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全力女王!~気高き幼女は死神に見捨てられたのか?~  作者: XI


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552/575

第552話 腹を括るより他にない。

       ◆◆◆


 アーカムより戻った夜、スフィーダの私室には彼女の他にヨシュアがいる。

 スフィーダはベッドの端に座り、ヨシュアは椅子に腰掛けている格好だ。


 暗闇の中、机の上のランプの灯りだけが明るい。


 スフィーダは困っているし、怒っている。

 ネフェルティティが「ヨシュアが欲しい」など言ったからだ。

 以前からそのような物言いはしていたのだが、国を天秤にかけてきたのだから、どうかしていると思わざるを得ない。


 プサルムを救いたければヨシュアを寄越せ。


 その言い分のとんでもなさに、ネフェルティティは気づいているのだろうか。

 気づいていないわけがない。

 奴は無茶を言っている。

 国家元首が聞いて呆れるというものだ。


 そのへん、もちろん、理解しておるのじゃろう?

 スフィーダはヨシュアにそう訊ねた次第だ。


「わかっております」というのが、ヨシュアの答え。「ただ、かの女王陛下は、どこまで本気で物をおっしゃっているのかわからない」

「まあ、そうなのじゃが……」それはスフィーダも認めるところだった。「ヒトが一人降れば兵を引く……。奴にとってはわかりやすい構図なのかもしれんが、おまえが言った通り、どこまでガチなのかわからんの」

「しかし、たとえば」

「たとえば?」

「いえ。私がネフェルティティ様のおそばにいれば、戦火の拡大は防げるだろうと思いまして」

「それは間違いないのだと言っておる」スフィーダは吐息をついた。「無茶ぶりされまくっている以上、簡単におまえをやるわけにはいかんぞ」

「嬉しいお言葉です。キスをしてさしあげましょうか?」


 思わぬ唐突なセリフに、スフィーダは「へっ? へっ?」と戸惑ってしまう。

 顔もきっと、実った桃みたいに赤みを帯びている。


「冗談ですよ」とヨシュアは笑った。

「ぶぅ」と口を膨らませたスフィーダである。


「しかし、こうなってしまった以上、もはや是非もなし。ぶつかり合わなければなりません」

「わかっておる。じゃがのぅ、ヨシュアよ、じゃがのぅ……」

「極論、ヒトとネフェルティティ様のどちらが陛下にとって大切なのか、そういう話になります」

「……ネフェルティティは」

「ネフェルティティは?」

「あっちは望まんでも、わしは家族みたいに思っておるのじゃ……」


 ヨシュアはランプに横顔を照らされながら、「であれば、いかがいたしましょう?」と問うてきた。


 スフィーダは苦笑した。


「いや。なんでもない。たとえ家族であろうと、間違いを犯した者は、律し、正さねばならん」

「事をかまえるのですね? それをよしとされるのでございますね?」


 若干の逡巡はあったが、「うむ」と頷いてみせる。


「このまま進捗するのであれば、誰かが首を刎ねてやらなければならん。その役目がわしであることを、心から願ってやまん」


 胸に右手をやり、深く息をついたヨシュア。

 彼らしからぬ、大仰な仕草だ。


「私は決して、ネフェルティティ様が嫌いではないんですよ。陛下さえいなければ――」

「いなければ?」

「いえ。なんでもありません」


 気持ちを入れ替える、あるいは気持ちを込めるつもりで、スフィーダはバッと両手を突き上げた。


「やるぞ。もはややむなし。戦時下じゃ」

「総力戦になります。私は前を向きたい」

「後顧の憂いなく戦いたくば、どうしたらいい?」

「首都は例によってケイオスとルナとその他の部隊が、それ以外はフォトンとリンドブルム中将に出張ってもらいます」

「国境は?」

「引き続き、レオ准将に担ってもらいます。彼女は鼻息が荒い。ようやく出番が来たのか、と」

「戦闘的すぎるのは買えん」スフィーダはまたも苦笑する。「じゃが、それぐらいの気概でいてもらったほうが、よいのかもしれんの。戦をするに必要なのは、なにより思いと気持ちじゃ」

「指示が伝達され次第、開始いたします」

「長い戦争にならんことを祈る」

「強国同士の火花。だからこそ、あっという間に、事は散って沈みます」


 目を閉じ、スフィーダは大きく息を吸った。


「わしらの仲もこれまでか、ネフェルティティよ……」


 するとヨシュアは、「最大限努力します」と言い、出て行った。

 なにを努力するのかまでは、明言してくれなかった。


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