第545話 ヤオディ、その一。
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ヤオディ相手に奮闘中らしい。
メグ自身が語ったのだから、その通りなのだろう。
裏切りの過去があろうと、今さら背を向けられるとは思いたくない。
ブレーデセンの首相官邸にある小さな会議室。
ここを訪れるのは最後にしてくれと、ヨシュアから言われている。
「状況はつぶさに観察、把握しています。一歩踏み出し、状況を打開したいところですね、メグ・シャイナ首相」
「その通りです、ヴィノー閣下。正直に申し上げます。我々だけではやりきることができません」
「承知しています。でなければ、私が呼ばれた意味も意義もない」
顎に右手をやったヨシュアである。
「我が軍の力をもってすれば、ヤオディが相手でも遅れをとることはありません」
「心得ております。フォトン・メルドー少佐ですか?」
「彼を出す出さないは私の判断です。我が国はすでに腕利きの使い手を四人も出撃させています。彼らだけでなんとかしたいですし、またなんとかなるとも考えています」
スフィーダは一つ頷き、左方を見た。
ヨシュアを見上げる。
「エヴァにピットにミカエラ、それにマキエのことじゃな?」
「ピットとミカエラには、これを機に、また一皮むけて欲しいところですね」
メグよ。
そう呼び掛けたスフィーダである。
「恐らく、事後報告だけになるはずじゃ。その旨、心得ておるか?」
「かまいません。ただ、我が国の安寧に貢献してくださった方とはお会いしたいです」
「らしいぞ、ヨシュア」
「手配しましょう。四人とも面白い顔はしないことでしょうが」
「最大限の礼を尽くします」
「そうしてやってください」
パチッとウインクをした、ヨシュア。
メグはにこりと笑うだけだった。
なんだかこう、マダムキラーだ、ヨシュアってば。
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夜、玉座に戻ったのである。
左隣にはヨシュアが立っている。
夕食が出てくるまでのインターバルである。
「メグは従順じゃ。変わったのか、もともとああいう人格じゃったのか」
「後者でございましょう。悪い人物ではないと踏んでいます。とにかく国のことを第一に考えられる女性なんですよ」
スフィーダは腕を組み、目を閉じた。
「また多くのヒトの血が流れておるのぅ」
「やむを得ない場合もあります」
ふーっ。
自らを落ち着かせるように、一つ息をついた、スフィーダである。
「戦わなければならんか」
「戦うことこそ、ヒトの歴史でございます」
「わしは戦いのない世界を作りたい」
「現状、それは、無理だと言ったら?」
「やはり、無理なのか……」
スフィーダは改めてヨシュアを見上げる。
彼は右の頬をぽりぽりと掻いてみせた。
「懸案事項が一つ、減りました」
「懸案事項?」
「無論、ブレーデセンの件でございます。メグ首相が心を決めてくださったことで、我々は対ヤオディに注力することができる」
「本当に足りるのじゃな? 我が軍は、足りるのじゃな?」
ヨシュアに「しつこいですね」と言われてしまった。
スフィーダは俯いた。
国のためとはいえ、死する兵には掛ける言葉などやはりない。
「陛下。それでも知っておいてください。我が国は人材に恵まれています」
「人材がおるから、それほどの数にはならんということか?」
「そうは言いません。陛下。プサルムに栄光を」
プサルムが我が子であることを、スフィーダは改めて実感した。




