第547話 ヤオディ、その三。
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夜。
スフィーダの私室。
スフィーダはベッドの端に腰掛け、ヨシュアは椅子に座っている。
「ヤオディの大将軍からの依頼です。一目、ナマの陛下にお目にかかりたいのだと」
「大将軍? 誰じゃ?」
「ラオシ閣下といいます。ご存じですか?」
「いや、知らん。知らんのはなんだか申し訳ないのぅ」
「偽善が過ぎますね」
「な、なぬっ?!」
「結論を申し上げると、会う義務も義理もないかと」
「そう考えたのであれば、おまえはどうしてわしに伝えてきたのじゃ?」
「よいご質問です」
ヨシュアは鼻から息を漏らした。
肩も下がった。
「なにかあるのか?」
「なにもありません。ただ、老兵だと聞いているものですから」
「老兵、老兵か」
「はい」
「わしはどうしたらよいのじゃ?」
「お任せいたします」
「ほぅ。いきなりの通せんぼはナシか」
「危険はないと踏んでいます。さあ、どうされますか?」
スフィーダは立ち上がり、えっへんと胸を張った。
「わしの出番じゃ。会うぞ」
「フォトンの部隊はまるっと下げます。私も首都に残り、先導はピットとミカエラに任せようかと考えております」
「それでよい。むしろわしがピットとミカエラを率いてやるぞ、わはは」
「とまあ、ここまで冗談を申し上げたわけですが」
いきなりそんなことを言われたので、スフィーダは目を白黒させてしまうくらい驚いた。
「ななっ、なんじゃ? 全部、冗談だったのか?」
「フツウに思考すれば、女王陛下を戦地に寄越そうなどとは」
「嫌じゃ、嫌じゃ。わしはゆくぞ。もう決めたのじゃ」
「でしたら、一つ、お約束ください。ピットとミカエラがやられた場合、移送法陣にて速やかに帰還してくださいませ」
「そんなことがあり得ると、本気で思っておるのか?」
「心積もりの問題です」
「わかった。やむを得まい。約束するぞ」
「あと、起きたことはつぶさに報告してくださいませ。事象を表現することは陛下がとても苦手とされる分野だとは思いますが」
「がんばるぞ。それくらいはがんばるぞ」
ヨシュアも椅子から腰を上げた。
今日もスフィーダの頭をぐしぐしと撫でるのだ。
「いったい、私どもはどれだけ国を亡ぼせばよいのか」
「滅ぼしてはおらんじゃろうが。正しき道を説いているだけではないか」
「その正しさの基準は、誰が決めるのでしょうか。まさか神などいるわけがありませんしね」
「そんなものわしらが決めればよい」
「ほぅ。珍しく強気なことをおっしゃるではありませんか」
「わしは女王ではあるかもしれんが、それ以前にスフィーダじゃ。おまえが仕えてくれるうちはおまえを退屈させるような真似はせん」
ヨシュアがきょとんとしたように目を丸くした。
「まさか陛下に説き伏せられようとは。思いもしませんでしたよ」
「あまり馬鹿にするな。わしは年寄りなんじゃからの」
「お仕えいたします。とこしえに」
「おまえのそのセリフ、わしは大好きじゃぞ」




