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全力女王!~気高き幼女は死神に見捨てられたのか?~  作者: XI


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第86話 ブランド品。

       ◆◆◆


 マチルダは「スフィーダ様には私の気持ちなんてわかりません!」などと、いきなりキレたのである。

 いや、もともと、いらだちをぶつけてくるような文句を並べ立ててはいたのだが。


「わ、わしは正論を述べているつもりじゃぞ? ブランドものが好きなのはわかったが、なにも生活に困るほど買いあさることはないじゃろう?」

「いつも同じものを身につけていると、ママ友に馬鹿にされるんです」

「そんなところで見栄を張ってどうするのじゃ。夫にとっても子にとっても、迷惑極まりない話ではないか」

「旦那はそうかもしれません」

「子は違うというのか?」

「かわいいママのほうが嬉しいに決まっているじゃありませんか」

「そんなことはないと思うのじゃが……。ちなみに、ブランドもののどこに魅力があるのじゃ? しょせん服は服、かばんはかばんじゃろう?」

「かばんとか言っちゃいます? バッグですよ、バッグ」

「呼び方などどうでもよい」

「スフィーダ様のドレスだって、実はブランドものだったりするんじゃありませんか?」

「ち、違うと思うぞ」

「思う? どういうことですか?」


 スフィーダ、かたわらに立っているヨシュアを見上げた。

 大きく腰を屈め、耳を寄せてきた彼に、彼女は「どうなのじゃ?」と、こっそり訊ねた。

 答えを耳打ちされた。

 いわく「ブランドものでございます。しかも特級の」ということだった。


 なんと、そうなのか……。

 途端に気まずさを覚えたスフィーダである。


「ねぇ、スフィーダ様、どうなんですか?」

「い、一応、ブランドものだそうじゃ」

「一応? 一応? そんなわけありませんよね? 女王陛下が着るものなんだから、それはもうそれはもう、いいブランドのヤツなんですよね?」

「い、いや、じゃから、それはその――」

「ダメです、もう。なにをおっしゃっても説得力皆無です」

「う、うぅぅ……。し、しかしじゃな、わしは数着しか持っておらんぞ?」

「数なんて問題じゃありません。あー、言いふらしちゃおうっと。スフィーダ様のドレスはメチャクチャいいブランドものなんだって。そしたら、人気もがた落ちになるでしょうねー。少なくとも、女はみーんな嫌いになりますよー」

「う、ううぅぅぅ……」


 ここでヨシュアが口を開いた。

 彼は「マチルダさん、ちょっとよろしいですか?」と話し掛けた。


「はい! なんですか、ヴィノー様?」


 マチルダは両手の指を組んで、目をキラキラさせる。

 スフィーダとしゃべるときとはまるで違う態度である。


「一つだけ、お聞かせください」

「はい! なんでも訊いてください!」

「確かに、買おうと思えば、陛下はたくさんのものを買うことができます」

「ですよね? ですよね?」

「ええ。しかし、だからといって、たとえば貴女は、女王になりたいと考えますか?」

「それは、えっと、なりたくない、かなあ……」

「賢明な方のようでよかったです。ここで安易になりたいとお答えになるようであれば、少々、軽蔑してしまうところでしたから」


 ヨシュアは、にこやかな笑みを浮かべた。


「そうです。陛下の立場は重責をともないます。自由だって制限されます。個人的に誰かと親しくすることも、原則、NGです。まず耐えられませんよ。フツウのニンゲンなら」

「じゃあ、逆に質問ですけど、スフィーダ様はどうして女王陛下をやっていられるんですか?」

「それはまあ、慣れてしまったからというのは否定できんのぅ」

「最初はキツかったですか?」


 スフィーダは苦笑を浮かべた。


「そうじゃな。今、ヨシュアが言った通り、自由がなくなってしまうことが、一番、残念じゃったな」

「でも、そうなることは、なる前からわかっていたんですよね?」

「もちろんじゃ」

「じゃあ、どうしてなったんですか?」

「ヒトのために生きたいと考えたから、引き受けたのじゃ」

「当時の政治家みたいなヒトに、ずっと見守ってくれって頼まれたってことですか?」


 まあ、そういうことになる。

 つぶやくようにそう言ったスフィーダの顔には、少々の苦笑が浮かんだ。


「飾り気なく言ってしまえば、人望に期待されたということじゃな。自分自身、不思議でならん。なぜ、わしのような人外が信頼されるのか」

「それはきっと、かわいいからだと思います。かわいいは大正義ですから」

「大正義の意味はよくわからんが……。わっはっは。そうか。かわいいか。そう言われると悪い気はせんのぅ」

「だから、私もブランドものを買い込むんです。かわいくありたいから買うんです」

「そ、そうやって話を蒸し返すのか」


 はあと深い吐息をついてみせた、マチルダである。


「実は、もうだいぶん借金もしちゃってるんですよぉ」

「ダメダメ路線まっしぐらではないか」

「あー、どうしよう。このままじゃあ、ホント、生活が立ち行かなくなっちゃいますよぉ」

「じゃからな、マチルダよ、何度だって言うが、ブランドものに固執するのはよしたほうがよい」

「もうそうするしかないですよねぇ」

「うむうむ、そうじゃぞ? 平凡が一番じゃ」

「平凡が一番かあ。今のスフィーダ様に言われると、グサッと来ちゃいます」

「子供はかわいいか?」

「なんですか、急に」

「親は子のために生きたほうがよい。それって尊いことじゃぞ?」

「そうかもしれませんねぇ。スフィーダ様にとっては、国とか国民とかが自分の子供みたいな感じですか?」

「うむ。その通りじゃ」

「どれだけ年をとっても加齢臭がしないとか、いいですよねぇ」

「い、いきなりなんの話をしておるのじゃ」

「ママ友に提案してみます。もう見栄の張り合いはよそうよ、って」

「おぉ。やっとわかってくれたか」

「はい。ここに来るときにお花屋さんの前を通ったんですけれど、そこで従業員を募集してました。面接、受けてみよっと」


 マチルダは椅子から腰を上げると、前で手を合わせ、きちっとお辞儀をして、上体を起こした。


「でも、スフィーダ様のドレスがブランド品だっていうのは言いふらしますから」

「な、なぜ、そうなるのじゃ……」


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― 新着の感想 ―
[良い点] マチルダさん、実際にいそうだな。 ヨシュアが、彼女に女王になりたいですか?と訊くシーンは重要なポイントだったと感じます。 スフィーダの辛さや寂しさをヨシュアは理解して尽くしていることがよく…
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