第538話 シュンレイ・コンス、その三。
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昼食後、スフィーダは玉座の上にいた。
左隣に立つヨシュアと雑談していたのである。
そこにヴァレリアが訪れた。
豊かな茶色い長髪。
挑発的な目元。
洗練されたスタイル。
今日も妖艶だ。
ヴァレリアは片膝をつき礼を尽くすと、ヨシュアのゆるしに従い、立ち上がった。
「ララ氏は?」
「閣下、それをあえて述べる必要が?」
「なにせ陛下がいらっしゃいますので。報告しなさい」
「速やかに殺害しました。事後、帰さないという構えを見せられたので、他の兵も焼きました」
「わかりました。ご苦労でした」
どことなく悲しげな笑みを向けてきたヴァレリアである。
「かわいそうでしたね。かわいそうだった。そういうことでございます」
「敵兵が?」
「はい。上役を、ララ氏を信じ、また敬っているようでしたから。さぞ悔しかったことでしょう」
ヨシュアは二度、三度と小さく頷いた。
一方で肩を落としたスフィーダ。
「むなしいのぅ。なにがそこまでララを掻き立てたのか」
ヴァレリアが「彼女もまた、戦士だったのでしょう」と言った。
続いてヨシュアが「ともあれ、これでグスタフは静かになります」と口にした。
「おまえは相も変わらずドライじゃの」
「割り切れなければ大将などやっておりません」
「まあ、そうなのじゃろうが」
「ただ、嫌ですね」
「なにがじゃ?」
「曙光が海を、百年水道を渡って我らがローラ大陸に攻め入ってきた場合、グスタフは矢面に立たされることになります。その際はどこまで支援できるのか。各国との調整を含め、難しい課題です」
「戦うのか否かということか?」
「戦うのは当たり前のことです。誰が戦うのかが問題です」
「わしらがやるしかないじゃろう?」
「そうですね」
ヨシュアは苦笑じみた表情を浮かべた。
するとヴァレリアが「我が国が主導的に曙光へと攻め入ることはしないのですか?」と訊ねた。
「大尉、貴女らしくない発言ですね」
「おや。私が意外と好戦的であることはご存じだと思っておりました」
「こちらからなにかをすることは、現状、タブーだと考えています」
「機会を窺っている。そのように聞こえなくもありませんが」
「あまりいじめないでください」
額に右手をやり、ゆるゆると首を横に振ったヨシュア。
「えてしてうまく回らないのが世の中というものではありますが、ここまで不確定要素が多いと頭が痛くなりますね。私が生きているあいだに、いったい、どこまでできるのか」
ヴァレリアは微笑んだ。
「閣下が弱気の虫を飼われてしまうと、あるいは世界の趨勢に関わるかと」
「プレッシャー、ですね」
「戻ります。今日も部下に稽古をつけてやらければならないので」
「ええ。これからの働きにも期待します」
スフィーダは「ヴァレリアよ。また会いたいぞ」と告げた。
「その折はお呼びください。プライオリティを上げて対応いたします」
「そなたは立派じゃ」
「恐れ入ります」
立礼すると颯爽と身を翻し、ヴァレリアは去っていった。




