第78話 言い訳は、よくない。
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相手にプレッシャーを与えるために出てみましょうか。
そういう話になり、会談にはスフィーダも同席することになった。
城内の一室。
純白のクロスが敷かれた長いテーブルを挟んで、両国の代表が並んだ。
プサルム側の真ん中の席についているのは、首相のアーノルド・セラーだ。
彼の左にスフィーダ、彼女のさらに左にはヨシュアという配置である。
もちろん、外務大臣をはじめとする関係者の姿もある。
イェンファ側の中央に座っているのは、ミチル・ハガネ大統領だ。
ミチル・ハガネ。
女性にしては背が高く、ヘアスタイルは白髪のショート。
ねずみ色のスーツを着こなしており、小さな眼鏡をかけている。
事前に聞かされた情報によると、年齢は六十五。
スマートでシャープな人物。
そんなふうに映る。
「では早速、今回の蛮行について、ご説明をいただけますか?」
口を切ったのはアーノルドだ。
蛮行という強い言葉を使ったことから、しっかり主導権を握ろうとしていることが窺える。
ミチルは「まずは謝罪いたします」と述べて頭を下げると、「亡くなられた方々の、ご冥福をお祈りいたします」と続けた。
それを受けアーノルドは「謝るだけなら簡単です」と言い、「定型的な文言を並べられても、なにも響いてはきません」と厳しい言葉を発したのだった。
「残念です」
「なにが残念なのでしょう? 我が軍の兵の命が失われたことですか? それとも、自らの言葉が私どもに伝わらないことがですか?」
「セラー首相、こちらにも言い分があります」
「伺いましょう」
「我々の目的はブレーデセンだけでした。貴国にまで手が及んでしまったのは、完全に軍部の暴走によるものです」
「それは言い分ではありません。言い訳です」
「自身の無能さ、無力さをうたってしまっていることについては自覚的です。だからといって、嘘をつくわけにもいかないでしょう?」
ミチルは口元に笑みをたたえた。
スマートでシャープ。
その印象は訂正しなければならない。
コイツは間違いなく姑息で狡猾な女だ。
「賠償はいたします。経済制裁をしていただいてもかまいません」
「ハガネ大統領、それはいくらなんでも無礼な物言いではないでしょうか。損害賠償は当然のこととして、経済制裁なんてほとんど意味がないでしょう? 我が国と貴国との交流自体が希薄なのですから」
「でしたら、我々にどうしろと?」
本当に頭と舌がよく回る、ずる賢い女だ。
イェンファの他の代表らも、揃って優越感に浸っているように見える。
主導権を奪った気になっているに違いない。
しかし、なんといっても、アーノルドはプサルムの首相なのだ。
そうそう簡単に言い負かされる男ではない。
実に毅然とした態度、口調で、「私どもの要求。それは、賠償、及び、貴軍のブレーデセンからの撤退です」と告げたのだった。
意外だったのだろう。
ミチルの右の眉尻がぴくりと動いたのを、スフィーダは見逃さなかった。
「ブレーデセンの件は、この場においてはまったく関係がないのでは?」
「道徳的な観点から申し上げています。我々にはブレーデセンを手厚く支援する準備があるということです」
「なぜ、今になって、そのような動きを?」
「道徳的な観点によるものだと申し上げました」
「やはり、我々は蛮族だと?」
「要求が受け入れられない場合、我が軍は貴国に攻め入ります。無論、あなた方と違って、宣戦布告はいたしますが」
「そんなこと、不可能でしょう? セラー首相。なんのための民主国家だと?」
「それは貴女が気にするところではない。
いよいよミチルの顔がゆがむ。
忌々しいとでも言いたげな表情になる。
「一旦、持ち帰らせていただいてもよろしいですか?」
「かまいませんが――」
「承知しています。返答はなるべく早く――」
「なるべく早くでは困ります。七日以内にご返答願います」
「……わかりました」
◆◆◆
五日後、正式な返答があった。
一括での賠償は難しいので、分割にしてもらいたい。
ブレーデセンから、即時、兵を撤退させる。
以上の二点が、イェンファから示されたのだった。




