第570話 終末へのセレナーデ。
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「伝えがございました。やり合って、速やかに、終わらせよう、と」
「ひょっとして、ダインからか?」
「そのとおりでございます」
今日は謁見者もいない、土曜日。なのに、なぜだろう、スフィーダは玉座のうえにいて、ヨシュアはその左隣にいる。二人とも、まえを向いたままでいる。
「相手方のメンツは?」
「ダイン皇帝自らが出張るとのこと。あとはリヒャルト閣下にフェイス・デルフォイ、ネレウスだとのことです」
「よかろう。わしがダインの相手をするのは決まっておるな。リヒャルトにはフォトンをぶつけるしかない。フェイスめと相対するのは――」
「エヴァ・クレイヴァー少佐でございます」
「ネレウスは?」
「彼にはヴァレリア大尉をプレゼントしようかと」
スフィーダは目をまえに向けたまま、「そうか……」と呟いた。「そういうことなのじゃな」と納得し、「それで目下は問題ナシか?」と続けた。
「このような局所的な戦いで国の行く末を決めたくありませんが――」
「ささいなところで世界が動くこともある」
「経験則?」
「そのとおりじゃ」
「望むところといった感じではあります」
「決戦か」
「決戦です。そもそも陛下は、そのための兵器ではありませんか」
それはもっともだ。
――でも。
「わしはまだ、ネフェルティティの件、引きずっておるのじゃぞ?」
「退きたいと?」
「馬鹿な。冗談じゃ。そんな真似はせん」
「ときはどれほど残酷で、どれほどの血を望むのか。私などは、そう考えるのでございますが」
「事象にまつわる変動を最小限に押しとどめることが、わしらの仕事じゃ」
「ですが陛下、仮に我々がいなくなってしまった世界は――」
「そんなのなんとでもなる。わしらがいなくなったら、わしらの代わりをする者が必ず現れる。心配するな」
「正しいご判断をされている。安心いたしました」
「ホント、あまり舐めるでないぞ」
「失礼をしてしまいました」
ヨシュアはクスクス笑った。
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スフィーダは湯に浸かっていた。左隣にはヴァレリアがいて、右隣にはエヴァの姿がある。三人でこうして語らうのは初めてだ。ヴァレリアについては誘えば乗ってくれたように思うが、エヴァがつき合ってくれるのはかなり珍しいことであるように考えられる。
「明日かぁ。もう明日、行くのよねぇ」
「エヴァは怖いのか?」
「そんなわけないじゃない。今度こそぶっ倒してやるんだから」
「ヴァレリアはどうじゃ?」
「私は勝ちます」
「頼もしいのぅ」
スフィーダは笑った。
「ホント、もう明日なのじゃな。明日の結果次第で、この世界の行く末は決まってしまうのじゃな」
するとエヴァは「それがまさに弱肉強食じゃない。私はそれを拒むつもりもなければ否定するつもりもないわ」とふんぞり返った。一方でヴァレリアはほうり投げるようにして、「エヴァは若いなぁ」と述べた。
「だからさぁ、ヴァレリア、私のことを子ども扱いしないでって、いつも言ってるじゃない」
「買っている。しかし、私が格上だ。だから、冷静になってほしい」
「そんなの、わかってるわよ。まったくおばさんの老婆心は根が深いわね」
エヴァをじっと見つめたヴァレリア。するとそこには多少の言い争いが生じて。エヴァがなにやらつっかける格好で――しかし、ヴァレリアは笑っていた。
そんななか、ふと――。
エヴァは「もうほんとうに、この国は終わりなのかもしれないわね」と顔を俯けた。
「エヴァ、あなたは、それでいい?」
「なによ、ヴァレリア、喧嘩売ってる?」
「私は最後まで戦う。だってこの国が好きだから」
「だったら、私もそれに乗るわよ」
そう言って、エヴァは立ち上がった。
「曙光の脅し、気に食わないわよ。何様なのって感じ。負けるかもしれない。負けたらすべてを失うのかもしれない、奪われるのかもしれない。だからこそ戦うのよ。閣下も出るんでしょう? メルドー少佐だって。そこまでやって無理なら諦めもつくってもんよ」
「その意気や良し」
そう言って、ヴァレリアも腰を上げた。「ああだこうだとのたまったところで、案外、私は簡単に死ぬかもしれません。エヴァだってそうでしょう」と続けた。
エヴァは高らかに笑った。
「死なないわよ。死んだらなにも残らないじゃない。私はやられない、死なない、殺されない。私が命を落とすときは、この世界が終わるときよ」
力強いそのセリフを受け、スフィーダはおろか、ヴァレリアまで笑った。なにが正しくてなにが間違いなのか。その判断すら超えた結果が、明日、出る。我が国に祝福あれと願うしかない。我らに勝利をと祈るしかない。




