第85話 双子の近衛兵。
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兄はニックス、弟はレックスという。
二人が近衛兵の職に就いて、もう一年になる。
頭には鉄兜、手には長槍といったふうにいかめしい姿ではあるものの、童顔だ。
実にかわいらしい面立ちなのだ。
自らの直属であるにもかかわらず、スフィーダは二人のことをあまり知らない。
まだ十九歳だと聞いた覚えがあるくらいである。
仕事だから当たり前のこととはいえ、いつも勤勉に働いてくれているわけだ。
もう少し親睦を深めておいてもよいだろう。
そう考え、スフィーダは一日の終わりに、二人に来てもらった。
彼らはいつも通りそれぞれ赤絨毯の外に立ち、ビシッと気をつけをした。
彼女から見て左にいるのがニックス、右にいるのがレックスだ。
「もう業務は終わったのじゃ。楽にしてよいぞ」
すると二人は「はっ!」と声を揃えた。
しかし、彼らは直立不動の姿勢を崩さない。
まあ、話をするにあたっては問題がないので、改めて口を利くことにする。
「今の仕事は好きか?」
二人は顔を見合わせた。
アイコンタクトでもしたのだろう。
ニックスが大きな声で「好きです!」と答えた。
彼がスピーカーを務めるらしい。
「恋人はいるのか?」
「おりません!」
「おらんのか?」
「はい! しかし、妻がいます!」
「おぉ、そういうことか」
「はい!」
「レックスはどうなのじゃ?」
「私も結婚しています!」
「二人とも、若いのに甲斐性があるのぅ」
素直に感心したスフィーダである。
ニックスが「ちなみに、私達の妻も双子です!」と言った。
「ほぅ。そうなのか」
「はい! 私は姉と、弟は妹と結婚しました!」
「どこで知り合ったのじゃ?」
「合コンです!」
「ごごご、合コン!?」
「陛下は合コンをご存じなんですね!」
「ヨシュアに聞かされたことがあっての。そうか。合コンか……」
「いけませんか!」
「い、いや、いかんということはないぞ」
意外だった。
二人とも、もっと堅物だろうと思っていたからである。
それとも、合コンをチャラい社交場だと捉える価値観が古いのだろうか。
「して、そうじゃな、たとえば、近衛兵の給料はよいのか?」
「たくさんいただいています! 一般的な兵より多いです!」
「まあ、なんてったって近衛兵なのじゃから、それも当然か」
「はい! なりたいニンゲンは少なくありません!」
「エリートなのじゃな」
「そうかもしれませんが、謙虚でありたいです!」
「立派な考え方じゃ」
「ありがとうございます! 陛下! 一つ、お伺いしたいことがあります!」
「なんでも申してみるがよいぞ」
「私と弟の日々の働きぶりは、いかがですか!」
「いかがですかというのは、どう感じておるのかということか?」
「そうです!」
「体幹が強そうで心強い。背筋が伸びていて気持ちがよい。よって頼りがいがある。そんなところじゃな」
「ありがとうございます!」
「最後に問いたい。そもそもどうして近衛兵を志したのじゃ?」
「誰よりも近くで陛下をお守りしたいと思ったからです!」
真正面からそう言われると、胸にじーんと響くというものだ。
スフィーダ、思わず目に涙をためたくらいである。
「ずっとお仕えしたいです!」
そう声を揃えられると、もう無理。
目尻から涙が伝った。
歳のせいか、スフィーダの涙腺は非常に緩くなってしまっているのだ。
指でごしごしと涙を拭いながら、「これからも一生懸命に励んでほしい」と言うのが精一杯。
双子の近衛兵は、やはり「はい!」と元気な返事を寄越してくれた。




