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第553話 カーニーからの報告事項。

       ◆◆◆


 カーニー少尉が玉座の間を訪れた。

 彼女は青髪の准将、レオ・アマルテアの側近だ。

 生まれついて、移送法陣を使用することができる。

 だからこそこうして遣いに出され、重用されているわけなのだが。


「よいぞ、カーニー。立ち上がって、おもてを上げよ」


 玉座の上のスフィーダがそう言うと、カーニーは「は、はいっ」と少々ぎこちない返事をしてから、それに従ったのだった。


 カーニーは「ヴィノー閣下には、もう伝わっていることだと思うのですけれど」と言い、玉座の隣に控えているそのヴィノー閣下――ヨシュアに上目遣いの視線をやった。肝心なことをのたまうにあたっても、いちいちもじもじするあたりが、なんとも純朴な彼女らしく、また愛らしいのだ。


 ヨシュアがなにか知っていたのだとしても、自分はノータッチだ。そこでスフィーダは「なんの話じゃ?」と訊き、事を進めようとした。


「あ、あの、スフィーダ様」

「どもらずともよい。どんな要望を、ヨシュアに出したのじゃ?」

「え、えっと、それは――」

「カーニー、なにも気にせず言いなさい。報告を陛下に直接お聞きいただく。貴女にはその役割を担っていただいただけなのですから」

「はいっ、閣下、そのとおりだと認識していますっ」

「言ってみなさい」


 「は、はいっ」と言い、忙しなく相槌を打ち、カーニーは茶色いキャスケットを取り去った。途端、猫の耳のようなそれがぴょこんと立ったのである。猫耳を晒すことについては恐れている彼女ではあるが、だからこそなおのこと、礼を尽くそうとする姿は尊いのである。


「レオ様は、フォトン少佐の部隊を借りることができないかとおっしゃっています」


 スフィーダは「フォトンの部隊を?」と首をかしげ、それから「どういうことじゃ?」とヨシュアを見上げた。すると彼は「アーカムの侵攻を押し止める。それだけでは満足できませんか?」とカーニーに問うた。


「えっと、ひょっとすると、そういうことなのかもしれません」とカーニーは述べ。「レオ様は常に攻め入る隙を狙っていらっしゃいます。そうあるべきではありませんか? 守りに入ってばかりだと、いつまで経っても、戦争は終わらないと思います」

「カーニー、貴女は言うようになりましたね」


 はっと目を大きくした、カーニー。

 慌てふためいたように、ぺこぺこと頭を下げる。


「ごめんなさい、閣下。ごめんなさい、ごめんなさい、申し訳ありませんっ」

「いいんですよ。貴女の成長著しい様は、私に勇気と安堵をもたらしてくれます」

「そ、そうなんですか?」

「ええ」


 照れ臭そうに頭を掻いたカーニー。


「それでカーニー、フォトンを使ってなにをしようというのですか?」

「レオ様は、フォトン少佐の部隊に取り巻きをなんとかしてもらいたいとおっしゃっています。なので、そのあいだに、きっとなのですけれど、本格的に中央突破を図りたいのだろうと思います」

「まあ、そうなるでしょうね」

「い、いけませんか?」

「フォトンは国内の守備の肝心要です。なにせ相手は世界第二位の強国です。一箇所が崩れてしまえば、見る見るうちに瓦解しかねない。それを食い止めるのが、彼の第一の役割だということです。冷静な手並みを見せてもらいたい」

「フォトン少佐の部隊の出る幕はない。それが最も望ましいのだと思います」

「さすがですね、レオ准将は。ええ。非常に頼もしい。共感できます」


 ヨシュアが感心したような節を見せる一方で、カーニーはえっへんとでも言わんばかりに胸を張った。


「レオ様はフォトン少佐をお借りしたいと言っていました。重ねてになりますけれど、そういうことなんです」

「なのだとすれば、フォトンを使っての電撃戦。それがあるべき姿だと思いますが?」

「だれよりも能動的に動きたいのは、レオ様なのだと思います」

「それが悲願だと?」

「いけないことでしょうか……?」

「いいえ。そんなことはありません」

「でしたらっ」


 ヨシュアは深く頷いた。

 役目を果たせたと考えたのか、カーニーは嬉々とした笑みを浮かべた。


「アーカムは強いですか?」


 その問いかけに、カーニーは「強いです」と答え、困ったように笑った。


「国境をまたがせない。それを成そうとするだけで、多くの被害が出ています。仲間もたくさん、大勢が死にました。私はどうしたらいいんだろうっていつも泣いています。でも、レオ様はいつもいつも強気で、だから、レオ様なら戦況を覆せるんじゃないかな、って」

