第539話 リンドブルムの進言。
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「まあなんというか、結局のところ、ブレーデセンに上陸はしているわけで、戦場も当該であるわけですが」
老人と呼んでも差し支えがないくらいに年を重ねた、それでいてまだまだ若々しいリンドブルム中将が、赤絨毯の上に立っている。
片膝をついて礼をしていたのだが、立ってもらった次第だ。
だが、「立ってくれ」と言わなくとも立っていた気がする。
豪胆な男なのだ、リンドブルムという男は。
スフィーダは「ヤオディについてじゃな? なにか特段の問題でもあるのか?」と訊いた。
「喧嘩っ早いし、結構、向こう見ずな団体さんです。自爆目的の兵が結構います」
「自爆目的?」
「自らの身を顧みない特攻兵ですよ。どうです? 恐ろしい話でしょう?」
スフィーダは肩を落とし、それからため息をついた。
「リンドブルムよ、おまえには苦労をかけてばかりじゃ。すまぬ」
するとリンドブルムは大きな声で笑い。
「スフィーダ様がスフィーダ様だから、俺は戦うんですよ。アンタは俺よりずっと年寄りだ。俺よりずっとつらい目をしてきたはずだ。ピクニックに行きたいとすら言えないはずだ。自由に生きることはできないはずだ」
あまりに気遣ってもらっているようなので、スフィーダはうるうるしてしまう。
「しかしリンドブルムよ。それはわしが選んだ道なのじゃ」
「ええ、はい、そうおっしゃる。だからもういいですよ。無理問答はよしましょうや」
グスグスと鼻を鳴らしながら、目元の涙を拭ったスフィーダである。
「ピットとミカエラ、それにエヴァで事足りるか?」
「なんとでもしますよ。今はマキエもいますしね。で、だ。ブレーデセンとのコミュニケーションについてなんですが、結構、頻繁に先方とは話をしています。ただ、しっくりこない」
「なにがしっくりこないのじゃ?」
「メグ・シャイナ首相。ご存じですか?」
スフィーダは「うんうん」と頷いた。
心当たりがなければ、頷いたりしない。
「美熟女じゃろう?」
「ええ。美熟女でしたよ」
「会ったのか?」
「恐れ多いながらも、お会いしました。立派な人物には見えましたが、裏には不安が見て取れた。ま、じいさんの見立てでしかありませんがね」
今度はスフィーダ、顎に右手をやり、「うーん」と唸った。
ヨシュアが「彼女に安心感を与えるために派兵しているのではないのですが」と発言した。
するとリンドブルムは「冷たいじゃねーか、ヴィノー閣下よ」と言うと口をへの字にして、それからスフィーダを見た。
「シャイナ首相は本当に気が気でない様子です。もともとはそういう人物なのではないのでしょうが、なかば毅然さを失っている。そこでだ女王陛下、彼女に会っていただけませんかね」
目を丸くしたスフィーダである。
「わしが? メグ・シャイナに?」
「はい」
玉座の左に控えているヨシュアのことを見上げると、彼は一度だけ、こくりと頷き。
「会ってやってくださいよ。戦争の匂いに震える女なんて、俺は見たくない」
それを聞いて、スフィーダは「ふっ」と笑った。
「ある意味、不敬ですかね。こんなことを言っちまうのは」
「いや、会うぞ。わしが力になれるのであれば、協力したい」
がしがしと後ろ頭を掻いたのは、リンドブルム。
「貴女に頼ってちゃあ、ヒトはいつまで経っても己の足で立つことができない。自立できないんです。そんなことは、嫌というほどわかっているんですがね」
「わしは道具じゃ。好きに使ってくれてよい」
スフィーダ、仕事ができたので、正直、嬉しかった。




