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『腫れ物扱いの先輩が、私には優しい』  作者: もんじゃ
二人の恋物語から数年後②
242/251

夢旅⑤


 娘の燕がかけ湯をしてから私達が入る露天風呂に入ってきたので、仕方なく私は主人の顔をタオルで覆い、後ろで縛って目を隠した。これで見えないだろう。

 

 「まったく、お母さんったら隙をみてはすぐにお父さんとイチャイチャする!」


 「……何で燕がここに?」


 「夜中に目が覚めたらお母さんが隣に寝てないんだもん!どこか徘徊してるんじゃないかって心配になるよ!」


 「徘徊って……そんな大袈裟な」


 「……お母さん、お酒飲んだときの記憶あるの?」


 「……無いです」


 「……お父さんの浴衣をはだけさせて、胡座をかいているお父さんの太ももに座ってお父さんの浴衣で中から自分を覆って『二人羽織』とかやっていたこと覚えてないの!?お父さんの浴衣の中から腕を通して『あーん』とかやってたことも!」


 「そ、そんなことしてません!」


 「……いや、蛍。本当だ」


 そんな、主人まで冗談を言って……冗談ですよね?ははは……


 「……そんな冗談は置いといて、何で燕がお風呂に入ってきたの?」


 「心配してお母さんを探してたら、呑気にお父さんとお風呂に入ってるんだよ?それは私も入るよ!」


 年頃の娘が父親とお風呂にはいるなんて恥ずかしくないのか?この娘はそういうところが不思議だ。


 「……なぁ、俺はずっと風呂に入っていたからそろそろ出たいんだが……」


 「だ、駄目です!年頃の娘に変なところが見えちゃうでしょ!」


 「お母さん!変なところって言い方は何よ!私の故郷だよ!」


 「年頃の娘がそんなこと言わないの!」


 そんなやり取りの後、結局、主人は仕方なく我慢して湯船の中にいることになった。娘の燕は私や主人と一緒にお風呂に入ることになって何故かしら嬉しそうだ。


 「そういえば、創ちゃんはどうしてるの?」


 私がそう燕に尋ねたら


 「創?寝てたから起こさなかったよ」


 「創ちゃんだけ仲間外れになっちゃったけど良いのかしら……」


 ☆☆☆☆☆


 そんなことを家族達が言ってるとは露知らず、真夜中に目が覚めた創は布団に潜りながら携帯電話をいじっていた。


 「……夜中に露天風呂に入ろうかなと思っていたら考えることは皆同じだったか……」


 さすがに家族が皆入ってるなかに自分もお邪魔する勇気はない。昨日、男湯に入ったときに思い知らされた。子どもの頃から父さんは大きいなと思っていた、でもそれは大人だからだとずっと思っていたのだが、それは間違いだった。昨日の男湯でやっぱり父は偉大だったと思い知らされたのだ。


 「……あの中に入っていって、母さんと姉さんに父さんと比べられて格付けされたら俺の家族内の立場が……」


 あんなものと比較されたらたまったものじゃないと、今は寝ている振りをして、明日、父さんとは時間をずらして男湯に行こうと決めたのだ。


 ☆☆☆☆☆


 「……もう、私達が先に出ましょう。ほら、燕、行くわよ」


 「えーっ、お母さん、お先にどうぞ!」


 「駄目!それじゃ、あなた、見ちゃ駄目ですからね!」


 「はい、はい」


 そう言って、妻の蛍が娘の燕を引き摺ってお風呂場から出ていった。目を覆っているタオルの隙間からそんな二人を見送り


 「ふふっ、小柄な蛍と背の高い燕。二人は似てない母娘って良く言われるけど……お尻の形はそっくりだな」


 そんな誰にも言えない感想を独り呟きながら、またどこかに家族旅行に行こうと露天風呂の中でその家の主人は考えていた。

 

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