「敵の陣形は?」

「横に広いことだけは、わかっています。縦に長いわけではありません」

「その現状は変わらず、要は包囲して殲滅するつもりだというわけですか」鼻から息を漏らし、それからヨシュアは首を縦に振り。「だとしたら、准将の判断はやはり、正しいとなる」

「そのとおりです。その上で確固たる橋頭保を築く。そうおっしゃっています」


 わかりましたと言い、ヨシュアは大きな声で側仕えのニンゲンに「フォトンを呼びなさい!」と告げた。


「レオ准将に期待します。貴女を含めた彼女の部隊が敗北するようなら、いよいよ待ったなしになってしまう」ヨシュアの声色には深刻さが含まれているように感じられる。「だったらそうならないために、うまいこと兵を配置すればという話ではあるのですが、その思いに潤滑さが見られるのであれば、私は苦労をすることはないのであって」


「はい」とカーニーは頷いた。「これまでのあいだにおいて、アーカムの兵隊と最も長い時間をともにしてきたのは、レオ様です。彼らのことを一番理解しているのがレオ様なんです。無茶はしません。ただ、私はこの戦争に、勝ちたいです」

「勝ちますよ。陛下の名において、負けはゆるされない」

「そのとおりですよね」カーニーは、にこっと笑った。「では、戻ります。戦えるんです、私だって。がんばりますっ」


 期待します。

 やはりヨシュアはそう伝え。


 カーニーが、玉座の間をあとにする。

 移送法陣にて、とんぼ返りすることだろう。


 スフィーダは左隣を見上げ、「我が国始まって以来の、大きな戦争になるな」とヨシュアに言った。


 ヨシュアは「もう始まっています」と口にし、「本当にもはや、待ったなしなのか。そうなのでしょうね。きっとそうなのでしょうね」と残念そうな顔をした。


「すぐに勝ったほうがいい。それだけじゃ」

「おや、陛下。賢いではありませんか」

「馬鹿にするな。それくらいアホでもわかるわ」

「ただ、最後に控えているのはネフェルティティ様であるわけです。私どもの全戦力をもってしても、敵わない可能性がある」

「奴めはわしがなんとかする。おまえにはヒトとヒトとの戦争に、ケリをつけてもらいたい。悲しく、むなしいことには、変わりないがの」


 御意と答えたヨシュアだったが、その声には力が感じられなかった。

 このような状況に陥ってしまったことが、やはり無念でならないのだろう。

 ヨシュアはネフェルティティのことを、嫌いにはなりきれないのだ。


「フォトンとの場は、セッティングいたします」

「いや。気を遣ってもらわんでかまわん。奴とはうまい酒を酌み交わしたい。その場に居合わせられれば、それでよい」

「アルコールなど飲めないにもかかわらず、生意気な口を利かれるではありませんか」

「まあ、そうなのじゃが。深く切り込んだ折、ネフェルティティめはどう動くかのぅ」

「その点においてすみやかに解が得られれば、より深く、ネフェルティティ様のご性格を把握することができるのかもしれませんね」

「激戦になるぞ」

「国家の防衛については、リンドブルム中将に担っていただこうと考えます。なぁに。うまくいきますよ」


 ヨシュアは事あるごとにそんなふうに軽く言うのだが、それがわかっていても、その言葉はいつもスフィーダに安心と安寧をもたらしてくれる。


 ただ、ただ……。


「ネフェルティティめを、失いたくはないぞ。対ダインを考えた場合、奴の存在は肝要じゃ」

「理解しております」


 そう。

 どうしたって、けんかはしたくない。


 同じく女王だ。

 同じく魔女、だ。


 ネフェルティティとは、揉めたくない。


 ヒトと彼女とを天秤にかける。

 そんな真似、したいはずがないだろう?


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