表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/575

第7話 男子と抱き合う。

       ◆◆◆


 本日一人目の謁見者は、まだ幼い男子だった。

 例によって、近衛兵二人に挟まれ、近づいてくる。


 男子は白いシャツを着ていて、サスペンダーがついた半ズボンをはいている。

 精一杯の正装に見えるのは、きっと気のせいではないだろう。


 子供がやってくるとは思っていなかったので、スフィーダ、思わずきょとんとなった。

 続いて、目をぱちくりさせてしまう。


 ヨシュアはなぜ、こんな子供を謁見者として選んだのだろう。

 そんな疑問が浮かぶのも当然のこと。


 男子は所定の位置で跪き、深々と座礼した。


「女王陛下、ヴィノー様、このたびは謁見をおゆるしいただき、ありがとうございます」


 男子の口調は、はきはきとしていて気持ちのよいものである。


「よいよい。おもてを上げよ」


 すると、顔を見せた途端、男子はぽろぽろと涙をこぼし始めた。


 スフィーダはギョッとなった。

 まさか、女王に会えたことで感動している?

 それならそれで殊勝なことだとは思うのだが……。


「そなたの名前はなんというのじゃ?」


 スフィーダが優しくそう問うと、男子はグスグスと鼻を鳴らしながら、「ユーリと申します」と答えた。


「そうか。ユーリよ、いったいどうしたのじゃ? 話してみよ」

「その、とっても、えっと、実に申し上げにくいことなのですが……」


 男子ががんばって敬語を使おうとする姿は、とても健気に映る。


 経緯を知っているに違いないヨシュアが、「いいんですよ。話しなさい」と穏やかに言った。

 ユーリはこくりと頷いてみせた。


「実は、陛下が妹にとてもよく似ているんです」

「妹、とな?」

「はい」

「で、それがどうしたのじゃ?」

「妹は、一年前に死んでしまったんです」

「そ、そうなのか?」

「はい」

「なぜ死んでしまったのじゃ?」

「生まれつきの病気でした。医者のおじさん、じゃなかった。お医者様が言うには、どうにもならなかったとのことでした」

「それはまた、なんというか、不幸なことよのぅ……」

「はい……」

「しかし、いくらわしでも、死者を蘇らせることはできんぞ?」

「わかっています」

「では、ユーリはいったい、わしになにを言いにきたのじゃ?」

「まことに、その、恐れ多いことなのですが、その……」

「申してみよ」

「陛下、お願いです。抱き締めさせていただけませんか?」


 スフィーダは、「なんじゃ。そんなことか」と微笑んだ。

 彼女があまりに気軽に応じたせいだろう、ユーリは「えっ」と目を大きくした。


 玉座から腰を上げ、一つ、二つ、三つと階段を下り、スフィーダはユーリの前に至った。

 彼女は両手をバッと広げてみせた。


「立つのじゃ、ユーリ。存分にわしを抱き締めよ」


 立ち上がったユーリ。

 スフィーダより十センチ以上、背が高い。


 強く抱きついてきたので、強く強く抱き返してやった。

 ユーリは「カサリア、カサリアァァ……」と漏らしながら、泣く。


 スフィーダは「わしに似ておるなど、カサリアは美少女だったのじゃな」と、ささやくように言った。


 ヒトはいつか死ぬ。

 とても悲しいことではあるけれど、それは誰にもどうにもできないことわりだ。


 対して、自分はどうだろう。

 魔女にも寿命はあるのだろうか?

 二千年以上も生き、これからも生きていくであろう己には、どんな未来が待ち受けているのだろう。


 そんなこと、考えても詮方ないのに、時折考えてしまうスフィーダだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