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第94話 結果オーライ。

       ◆◆◆


 後日、ハルとナナリーが訪ねてきた。

 椅子には座らず、並んで立っている二人は、のっけから顔が真っ赤である。


 ハルが「あの……」と照れくさそうに口を切り、「一応、報告に来ました……」と続けた。

 するとナナリーが「私は嫌だって言ったんですから!」と声を大にした。


「で、ですが、お嬢様、スフィーダ様にもヴィノー様にも、相談にのっていただいたんですから」

「だったらなんだって言うのよ! っていうか、お嬢様って呼び方、やめてって言ってるでしょ!」

「ナ、ナナリー様……」

「様は要らないわよ!」

「ナ、ナナリー」

「呼び捨てにするんじゃないわよ!」

「え、えーっ……」


 ハルが困るのはもっともだ。

 まったくナナリーというおなは、極端なまでに扱いづらいらしい。


「ハルの馬鹿っ! ちゃんとあいだをとりなさいよ、あいだを! ナナリーさん、でしょ! ところでヴィノー様!」

「なんでしょう?」

「奥様と別れるようなことがあれば、すぐに教えてください! ナナリーがすぐさま妻となりますから! よき妻となりますから!」

「前向きですね」

「一度きりの人生なのですから、後ろを向くのはよくありませんわ!」


 非常に面白いセリフ、言い回しである。

 そしてそれは、真理でもある。

 だが、大声でのたまうことでないとも思うのだ。


「ナナリーよ」

「なんですか、スフィーダ様!」

「まずは声が大きいのをなんとかしてくれんか?」

「まあ! まあ! スフィーダ様は私がうるさいとおっしゃるの!」

「違いますよ、ナナリーさん」

「ヴィノー様はナナリーと呼んでください!」

「そうでしたね。では、ナナリー」

「はい!」

「貴女は静かなほうが素敵ですよ?」

「そ、そうなんですか?」

「ええ」

「ヴィノー様がそうおっしゃるなら……」


 途端に俯き、もじもじし始めたナナリーである。


 スフィーダは思った。

 確かに、静かにしていればかわいい、と。

 いや、つんけんしているバージョンも、愛らしくはあるのだが。


 ハルが改めて「あの、報告です」と言い、ヨシュアが「ええ」と返した。


「まずはお付き合いからということで、ナナリーさんのご両親に認めてもらうことができました」

「それはよかったですね。なによりです」

「はい。えへへ」

「えへへ? 男がデレないでよ、気持ち悪い。馬鹿、死んじゃえ」

「え、えーっ……」

「ヴィノー様、椅子に座ってもいいですか?」

「いいですよ」

「あっ、じゃあ、僕も」

「庭師風情がなに言ってるのよ。ハルは立ってなさい」

「えーっ……」


 ダメだ。

 予想できたことであるとはいえ、すでにひどく尻に敷かれている。

 スフィーダは心の中で「耐えろ」とハルを励ました。


「ところで、お二人はもう、手はつながれたんですか?」


 ヨシュアがそう訊くと、ハルは「えっ!」と声を上げ、ナナリーに至っては、「そそそ、そんなわけないじゃありませんか!」と、どもりまくった。


「手をつなぐくらい、よいのでは?」

「なにをおっしゃるんですか、ヴィノー様! 手をつなぐなんて、口づけよりもあとの話に決まっているではありませんか!」

「だったらいっそ、この場で口づけを済ませてしまってはどうじゃ?」

「ススス、スフィーダ様! なにをおっしゃるんですか!」

「やってしまえば、手をつないで帰れるじゃろう?」

「だ、だからって……」

「おっ。少々、乗り気になってきたか?」

「わ、わかりました! いいです、いいですわ! スフィーダ様がそこまで、そこまでおっしゃるなら、ナナリーはここでハルと口づけをしてご覧に入れますわ!」

「えっ、で、でも、お、お嬢様っ」


 戸惑うハルをよそに、ナナリーは椅子から腰を上げた。


「ほ、ほら、するわよ、ハル」

「い、いいんですか?」

「いいって言ってるじゃない」

「そ、それじゃあ、その……」

「さっさと終わらせてよね」


 目を閉じ、顎を小さく持ち上げたナナリー。

 ハルに肩を掴まれると、彼女はビクッと体を跳ねさせた。


 口づけ。

 それはいいものだ。

 年齢なんて関係ない。

 見るほうもドキドキしてしまうのである。

 実際スフィーダも思わず玉座から身を乗り出してしまう。


 そして、二人の距離は近づき、ハルがナナリーの唇に唇で触れようとした、そのとき……。


「いやっ!」


 高い叫び声を上げて、ナナリーがハルの左の頬に右のビンタをかました。

 見るからに強烈な一撃だった。


「至近距離になってわかったわ! 体から草の匂いがするわ! 土の匂いもまじってる!」

「きょ、今日はまだ、庭の手入れをしてはいないのですが」

「もう染みついててるのよ! あー、もう最悪!」

「じゃ、じゃあ、やっぱりお付き合いは……」

「そ、そうは言ってないじゃない!」

「えっ?」

「口づけはお預け! で、でも、手くらいは、つないであげてもいいわ!」

「そ、それって順番が逆なんじゃ……」

「いいのよ。もう! さあ、さっさと帰るわよ!」


 ナナリーがハルの左手を右手で握った。

 グイグイ引っ張って、向こうへと歩いてゆく。


「赤ん坊が生まれたら、見せに来るのじゃぞーっ!」


 スフィーダがそう声を発すると、二人は振り返った。


 ハルの顔は真っ赤。

 一方、ナナリーは、きょとんとしたのち、笑ってみせた。

 それはとても晴れやかな笑みで、見ているほうまで笑顔にした。


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― 新着の感想 ―
[良い点] >スフィーダは心の中で「たえろ」とハルを励ました。 爆笑しました。 ナナリーちゃん、気性は少し強いかもしれないですがハル君のこと好きだったんですね。 どんなやりとりが二人にあったか知りたい…
[一言] 色々理不尽!www リア充め!ばくはつしろ!!
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