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第66話 お困りカレン。

       ◆◆◆


 涼しげな切れ長の目に、品のいい薄い唇。

 アッシュグレーの長い髪。

 年は妙齢と言っていい二十六。

 

 クリーム色のショールを羽織ったカレン・バハナが、玉座の間を訪れた。


 会いたいという旨のふみは、事前に受け取っていた。

 顔を突き合わせて話がしたいとのことだった。


 カレンが椅子にゆったりと腰を下ろす様は、もうそれだけで絵になる。

 だが、にこりと微笑んだのも束の間のこと、彼女はすぐに表情を曇らせた。


「なにやら抱え込んでおるようじゃの」

「顔に出すようでは、いけませんね」

「打ち明けてみるがよいぞ。力になれることもあるじゃろう」

「お話しいたします」

「うむ」

「私が親善大使を務めるイリュー州にはハエンという名の県があって、そこで今、吸血鬼騒ぎが起きているんです」

「ほぉ。吸血鬼か。最近はとんと耳にしなかったが。なにか悪さをしておるのか?」

「その名の通り、まさに若い女性の生き血をすすっては殺しているんです」

「厄介なやからじゃ。弱い吸血鬼など聞いたことがない。警察はおろか、州兵でも歯が立たんことじゃろうな」


 現在、この世界にどれほどの数の吸血鬼がいるのかは不明だが、揃って魔法が達者らしいということはわかっている。

 フツウのニンゲンでは相手になるわけがない。

 相当な手練れでなければ、一瞬で灰燼と化してしまうことだろう。


「寝床くらいはわかっておるのか?」

「同県の山間部にある洞窟とのことです」

「話はわかった。わしにというより、ヨシュアに用事があるわけか」

「はい。州の特使として、お願いに参りました。国軍兵のみなさまの中から選抜するかたちで、屈強な討伐隊を編成していただきたいんです」


「カレンを手ぶらで帰らせるわけにはいかん。ヨシュアよ、そうじゃろう?」


 玉座のかたわらに控えるヨシュアは、顎に手をやり、なにやら思案している様子。


「なんじゃ? なにか問題でもあるのか?」

「いえ。まったくございません。それはさておき、これは絶好の機会です」

「絶好の機会? どういうことじゃ?」


 スフィーダはカレンと顔を見合わせた。

 彼女も不思議そうな顔をしている。


 ヨシュアは歌うような調子で「テストでございますよ」と言ったのだった。


「テスト? ……あっ」

「そうです、陛下。ケイオス・タールでございます」


 ここでカレンが「ケイオス・タールって、あの……?」と口にした。


「おや? カレンよ、知っておるのか?」

「盗賊団の元リーダーですよね?」

「そうじゃそうじゃ。物知りじゃな」

「いえ、物知りだとか、そういうことではなくて」

「ん? ならば、どういうことじゃ?」

「ケイオスはイリューのニンゲンなんです」


 少々驚くべき事柄だ。

 意外な縁も、あるものである。


「ほぉほぉ。地元では有名人だというわけか」

「はい。しかし、彼は投獄されていたはず……」

「このたび、出てきよったようじゃぞ」

「謁見に訪れたんですか?」

「うむ。治安部隊に入りたいそうじゃ」


 口に左手をやり、難しい顔をしたカレン。


「心を入れ替えたということでしょうか」

「いや。わしの印象じゃが、もともとそう悪い男ではないのじゃろう」

「確かに義賊という噂も流布していましたけれど……。でも、彼に戦いの心得なんて……。というか、ヴィノー様、テストというのは?」

「私が設定したハードルを見事越えたあかつきには、彼の望み通り、治安部隊に入れて差し上げるという約束事のことです」

「本人は自信満々といった感じじゃったな。そして、わしもヨシュアも、かなりのやり手じゃろうと睨んでおる」

「ヴィノー様、本当に、彼に?」

「ええ。やらせます。やる前から無理だと答えるようであれば、それまでの男だということです。ミス・カレン。すぐに帰路につかれますか?」

「いえ。結果が出るまでは、ここに留まろうと考えます」

「わかりました。またお呼びします。なに。ケリがつくまで、そう時間はかからないはずですよ」


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― 新着の感想 ―
[一言] おおっ!これは楽しみな展開ッ……!!
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