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第98話 スフィーダの美女論。

       ◆◆◆


 女は椅子に座ると、極端なまでに細く、目を見張るほどに長い脚を組んだ。


 エミーというらしい。

 今は無職だという。

 複数の男に金を貢がせて生活しているとのこと。


 なるほど。

 確かに美人だ。

 シャープな目をしており、鼻筋も通っている。

 黒いジャケットスタイルもビシッとしていてカッコいい。


「して、エミーは何用で参ったのじゃ?」

「葉巻」

「は?」

「葉巻、吸ってもいいかしら?」

「灰皿はないのじゃ。遠慮してもらいたい」

「わかった。我慢するわ」


 男にちやほやされているせいだろうか。

 横柄な態度である。


「陛下に褒めてもらおうと思って、謁見の申請をしました」

「褒める? なにを褒めればよいのじゃ?」

「ほら? 私って、綺麗でしょう? 途方もなく綺麗でしょう?」

「まあ、それは認めるところではあるが……」

「じゃあ、褒めて」

「エ、エミーは美しいぞ」

「もっと」

「エミーはスゴく美しいぞ」

「もっともっと」

「エミーはそれはもう美しいぞ」

「それだけ? 似たようなことしか言えないわけ?」

「む、むむぅ……」


 やはり横柄だ。

 連続的に無礼を働いてくれる失礼な女だ。

 なのになぜか頭には来ない。

 ここに来て自分は成長したのかもしれないと、スフィーダは自らのことを前向きに評価した。


「エミーよ」

「はい?」

「やはりその、複数の男と寝るのか……?」

「なに? 私のこと、軽蔑しようとしてる?」

「ち、違うぞ? 興味で訊いてみとるだけじゃ」

「寝ないわよ」

「へっ? そうなのか?」

「そうよ。だって、セックスに応じてやる必要なんてないもの。応じてやらなくても、金は寄越してくれるもの」


 セックスという単語が出てきたのでドキッとしたが、スフィーダはコホンと一つ咳払いをして、態勢を立て直す。


「金に困らないことはわかったが、ただ貢がれる生活など楽しいのか?」

「楽しいわよ。常に優越感に浸っていられるじゃない。男って本当に馬鹿よ。舐めろって言ったら、靴でも舐めるんだから」


 まさに悪女だ。


「ほら、スフィーダ様、もっと褒めてよ。私よりイイ女なんていないって言ってよ」

「う、うむ。そうじゃな。エミーより美しい女など、わしは見たことが――」


 そこまで言ったとき、スフィーダは続きを述べるのをためらった。

 エミーが眉間にしわを寄せ「なによ、さっさと褒めなさいよ」と急かしてくる。

 しかし、言うことを聞くわけにはいかない。

 なぜなら……。


「のぅ、エミーよ」

「だから、なに?」

「わしはそなたより美しい女を知っておるぞ?」

「なっ!」


 そんなわけないでしょ!

 椅子から腰を上げ、そう声を荒らげたエミーである。


「だ、誰よ、それ! 名前を言ってみなさいよ!」

「ヴァレリアというのじゃが」


 そう。

 スフィーダの中での美女ランキングトップは、なにを隠そう彼女なのである。

 フォトンをめぐっては恋敵に近い間柄ではあるものの、嘘をつくわけにはいかないのである。


「私以上に顔立ちが整っているっていうの!?」

「そうじゃ」

「で、でも、体なんてたかが知れてるんでしょ? ちゃんと見てよ、スフィーダ様。私のこの完璧なボディを」

「えっとじゃな」

「な、なによ。異論があるわけ?」

「そなたのような体つきを、一般的にはスタイルがよいというのか?」

「そ、そうに決まってるじゃない」

「ふーむ。そうなのか」

「なによ。言いたいことがあるならはっきり言いなさいよ」

「ならば、申そう。エミーよ、わしが言うのもなんじゃが、そなたは胸がぺったんこではないか」

「なっ!?」


 大きく目を見開いたエミー。

 ヨシュアがクスッと笑った。


「それに、尻の肉づきも寂しく映るぞ?」

「な、なに言ってるのよ。スマートなほうが美しいに決まってるじゃない!」

「わしはそうは思わんな。メリハリボディが理想じゃろう。そのほうが女性的と言えるからの」

「そんな女に寄ってくる男なんて、みんなヤリモクよ!」

「ん? ヤリモクとはなんのことじゃ?」

「ヤるのが目的だってこと! セックスしたいだけってこと!」

「セ、セックス言うな。もう少しソフトな表現を――」

「私の美貌に比肩する女なんて、いるはずがないわ!」

「まあ、わしも私見を述べているだけではあるが」

「ヴィノー様はどう思われますか? っていうか、どう思っているの?!」

「おっと。ここで私に話を振りますか」


 今日も泰然自若のヨシュアである。


「私も陛下と同じ意見ですね」

「ななっ、なんですって!?」

「私からすると、貴女にはまるで用がありません」

「ヨ、ヨシュアよ、それは言いすぎじゃ」

「そもそもです」

「ま、まだなにかあるの!?」

「ええ。そもそも、心が清らかではない女性に、私は魅力を感じません」

「わ、私の心は汚いっていうの!?」

「残念ながら」

「き、きぃぃぃぃぃっ!」


 エミーは金切り声を上げ、その場で地団太を踏んだ。

 そして「スフィーダ様の馬鹿! ヨシュア様の阿保!」と暴言を吐き、肩を怒らせ去っていった。


「ちょっと、かわいそうじゃったかの?」

「いえ。天狗の鼻はへし折って差し上げないと。彼女のためにもなりません」

「それはそうと」

「なんでしょう?」

「クロエはスレンダーじゃな?」

「実は着痩せするタイプなのでございます」

「そ、そうなのか?」

「はい。おかげで楽しんでおります」

「たた、楽しむ?」

「詳しくお聞きになりますか?」

「い、いや、やめておくっ」


 相変わらず、エッチな話題にはめっぽう弱いスフィーダなのである。


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― 新着の感想 ―
[一言] まあメンズキラーには色んなかたちがありますからね。なまじ『見た目の美しさ』というジャンルで成功している分、不安があったんじゃないでしょうか。 『甘え上手』とか或いは『床上手』とかで魅了するタ…
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