第67話 まあ、見てなよ。
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着古した感のある黒いカラーレスジャケット。
タイトなカーキ色のズボン。
赤い髪。
赤い瞳。
ケイオスは悠然と歩いてくる。
彼にはヒトを惹きつけるオーラがある。
なにかやってくれる。
そんな雰囲気をまとっているのだ。
立礼したケイオスが「座っていい?」と訊ねてきたので、スフィーダは「うむ。よいぞ」と答えた。
彼は背もたれを前にして、椅子にまたがった。
「ケイオスよ、どうして呼び出したか、見当はつくか?」
「たとえば、テストが決まったとか?」
「そういうことじゃ」
「よっし。やったね!」
両手でガッツポーズを作ったケイオス。
やはり二十歳という年齢より、ずいぶんと幼く映る。
ヨシュアに「吸血鬼退治ですよ」と告げられたのを受け、ケイオスは「へぇ。それはなかなか難易度が高そうだなあ」と、あっけらかんと言ったのだった。
「やれますか?」
「やらなきゃ、治安部隊に入れてもらえないんでしょ?」
「ええ」
「場所は?」
「イリュー州です」
「えっ、イリューなの?」
「そうです。貴方が悪さを働いていた土地です」
「悪さって、まあ、客観的に見ればそうかもしれないけど」
「ハエン県ですよ」
「ハエンかぁ。でも、吸血鬼が出たなんて聞いたことがないなぁ」
「そうなんですか?」
「イリューは広いから。で、詳しい場所は? たとえば、奴さんの寝床は割れてるの?」
「現地に行けば、自然とわかるのでは?」
「まあ、そうだね。それなりに騒ぎになってるだろうから」
「カレン・バハナ氏からの、直々のお願い事です」
「バハナ? ああ。旧領主さんの家? そのカレンさんは今、なにをやってるの?」
「州の親善大使です。貴方は世事に疎いようですね」
「ぶっちゃけちゃうと、幾分ね。なにせ、個人主義者だから」
「個人主義者が盗賊団のリーダーを?」
「自分がそれを望まずとも、ヒトには相応の器がある。これって持論」
「確認です。移送法陣は使えますか?」
「言ったよ? 空を飛べるだけだって」
「なら、吸血鬼に挑んだが最後、とんずらをこくことはできないですね」
「そうなるね」
ヨシュアのまっすぐな視線を、ケイオスは真っ向から受け止める。
不敵な笑みすら浮かべて。
「カレン氏を待たせています。いい結果が得られるまで、彼女はここ、アルネに留まるつもりでいます」
「可及的速やかに、みやげを持たせてあげたいってわけだね?」
「そういうことです。貴方が失敗した場合を考えて、念のため、討伐隊を編成しておくことにします」
「そんなの、要らないと思うよ?」
「結果で示しなさい」
「オーライ。リミットは?」
「五日、差し上げます。じゅうぶんでしょう?」
「じゅうぶんだね。だから、三日でいいよって言っとく」
「いいんですか?」
「訂正はしない。男だからね」
「口だけではないことを祈っていますよ」
「もう行っていい?」
「ええ。この瞬間から三日です」
「了解。まあ、見てなよ」
立ち上がったケイオス。
彼はぺこりと頭を下げてみせた。
ジャケットのサイドポケットに手を突っ込んで、向こうへと歩いてゆく。
やがて大扉の先へと消えた。
「ヨシュアよ、ケイオスはやれると思うか?」
「陛下はどうお考えなのですか?」
「質問に質問で返すでない」
「失礼いたしました」
「しくじるイコール死、なんじゃがな」
「虚勢を張っているようには見えません」
「わしもそう思う」
「ですが、自信があるからといって、吸血鬼に勝てるかどうかはわからない」
「その点も同感じゃ。フツウのニンゲン一人で狩れるほど、吸血鬼は弱くないはずじゃ。無論、わしはケイオスの帰還を望んでおるがの」
「くどいようですが、死んだら死んだで、そこまでの男だということです」
「ドライじゃのぅ。よくないぞ」
「改善いたします」
「嘘をつけ」




