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全力女王!~気高き幼女は死神に見捨てられたのか?~  作者: XI


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559/575

第559話 搦手の消え去り。

       ◆◆◆


 食後、ひとまず、客人用の会議室に迎え入れた。アーカムのほうはネフェルティティ以外にフェイスとネレウスがいて、プサルム側はというと、スフィーダを真ん中に挟んで、あとはヨシュアとアーノルドである。


 スフィーダは当然、しかめ面である。やっていることとこれからやろうとしていることとやっていいこととではまるで事情が異なってくる。


 狭い会議室である。対面で六人も座れば面積的にはいっぱい。だからこそ、派手な振る舞いはできないということであるが。


 戸がいきなり開いた。向こうに引き開けられたのである。


「ス、スフィーダ様、ドル・レッドが!」


 伝令からの件を聞き、スフィーダはにわかに目を鋭くした。どういうことかわからないので、どういうことか話そうとしているのだろうが、どういうことか要領を得ないその若い男に目をやると、彼は泣き顔を浮かべてしまった。


「ドル・レッドと来たか」ネフェルティティは「ふん」と卑屈そうに鼻を鳴らして、椅子にふんぞり返った。「なるほどな、スフィーダよ。おまえの切り札はそれか」


 そんなわけないじゃろうが!

 スフィーダはそう怒鳴った。


「会うぞ。どういうつもりか、問い質さなければならん」

「はっ。どうせスフィーダ、おまえが用意した援軍としか――」

「だからそんなことないに決まっておろうが、この馬鹿者めがっ!」


 ネフェルティティは腰を上げた。優雅に、そう、腹立たしい話でしかないのだが、ネフェルティティはいちいちの所作が美しい。目を瞳を、奪われるほどである。


「来い、馬鹿めが。あやつらが型にはまらない旨を知ってもらう」

「さて、どうなることか」


 ネフェルティティは、くつくつと笑ってみせた。




       ◆◆◆


「そこのネフェルティティに呼ばれたんだよ」


 重低音のがらがら声でそうのたまったのを聞き、スフィーダの顔は「は?」と呆けた。


「ど、どういうことじゃ? ドル・レッドよ」


 ドル・レッドは大きく真っ赤な肉の翼をばっさばっさと動かし、"謁見の間"から見渡せるテラスの向こうでホバリングし、相棒――青肌のイーヴルはというと、神妙そうに胸に右手を当てたまま、悠々と浮かんでいる。黒い魔法衣というコスチュームは今日も似合っている、と言っていい。


「スフィーダ、おまえの国は、おまえが思っているよりもずっと、ネフェルティティに浸食されているぞ」

「は……?」

「馬鹿か、おまえは。現象から察しろ。ネフェルティティの先兵は、俺とイーヴルの寝床を知ったってことなんだよ。知ったからこそ、攻撃を加えてきた。俺たちからすればそれはたまらん話だが、来る分にはいい。相手をしてやる。現状だ、スフィーダ、俺もイーヴルも、おまえと組もうとは思ってないんでな」

「そ、それは嘘じゃろう?」

「ああ、嘘だ。プサルムは心地いい」

「は、は……?」


 ドル・レッドは自前のハスキーボイスで「ぐあははは!」と笑った。


「魔女二人がぶつかり合う。おもしろいことだ。俺たちは歴史の分岐点の目撃者になれるんだからな」

「裏切るのか? ドル・レッド、おまえたちは」

「阿呆か。まったくそんなことは言っていない。ただ、おまえが負ければ、俺たちはプサルムを離れるだろうな。留まる理由がなくなってしまうんだからな」

「裏切るのか?」

「だから、そうじゃない。自分より強い存在だからこそ付き従う。それは間違っていることなのかね」

「や、やめてくれ、ドル・レッド。それはやめてくれ。わしは堕ちてもかまわん。ただ、わしの子どもたちに手を出すような真似はどうか――」

「だったら勝ってみろ。どうあれたかがネフェルティティだ。それくらい降してみろ」


 二つ瞬きをしてから、目を閉じた。

 そうじゃな、そのとおりじゃと言い、スフィーダは納得した。


「ドル・レッドよ」

「なんだろうな、女王陛下。イーヴルは無口だから、俺が全部に答えてやる」

「わしが健在のうちは、わしたちの後ろ盾になってくれるのじゃな?」

「それは保証できんな。ただ、正直、おまえの国の兵士の相手はしたくない」

「信じて、よいのじゃな?」

「くどいな、スフィーダ」


 スフィーダはネフェルティティのほうを振り向き、「帰れ、ネフェルティティ! 今日はもう帰れ!!」と叫んだ。


「まったく幼稚なことぞ」ネフェルティティはくすくす笑った。「最後の会談だった。もうよい、いよいよもうよいのだな?」


「かかってくるがいい。叩きつぶしてやるのじゃ!」

「……我らは敵わんだろう」

「ん、へ……?」

「スフィーダ。国を統べるにあたり、もっとも重要な要素はなんだと思う?」

「ちょ、それは、すぐには考えつかんが……」

「だから、おまえは阿呆なのだ」

「け、結局、馬鹿にしたかっただけじゃろう!!」

「そうではない」


 引き揚げる。


 そう言って、ネフェルティティはまさに引き揚げた。

 彼女が引き連れてきた巨大飛空艇もまもなく去ったらしい。


 一つだけ、胸をつつくものがあった。


 ――否、いつもそれは、胸をつつくのである。


 ネフェルティティとはもっと仲良くできるのではないのか。あるいはプールにでも誘えば、白いビキニを着けて、一緒に泳いでくれるのではないのか。


 どこで間違ったのだろう。

 なにを、間違ったのだろう。


 ネフェルティティのことを嫌いにばかりはなれないから、そんな思いばかりが強くなる。


 なのに、どうしてだろう。

 どうして、潰し合う必要があるのだろう……。


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