第77話 わがままエヴァ、その三
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イェンファの侵攻から、たった二日。
エヴァはもう仕事を終えたらしい。
彼女の帰還先は元いた北の国境沿いではなく、首都アルネだった。
そして、わざわざ玉座の間にまで訪れたのだった。
黒い軍服姿だが一応そうだというだけで、デザインはオリジナル、上着もスカートも丈が短い。
相変わらず、目の保養になる容姿だ。
赤絨毯の上に設けられた椅子に腰掛け脚を組むと、事後の報告に来たのだとエヴァは述べた。
「結果は聞いています。そもそも呼んですらいませんが?」
玉座のかたわらに立つヨシュアがそう言った。
「わざわざ直接馳せ参じてあげたのよ。ありがたく思いなさいよね」
「ですから、呼んでいないと言っています」
「だったら、どうしてここに通してくれたわけ?」
「貴女が強引に入ってきたんでしょう? 北の警備に戻りなさい」
「やーよ。ゆっくりお風呂に入って、おいしいものを食べるの。そしたら、また行ってあげてもいいわ」
「貴女はわがまますぎます。エヴァ・クレイヴァー」
「そういうキャラクターですから」
エヴァはぷいっとそっぽを向いた。
まったくと言っていいほど、悪びれる様子がない。
だからといって、ヨシュアにもこれといって困っている様子はない。
ただただ、冷たい目をしている。
そう。
彼の彼女に対する言動は、いちいち冷ややかに感じられるのだ。
「とにかく報告は不要です。出ていきなさい」
「せっかく来てあげたのに、まだそんなことを言っちゃうわけ?」
「でしたら、言いたいことをさっさと言いなさい」
「ヴァレリア・オーシュタハウトゥ? ウッザいくらい、なっがい名前」
「彼女がどうかしましたか?」
「あの女、デカいわよね。身長も、胸も、お尻も。おまけに馬鹿なんじゃないかっていうくらいエロい恰好。だけど、認めてやってもいいわ」
「ですから、なにをですか?」
「実力よ、実力。大した女じゃない。ブレーデセンにも、あれほどの使い手はそうはいなかったはずだから。もちろん、私には及ばないけれど」
ヨシュアは右手で前髪を掻き上げる。
至極めんどくさそうに映るのは、きのせいではないだろう。
「で?」
「で? じゃないわよ。あれだけやれる軍人が、どうして大尉止まりなのかって話よ」
「フォトン・メルドー少佐が昇進を拒んでいるからです。彼女はずっと、彼の部下でいたいんですよ」
「ふぅん。やっぱり心酔してるってわけね。そこには生々しい肉の匂いしか覚えないけど」
「たとえそうでも、なんらかまわないと考えますが?」
「なーんてヴィノー閣下は言ってるけど、陛下はそれでいいわけ?」
「ここでわしに話を振るのか。というか、その旨、なぜ知っておるのじゃ?」
「戦闘が終わったあと、基地でお昼を食べてるときにそんな話になったのよ。メルドーさんには、実は好きな女がいるってね」
「あまり外でべらべらとしゃべらんようにの」
「しゃべらないわよ。私ならしゃべらないだろうって思ったから、あの女だって話したんでしょ。それで、陛下としては、二股はアリなの? ナシなの?」
スフィーダ、顎に手をやり、うーむと考えた。
考えたのち、「ま、いろいろと勘案すると、アリじゃろう」と答えた。
「へぇ。懐がお深いこと。一方のメルドーさんは、底が浅いと言えるわよね」
「なぜじゃ?」
「だって、要は性欲が抑えられなくてヴァレリア大尉を抱くわけでしょう? もう一回伺いますけど、陛下はそれでいいわけ?」
「ぶっちゃけるぞ」
「どーぞどーぞ」
「悔しくもあるが、仕方のないことじゃ」
「ひょっとして、陛下はあの女に代わりをしてもらってるって思ってる?」
「そこまでは思っとらん。思っとらんが、フォトンほどの男を独占できると考えていないことは事実じゃな」
「ふぅん。わからないなあ」
「なにがじゃ?」
「メルドーさんがモテる理由。顔立ちは悪くないけど、野獣みたいに荒っぽそうじゃない。実際、脳筋馬鹿なんでしょ?」
「そんなことはない。実は賢いのじゃぞ?」
「ヴァレリアさん、ベッドの上ではスッゴく乱暴されてそう」
「あはははは。そうかもしれんのぅ」
「ここで笑っちゃうとか、本気?」
エヴァはやれやれとでも言わんばかりに、首を横に振った。
「で、どうするの? 領土を侵した阿呆どもはまるっと葬ったわけですけど、イェンファに攻め込むことはするわけ?」
「その点は、貴女が知る必要はありませんよ」
「いけずの閣下。教えてくれたっていいじゃない」
「相手の出方次第ですね」
「どういう手を打つの?」
「大統領を呼びつけ、釘を刺します。要求に応じないようであれば、それまでです」
「相変わらず、お優しいのねぇ」
「もういいでしょう? 行きなさい」
「はーい」
エヴァが去ったあとの話である。
「エヴァはいくつなのじゃ?」
「二十一歳だそうです。それがどうかしましたか?」
「いや。なにを言ってもかわいい年頃ではないかと思っての」
「彼女に対する私の当たりがキツいと?」
「実際、そうではないか」
「恐らく、生理的に受けつけないタイプなのでしょう」
「らしくないのぅ」
「確かに、そうかもしれませんね」




