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全力女王!~気高き幼女は死神に見捨てられたのか?~  作者: XI


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第68話 恋したカレン。

       ◆◆◆


 日曜日。


 スフィーダはテラスのプールで遊んでいた。

 空色のビキニ姿のカレンと一緒にだ。


 髪をアップに結っているカレンの、なんと色っぽいことか。

 中高生ぐらいの男子が拝めば、たちまち鼻血を噴き出すに違いない。


 今日、バスタオルを持って控えているのは、メイド服を着た侍女である。

 ヨシュアは城内の私室にいるはずだ。

 うら若き乙女がプールではしゃぐ様子を眺めることについては、さすがに気が咎めたのだろう。


 二人並んで、プールサイドに腰を下ろした。

 スフィーダはバシャバシャと水を蹴り上げる。

 一通りバシャバシャしてから、カレンの体をまじまじと見た。


 しなやかな肢体だ。

 無駄なものがいっさいついていない。

 胸は小さくない。

 大きい部類と言える。


 スフィーダはその胸を右の指先でつんつんした。

 カレンは特に恥ずかしがるような素振りを見せず、「陛下、なにをなさるんですか」と微笑んだ。


「カレンは着痩せするタイプなのじゃな、うり、うりうり」

「あまりつつかないでください」

「感じるのか? 感じてしまうのか? うり、うりうりうり」

「そういうわけではありませんけれど」

「そなたの水着姿を見たら、ほんに男は放っておかんぞ」

「最近はもう、男性にはえんがないものと諦めています」

「以前もそのようなことを言っておったのぅ」


 はいと答え、カレンは口をとがらせた。

 それから苦笑じみた表情を見せたのである。


「周りのニンゲンがあまりにうるさいものですから、見合い話は受けるようにしているんですけれど」

「それでもダメなのか?」

「美しいという言葉を連呼する男性は信用できません。そして、やっぱり私より強そうなヒトもいないんです」

「そなたは本当に剣術が達者だと聞く。ハードルを下げてやるべきではないのか?」

「ダメです。譲れません。実を言うと、今回の吸血鬼騒ぎだって、私が部隊を編成してやろうと考えたくらいなんですよ?」

「それはいくらなんでもやりすぎじゃ」

「はい。あちこちから止められてしまいました」

「そういえば、ケイオスはどうなったかのぅ。リミットは明日じゃが」

「たかが盗賊団の元リーダーでしょう? 期待するほうがおかしいです」

「わしは大丈夫だと思っておるぞ?」

「どうしてですか?」

「なんとなーく、じゃ」


 不意に後ろから「やっほー」というのんきな声が聞こえてきた。

 振り返ると、ヨシュア、それにケイオスが近づいてくるところだった。


 ケイオスは右手に麻袋をさげている。

 彼は笑顔である。

 ただ、左の頬には切り傷が二本走っており。


「無事じゃったか」


 スフィーダは立ってケイオスを迎えた。

 ホッと胸を撫で下ろしたい気分だった。


「スフィーダ様、そっちの美人さんは誰?」

「カレンじゃ。カレン・バハナじゃ」

「ああ。例の女のヒトね」


 カレンがすっくと立ち上がり、「貴方がケイオスなのね?」と問い掛けた。

 言い方には棘があり、表情も険しい。


「そうだけど、あれ? 俺、なんか嫌われてる?」

「ついこないだまで、囚人だったんでしょう?」

「そうだよ。悪い?」

「悪いって、貴方……」

「まあまあ、カレンよ、落ち着くのじゃ」

「私は落ち着いています」

「結構な美男子じゃろう?」

「でも、チビです」

「ひ、ひどいことを言うのぅ」

「そもそも、彼が美男だったらどうだというんですか?」

「い、いや。とりあえず、仲裁しよう思ってじゃな」

「そんなの不要です」


 カレンはぷいっとそっぽを向いてしまった。


 やむを得ない。

 ひとまず彼女のことはうっちゃっておき、話を進めることにする。


「して、首尾は?」

「上々。じゃなきゃ、帰ってきてないよ」

「そんなの嘘でしょう? どうせ逃げ帰ってきたんでしょう?」

「カ、カレンよ、そなたは少し黙って――」

「カレンさん」

「言ってみなさい」

「一度挑めば最後、逃がしてなんてくれない相手だと思うけど?」

「貴方、すばしっこさだけはありそうよ。それも存分に」

「じゃ、じゃからな、カレン。そなたはちょっと静かにして――」

「まあ、なんやかんや言われる可能性は考慮したよ。だから、ちゃんと証拠を持ってきたんだ」


 スフィーダとカレンの「証拠?」という声は重なった。


「うん。証拠」


 そう言うと、ケイオスは手にしている麻袋を逆さまにした。


 下にごとんと落ちたもの。

 それは男性の生首だった。

 長いはくはつを有し、茶褐色の肌をしている。

 カッと目を見開き、咆哮するように口を開けていることから、かなり壮絶な死に方をしたであろうことが窺えた。


「まあまあ強かったかな? といっても余裕だったけど、あはははは」


 スフィーダ、驚きを隠せず、唖然としてしまう。

 魔法達者で知られる吸血鬼を一人で狩る。

 そんなミッションをクリアできるニンゲンなんて、この世界にそういるはずもない。


「ケ、ケイオスよ、今さらなんじゃが」

「うん。なに?」

「そなた、なにかの心得でもあるのか?」

「ないよ。我流」

「た、大した奴じゃ。のぅ? カレンもそう思わんか?」


 すると、カレンはふらりと前に進み……。

 そして、いきなりがばっとケイオスに抱きつき……。


 その様子を見て、スフィーダは両手を上げてしまうくらい驚いた。


「ケイオス様。お慕い申し上げます……」

「えーっ。チビは嫌いなんじゃなかったのぉ?」

「気が変わりました」

「変わり身、超早くない?」

「強さこそ、すべてです。正義です」

「カレンさんにとってはそうなの?」

「困りますか?」

「困りはしないけど」

「結婚してください」

「俺、婿入りなんて嫌だよぅ」

「私が家を出ます」

「うーん。だけど、やっぱりダメ。俺、やりたいことがあるから」

「では、私は貴方が振り向いてくれるまで、ひたすら追い掛け続けましょう」


 スフィーダ、ヨシュアと顔を見合わせた。

 彼にしては珍しい。

 目をぱちくりさせ、びっくりしている様子。

 侍女らも一様に口を手で覆い、言葉を失っているようだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] わかるwwww カレンわかるwwww 強いは正義! ちっちゃ強いは更に正義!!(←個人の意見です)
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