勇者は裏で手を組んでたってこと?」

「効果検証自体、随分前ですからね。無害を確認した上で隠匿していると考えるのが妥当でしょう」

「勇者は寿命で死んでも墓を荒らされるってワケね」


 むくれるサナーリアを無視して役場の戸を開けるイアニィ。先にどうぞと手で促れば、サナーリアは鼻を鳴らしながら室内へ入る。言葉こそ険悪だが、行動は存外素直なので、扱いやすい。


 室内の掲示板には、先ほどイアニィが語ったように、〈対策室〉が作成した〈充溢の魔王〉に関する色あせた注意喚起の貼り紙が貼られていた。

 ここまで放置されていると、村民の危機感もあったものでは無いなと、イアニィは役場の職員へと視線を向ける。気配を察した男の職員が顔を上げたので、そのまま片手を上げて語りかけた。


「ひとつ聞きたいのですが。この村に、変わった名所なんてところはありますか?」

「観光かい? んなら、アレだな、温泉だな」

「温泉……ですか」


 初めて訪れる旅人を装って、歯切れ悪く返答するイアニィ。

 サナーリアに関しては全く人と話す気が起きないらしく、きょろきょろと貼り紙を探しては、それの文章に目を通している。


「んだよ、温泉だよ。山脈の近くだからか、数年前から湧いたみたいでな。今じゃ隠れた秘湯ってとこさね」

「なるほど。良い情報をありがとうございます。さあ行きましょうか、サナーリア」


 間延びした語りをする職員に軽く頭を下げ、踵を返すイアニィ。

 声がけをされた部下は、返事をすることなく上司に続いて役場を出る。


「ここ、温泉あるんですね。そりゃ珍しいかもしれないけど、〈水晶〉に関係あんのかな」

「サナちゃん、〈充溢〉の特徴は覚えてますか?」

「虫みたいなヤツで全然動かない。張りついてた木には黒いシミが出来ていた。何らかの劇物を吐き出すか、植物の養分を吸い取る能力があると予測される」

「ありがとうございます」


 活字好きな部下は、ひとたび尋ねれば、報告書の内容をすらすらと暗唱する。イアニィ自身も軽く魔王の報告書に目を通してはいるが、正確さをとるのならば、サナーリアに確認をとる方が確実だ。


 すたすた歩くイアニィに並んだサナーリアは、考え込む上司を無言で見つめる。

 行き先はもちろん、先ほどの男性から教えてもらった村の名所――白煙揺らめく温泉、もとい風呂屋である。

 そのことを理解しながらも、突然口を閉ざしたイアニィに説明を求めるかのように眼圧を強めるサナーリア。


 視線に気づいたイアニィは、軽く息を吐いて人差し指を立てる。


「そうですね。まずは温泉に行きましょうか、サナちゃん」

「……だから、なんで」


 イアニィが名所を尋ねたのは、魔王の能力が災害以外のカタチで村に現れていることを仮定してのものだ。それはサナーリア自身も理解している。


 けれども、先ほどサナーリアが語った報告書の内容と温泉では噛み合うものがあるとは考えづらい。

 正しくは、何らかの物質を放出しているという点では関与している可能性があるが、魔王の出した物質入りの湯を名所として売り出せるものなのかが疑わしい。


 サナーリアはイアニィのことを好いてはいないが、能力は評価している。故に、なんの理由もなく温泉に行こうなどと、この糸目男が言い出すのは不自然極まりないと感じていた。


「ここ、混浴があるんですよネ」

「変態かっ!」


 いつもの調子でけらけらと笑うイアニィの真意をサナーリアが見抜くことも無く、二人はぎゃあぎゃあといがみ合いながら風呂屋の奥へ消えていった。

 

 

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