第28話
「お湯が出ない……参ったな」
俺の下宿の浴室に取り付けられているシャワーからお湯が出なくなった。大家さんに修理をお願いしたがすぐには直してもらえないらしい。困ったので隣の部屋の先輩にシャワーを貸してくれないかと尋ねたら
「シャワーからお湯が出ない?そんなの俺の部屋のもそうだぞ?」
マジか?それじゃ先輩はどうしてるんですか?と尋ねたら
「銭湯があるぞ」
どうやら近くの銭湯に通って済ませていたらしい。なるほど、その手があったか。
という訳で俺も銭湯に通うことにした。
昔ながらの形の銭湯の男湯の暖簾を潜ったら、番台にほんわかとした若奥様という感じの女性が座っていた。
「あら、初めてかしら?」
「はい」
「それじゃ、先にお金を頂いて、こちらの『33』番が貴方の番号になります。そこのロッカーを使ってくださいね」
「……どうも」
……見た目は普通の、ちょっと柔らかそうな体型をした女性なんだけど、どうして胸元に双眼鏡をぶら下げているんだろう?
ちょっと気にはなったが、背には変えられず裸になって浴場に入っていった。良い湯だ、たまにはこういう広い湯船も良いなとのんびりと過ごした。
すっきりとして脱衣場に戻って、銭湯と言えばコーヒー牛乳かなと番台の女性に小銭を渡そうとしたら
「おめでとうございます、貴方が新たなる王者、暫定チャンピオンよ!コーヒー牛乳はサービスするからねぇ」
とニコニコ笑いながらコーヒー牛乳を渡してくれた。暫定チャンピオンってなんだ?と思ったが何かのサービスなのかと思ってありがたくコーヒー牛乳はご馳走になった。番台の所にホワイトボードがあり、『33』が一番上に書かれていた。
☆☆☆☆☆
翌日も同じ銭湯に行った。昨日と同じ女性が番台にいて
「今日は『13』番のロッカーを使ってくださいね」
と鍵を渡されたので素直にその番号のロッカーを使い、浴室に向かった。何故だか他の客からの視線が気になった。「あれが暫定チャンピオンか……」とか言っていたのは何だったんだ?
浴室から出て着替えて番台に、今日はフルーツ牛乳を買おうとしたらやはり番台の女性が顔を赤らめながら
「はい、これはサービスです。これからもこの銭湯を利用してくださいね?チャンピオンさん」
と、そんなことを言われフルーツ牛乳を渡された。チャンピオンさんって何だ?渾名か?因みに、今日はホワイトボードの一番上には『13』と書かれていた。
☆☆☆☆☆
銭湯生活三日目に訪れたら番台には友人の神宮寺の母親、神宮寺 夜風さんが座っていた。
「あらあら、新星が現れたと聞いたから来てみれば睦月様だったのですね?ふふ、流石、私達母娘が見込んだ殿方ですわ!えっ?どうして番台に座っているかって?ふふ、ここの奥さんは私の武術の教え子なんですの。ご立派なお宝を所持されている殿方が現れたと聞いたので拝見しに来たんですわ!さぁ、早く脱いで、お風呂に!あぁ、宜しければお背中を流させていただきますわ!あれ?睦月様?どうして帰ろうとするの?ま、待って、待ってくださいぃ」
残念ながら、もうこの銭湯には来ることが無いだろう。




