第2話 3/1 ケンジ
3/1(日)
今日は、ひたすら結婚式がキャンセルになった電話をかけ続けている。
部屋に置いてある鏡に映る自分を見る。
ラベンダーアッシュの色をした髪は、艶がなくなってぼさぼさになっていた。
うう、ひどい顔……。化粧も落とさずに寝ちゃったから、一夜にして肌がぼろぼろになってしまった……。元に戻すのは、大変だというのに……。
今日は、もう家から出る気がない! というか、出れない! 出る時間がない!
とにかく電話参り!
というわけで、今日は楽な恰好で過ごすことに……。
白い地厚の生地で出来たフーディに、軽い素材で出来たミントグリーンのシフォンスカートを合わせる。
フーディが、人恋しい私を温めてくれているわ……。
そうこうしていたら、スマホが光っていた。
親友のユリからの電話だ。
『もう、変な男だったね! 次行こう、次! 結婚式場のキャンセル代とかは、全部相手持ちなんでしょ? 慰謝料、いっぱいせしめようよ! それで、最近できた噂の高級レストランに一緒に行こう!』
「行こう、行こう! 今日は、せっかくの日曜日なのに、ずっと結婚式なくなりましたって、電話かけてばっかり! 電話のたびに理由を聞かれるけど、振られた理由とか言いたくないし! もう、本当に嫌になっちゃう~~!」
『なんか、彼氏にいい人いないか聞いてみるから、元気出して、ね!』
ユリは、高校時代からの親友だ。いつも恋愛の相談なんかにのってくれる。
はあ、ユリは彼氏と仲が良さそうで、本当に羨ましい。
昨日までは、私も幸せ気分だったのに~~。
本当に、一日違うだけで、天と地の差だよ~~。
ユリとのスマホを切る。
なんだか、身体がぎしぎしすることに気づいた。
そう言えば、昨日は、命からがらマンションに帰って来たんだった。
あまりのショックで、玄関先で寝ちゃってたから、身体のあちこちが痛い。
はあ、マンションの管理人さんにも声をかけなきゃ。明日また電話かけようかな。
「はあ、どこかにいないかな、私の運命の王子さま……」
ため息をついていると、またスマホが光る。
登録のない電話番号だ。
出るのやめよっかな。
あ~~、でも、大事な用事かも。
とりあえず、スマホの画面をスライドさせて電話に出ることにした。
「もしもし。どちらさまですか?」
「お! マドカ、久しぶり~~、俺だよ、俺、ケンジ!」
なんと、出て来たのは、中学時代に付き合っていたケンジだった。
話を聞くと、結婚式に呼んでいた女友達から、私が破談になった話が回って来たらしい。
地元は、噂が回るのが早いな!
同窓会に行きづらいわ!
ケンジが、話を切り出した。
「マドカ、良かったら、火曜日に会わないか?」
「え?」
「嫌だったら、いいんだけど」
「う~~ん、そんなに言うなら、会ってもいいかな?」
と、いうことで、火曜日に元カレに会うことになりました!
とにかく、誰かに話を聞いてもらいたい!
私、幸先良いのかな?
あれ? まさか、ケンジが私の運命の王子さまだった……?!
少しだけ、元気が出て来たかも~~。
と、いうことで、明日の職場、考えるだけで憂鬱だけど、なんとか頑張っちゃうぞ!