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第61話 背中をお流ししてこい。

       ◆◆◆


 日中。

 玉座の間。


「立礼で失礼いたします」


 そう言って、綺麗なお辞儀をしたのは、ヴァレリア・オーシュタハウトゥだ。

 言わずと知れた、フォトンの部下である。


 足首にまで至る黒の魔法衣姿であるが、自分好みに仕立てさせたものだろう、大胆なスリットは腰にまで至っており、ひときわ長く肉感的な脚は黒いレースストッキングに包まれている。

 動きやすそうではあるものの、セクシーすぎるように感じられてしょうがない。

 男性陣は目のやり場に困るのではないか。

 いや、フォトンとヴァレリアの部隊に限って、それはないだろう。

 なにせ、プサルム最強と名高い彼らだ。

 自然的にストイックであるはずだ。


 ヴァレリアは椅子に座ると、今一度「失礼いたします」と言い、脚を組んだ。

 それから、にこりと微笑んでみせた。


 玉座の上で、思わず身を引いたスフィーダである。

 相変わらず、ヴァレリアのことは意識せずにはいられない。

 頭のどこかで、恋敵だと認識してしまっているのだろう。

 だからなんとなく身構えてしまうのだ。


 第一声も「し、して、今日はどうしたのじゃ?」といった具合にどもってしまった。


 これではダメだと思い、深く息を吐いた。

 それから、両手で自分の頬をぴしゃぴしゃと張った。

 すると、ヨシュアにヴァレリアにも、クスクスと笑われてしまった。

 だが、ようやく落ち着いた。

 苦笑いなんかも浮かべることもできた。


「ヴィノー閣下に報告、及び相談事でございます」

「そなたらの上役はリンドブルムであろう?」

「このたび、配置転換されました」

「ヨシュアの配下になったのか?」

「さようでございます」


 スフィーダ、首を左に回してヨシュアを見上げた。

 彼は目を閉じ、小さく頷いてみせた。


「ふむ。して、なんの報告なのじゃ? ヨシュアになにを相談したいのじゃ?」

「今、我々の部隊が展開している場所を、陛下はご存じですか?」

「南東、ハイペリオンの国境沿いじゃろう?」

「はい。そのハイペリオン共和国なのですが」

「なにか動きがあったのか?」

「二日前から、国境線の目と鼻の先で、飛空艇が旋回しているのでございます」

「挑発行動じゃということか?」

「そう思われます。が」

「なんじゃ? 挑発以上の意味があるというのか?」


 ヴァレリアが、スフィーダからヨシュアに視線を移した。

 彼は顎に右手をやり「なるほど」と言った。


「ヨシュアよ、いったい、なにが、なるほどなのじゃ?」

「ハイペリオンに飛空艇があるなど、聞いたことがございません」

「飛空艇を持つ国が限られていることはわしも知っておるが、そうなのか?」

「はい」

「じゃが、実際、飛んでおるのじゃろう?」

「そこが問題です。なぜ、ないはずのものがあるのか」

「……もしや」

「いえ。まだ判断していい段階ではありません」

「しかしじゃ、仮に曙光が貸しつけたのだとすると……」

「そうであったとしても、我が国、我が軍の対応に変更はございません」


 ヴァレリアが「というわけですから、相談というより、確認でございます」と述べた。


「ほんのわずかでも我が国の領土を侵犯するようであれば、交戦規定に則り、即時、攻撃を開始します。ヴィノー閣下、よろしいですか?」

「無論です。許可します」

「ハイペリオンのあるじ、ブロウ・ブルース大佐はたいへん好戦的だと聞いています。まさにその通りのようですね」

「安易に他国の手を借りているという時点で、底が知れるというものですが。いっそのこと、飛空艇の運用に関しては、国際法で縛りを加えたほうがいいのかもしれませんね」

「ダメだと取り決めても使うのが曙光では?」

「まったくもって、大尉の言う通りです。用件は以上ですか?」

「はい」

「内容が内容です。伝令を寄越すだけでよかったのではありませんか?」

「少佐に行ってこいと言われまして」

「フォトンに?」

「風呂で、陛下の背中でもお流ししてこいとのことでした」


 そう聞かされ、スフィーダは頬を緩めた。

 フォトンは案外、気の利いたことをするのだ。


「最近の私は、嫉妬ばかりしています」

「ヴァレリアよ、それはどうしてじゃ?」

「少佐の心の中には、いつだって陛下の存在があるからでございます」

「そうか……。フォトンめに伝えてほしい。達者であれ、と」

「承知いたしました。風呂はいかがなさいますか?」

「今宵、楽しもうぞ。ぜひとも一緒に入りたいのじゃ」


 かく言うスフィーダも、ヴァレリアに嫉妬している。

 普段、誰よりフォトンの近くにいるのは、彼女なのだから。


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― 新着の感想 ―
[良い点] クスッと笑える話、考えさせられる話。様々なテイストのお話の中で、いつも真っ直ぐで真面目で可愛らしいスフィーダがとても魅力的です。 隣でスフィーダを支えるヨシュアが、スフィーダで遊んでいるの…
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