第79話 初めての色。
◆◆◆
昼食はヨシュアに付き合ってもらった。
彼は白いテーブルの向こうで、カボチャのスープをスプーンにて口へと運ぶ。
「のぅ、ヨシュアよ」
「はい?」
「新しいドレスを欲しいと考えておるのじゃが、どうかの?」
「それはようございますね」
そんな快諾が得られたのである。
なのでスフィーダは、「おぉ、ダメだと言われると思ったぞ」と少々驚いた。
「金銭のことを気になさっているのですか?」
「だって、そうじゃろう? わしは国民に食わせてもらっておるのじゃぞ?」
「そういった意識を持たれているのはとてもご立派なことでございますが、なにも心配なさらないでくださいませ」
スフィーダはまた驚いた。
服を新調したいなどと言ったのは初めてであることに、今さら気づいた。
「よいのか?」
「どう考えても、問題はないという結論に至ります」
「そうなのか?」
「陛下は、もっとしゃれっ気があってもよいくらいでございますよ」
「むぅ、しゃれっ気か」
「とにかく、ドレスくらいどれだけ購入していただいてもかまいません」
「よし、わかった。では、遠慮なく買わせてもらうとしよう」
「ぜひ」
「二着もあればよいのじゃ」
「二着でよいと?」
「よい。白以外を選びたいのじゃ」
「ああ。そういうことでございますか」
「のぅのぅ、何色がよいかのぅ」
「黄色など、いかがですか?」
「黄色、黄色のぅ」
「でなければ、桃色とか」
「それらはちとキャピキャピしすぎではないか?」
「となると、やはり黒でございましょう」
「じゃろう? やっぱりそうじゃろう?」
「黒は女性の美しさを引き立たせます。早速、仕立屋を手配いたしましょう」
「うむ。よろしく頼む」
◆◆◆
製作期間は一週間。
急ぐ必要はないのに、なぜだかヨシュア、そう区切った。
ちょびひげの仕立屋は夜を徹して、仕上げてくれたらしい。
本当に、相当急いだようで、納品する際には息を切らしていたくらいだ。
なにも、走ってくることはないだろうに。
それでも、きっとこちらの喜ぶ顔を早く見たいということだろうと思い、スフィーダは感動すら覚えたのだった。
予定通り、二着、あつらえてもらった。
両方ともノースリーブだが、一着はくるぶし丈で、もう一着は膝上丈だ。
エレガントなヤツと、キュートなヤツをオーダーしたのである。
私室でくるぶし丈のほうに着替えた。
姿見の前で、くるりと一回転。
服を彩る小さな水晶が布とこすれてしゃらしゃらと鳴る。
私室を出る。
たたと駆け、えっへんと胸を張って、ヨシュアと仕立屋に真新しい立ち姿をお披露目した。
「陛下のお肌は真っ白でございますから、本当によくお似合いです」
ヨシュアはそう言って、二度、三度と深く頷く。
「ああ、素晴らしい。ドレスが素晴らしいのではありません。ドレスを見事に着こなすスフィーダ様が素晴らしいのです!」
仕立屋は目に涙すら浮かべた。
「幼女がなにをと思うかもしれんが、セクシーになった気分なのじゃ」
スフィーダは今一度、くるりと回った。
「人物画の巨匠を呼んで、肖像画を描かせましょう」
「おぉ、ヨシュアよ、そうしたいくらい、まさに絵になっておるということか?」
「さようでございます。せっかくですから、膝上丈のほうにして、いやらしいアングルにいたしましょう」
「い、いやらしいアングル?」
「はい。男性向けに量産するのでございます。そうすれば、陛下ではあはあしたい者達に飛ぶように売れ――」
「エロとわしとを結びつけるな!」
「しかし、経済の潤いに一役買うことは間違いありません」
「む、むむぅ……」
「いっそのこと、ちらと下着を見せてしまいましょう。そうすれば、価格はさらに跳ね上がり――」
「阿呆か!」
「仕立屋さん、貴方はどう思われますか?」
「え、え? わたくしでございますか? それはその……あ、あぅ、構図を想像しただけで鼻血が……」
「男はみなロリコンなのか?! そして馬鹿なのか?!」
「馬鹿なのではございません。誰もが少なからずヘンタイなのでございます」
「さらりと言ってのけるでないわ!」
「ス、スフィーダ様、わたくしめは先ほどから下着のお色が気になって――」
「見せた覚えはないぞ、馬鹿者! 仕立て屋! そなたはそなたで、一度医者に診てもらえ!」
「陛下。ピーピー騒ぐのはおやめください。はしたのうございますから」
「騒がせているのは、どこのどいつじゃっ!」
「はて、とんと見当が」
「おまえ、おまえじゃ!」
日曜日の昼下がりにあって、全力で地団太を踏みまくったスフィーダだった。




