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第72話 魔女のこと、ダインのこと。

       ◆◆◆


 昼食をヨシュアとともにしている。

 彼にしては珍しく、今日は朝から冴えない感じだ。

 謁見者が訪れている際も、あくびはしないまでも、それを噛み殺すくらいはしたのではないか。


 食後の紅茶を楽しみつつ、スフィーダは正面に座っているヨシュアに「眠そうじゃの」と声を掛けた。


「はい。実際、少し眠とうございます」

「なにか理由があるのか?」

「盛り上がってしまいまして」

「なにが盛り上がったのじゃ?」

「ベッドの上で、クロエといろいろ」

「ク、クロエといろいろ?」

「朝まで燃え上がったのでございます。それはもう激しく求め合い――」

「も、もうよい。口をつぐめ」


 いよいよヨシュアはあくびをしたのである。

 あくびをしたのちに、さらにあくびをかぶせたのである。


「詳細をお伝えしたいのですが」

「なにをしていたのかは想像がつく。じゃから詳しいことは言わんで――」

「クロエの穴という穴に指を突っ込みとことんまで刺激――」

「言わんでいいと言っておろうが!」

「濡れ事でございます。濡れ事にございます」

「からかうのはよせといつも言っておるじゃろうが!」

「陛下には萌の成分が不足していると思いまして」

「意味がわからんわ!」


 ぷんすこぷんすこのスフィーダは、紅茶をぐいと飲み干した。

 少々熱かったが我慢した。

 侍女が新しいのを注いでくれる。


「陛下は本当に、濡れ事ができないのでしょうか」

「まだ抜かすか!」

「いえ。真面目な話をしています」

「真面目な話? どこがどう真面目なのじゃ?」

「ダインのことでございます」

「ダイン? ああ。奴めが自らを”魔女の子”と称していることについてか?」

「さようでございます」


 ダイン。

 曙光の皇帝。

 魔女と同様、彼もまた、ヒトとは異なる生き物であるという話だ。


「ダインの存在そのものを肯定するとした場合、不可思議な点が見受けられることになります」

「まあ、そうじゃな。じゃが、可能性の問題としては」

「あるにはある?」

「おまえにだから答えるぞ。ないこともないと言えんくもない。わしはそう考えておる」

「魔女が子を宿すことは可能だと?」

「そうじゃ。くどいようじゃが、可能性の問題じゃ。カナは本当に孕んだのかもしれん。生むまでのプロセスはさっぱりじゃがの」

「相手はニンゲンでしょうか」

「そうじゃろうと、わしは考えておる」

「魔女として、それはアリなのですか?」

「そう考える者がおってもおかしくはない。わしは禁忌じゃと思っておるがの」

「ダインが魔女と異なっているところ。それは、現在の彼は成人した姿だという点ですね」

「じゃから、ヒトと交わったのじゃろうと推測するわけじゃ」

「成長するという性質を、父親から受け継いだと?」

「そういうことになる。よって、軽く見るわけにはいかぬ」

「肉体は成長しても、魔法が達者になるようなことはないのでは?」

「そうとも限らぬ」

「能力は向上すると?」


 スフィーダは「じゃろうの」と頷いた。

 そうとしか言いようがないのである。


「それを含めての成長じゃ。魔女とヒトの合いの子という時点で、なにが起きてもおかしくはないじゃろう」

「となると、現状、急進的ではないらしいことが救いでしょうか。裏を返せば、いつ化けるかわからないのが怖いということになりますが」

「ダインが出てくるようなら、わしがやるぞ」

「以前にも申し上げました。それはダメでございます」

「無駄な被害を出すわけにはいかんじゃろうが」

「それでもダメでございます」

「おまえはわしを過保護に扱いすぎじゃ」

「なんと言われようと、ダメなものはダメでございます。どうか我々にお任せくださいませ。陛下がおっしゃった通り、ダインは”魔女の子”とはいえ、その構成要素の半分はヒトなのですから」




       ◆◆◆


 一日を終え、ベッドに入った。

 うまく寝つけず、目を閉じていると、前触れなくムラムラしてきた。

 体をよじり、太ももをこすり合わせてしまう。


 ヒトと交わることは禁忌としておきながら、意志の弱いことだと思う。

 しかし、自分だって女だと考えたりもするのだ。


「フォトンに会いたいのぅ……」


 そんなつぶやきがこぼれた。

 女王陛下という立場を受け容れたことを悔やみたくなるのは、こういう瞬間だ。


 開き直らなければ、女王なんてやっていられない。

 そんなふうに割り切ってはいる。


 しかし、ぶっちゃけてしまうと、彼としてみたいというのは事実であり……。


「いかんっ。いかんぞ、煩悩は!」


 本当に意志薄弱なことだと思い、スフィーダは自らの頭をぽかぽかと叩いたのだった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 「濡れ事でございます。濡れ事にございます」 大切なことなので2回言ったんですね分かります(笑) [一言] 最近読み始めたのでまだ先に楽しみがたくさんあると思いながら、どんどん読んでしまって…
[良い点] ケイオス編から更新話まで拝読。 ケイオス編~コミカルな様子の話が多かった気がします。 世界観はしっかり維持しながら、工夫しながら書いていらっしゃると思いました。 笑いを書くのは難しいので、…
[一言] >ヒトと交わることは禁忌 あら……そうだったんだ……(´・ω・`) えー、切ない。 今までからかわれてた諸々すら切ない。
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