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全力女王!~気高き幼女は死神に見捨てられたのか?~  作者: XI


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第70話 ついに……っ!

       ◆◆◆


 目覚めのきっかけは、寒気だった。

 

 まだ夜中だ。

 しかし、寝直そうにも眠れない。

 とにかく寒気が止まらない。


 やがて朝になった。


 起きようとする。

 しかし、全身が重い。

 体の節々が痛い。

 やっぱり寒気は治まらない。


 それでも仕事があるのだからと思い、いつも通り着替えに移る。

 宝石類で彩られたノースリーブの純白のドレスだ。


 寒い、寒い、寒い。


 頭がくらくらしてきた。

 足元もおぼつかなくなってきた。


 それでも表に出たのだが……。

 玉座につくべく歩くのだが……。


 寒い、寒い、寒い……。


 玉座のかたわらに立っているヨシュアが振り返った。


「おはようございます、陛下」

「うむぅ。おはようなのじゃあ」


 頭がしゃきっとしないせいか、間延びした間抜けな声が出た。

 目をぱちくりさせ、少々、首をかしげてみせたヨシュアである。


「陛下、お顔が赤うございますよ?」

「変なのじゃあ。ぞくぞくするのじゃあ。寒くてたまらんのじゃあ」


 近づいてきたヨシュア。

 膝を折り、それからひたいに触れてきた。


「お熱がございます」

「熱じゃとぉ?」


 スフィーダ、しんどさから息を喘がせる。


「はい。しかも高熱でございます」

「馬鹿を言うなあ。わしは二千年以上生きてきて、一度も体を壊したことなどないのじゃぞぉ?」

「ですが、現に体調不良ではありませんか。食欲はございますか?」

「正直、ないのじゃあ」

「わかりました。本日の謁見は中止といたします」

「大丈夫じゃあ。しゃべれんことはないのじゃからのぅ」

「ダメでございます。さあ。部屋にお戻りを」




       ◆◆◆


 私室のベッドに戻された。


 城内に詰めている医者の診察を受けた。

 感冒、すなわち、風邪との診断だった。


「本当に、ついにという感じでございますね」


 ベッドの脇の椅子に腰掛けているヨシュアが言った。


 スフィーダ、咳をする。

 寒気はいっこうにおさまる気配がない。

 頭もぼーっとしている。


 そうか。

 これが風邪か……。


 真新しい感覚を噛み締める一方で、胸の内では不安ばかりがもこもことふくらんでゆく。


「のぅ、ヨシュアよ、つらいのじゃ。苦しいのじゃ。ひょっとして、わしはこのまま死んでしまうのではないのか?」


 また、けぷこんけぷこんと咳が出た。


「大丈夫です。ただの風邪でございますから」

「じゃが、本当にしんどいのじゃ」

「静かに休んでいれば、必ずよくなります」

「ああ。最期にフォトンに会いたいのぅ……」

「陛下もしつこいですね」

「長らく生きてきたが、あー、まだ死にたくない、死にたくないぞ」

「ですから、大げさだと申しております」

「不安じゃあ。やっぱり不安じゃあ」

「私がずっとおそばにおりますから」

「うつってしまうのではないか?」

「それでもかまいません」

「すまん」

「とんでもございません」

「わがままを言うぞ? 手を握ってくれぬか?」

「喜んで」


 スフィーダの左手の甲に、ヨシュアが右の手のひらを重ねた。

 それで少し安心した。


 安心したら、眠くなってきた。

 そして、あっという間に、スフィーダは寝入ってしまったのだった。




       ◆◆◆


 特に薬を飲むこともなく、翌日になるとだいぶん回復した。


 寒気と体の節々の痛みがなくなったことが喜ばしい。

 咳もほとんど止まった。

 しかし、ヨシュアの判断で、もう一日、仕事はお休みとなった。

 明日からは、きちんと働きたいと思う次第である。


 今回の一件は、いい経験になった。

 どうやら、魔女も体調管理には気を配る必要があるらしい。


 まったくの人外であると考えていたのだが、ニンゲンっぽい一面もあるではないか。


 そう考えると、なんとなく、嬉しい思いに駆られた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] けぷこんけぷこんというお咳が……可愛い! 可哀想だけど可愛い!! 守ってあげたくなってしまいますね!!
[一言] ヨシュアとのやりとりが……萌えるのです!! ……守りたい!
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