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第536話 シュンレイ・コンス、その一。

       ◆◆◆


「シュンレイ・コンス?」

「以前にもお話したのですが、すっかりお忘れでございますか?」

「いいい、いや、忘れてなどおらんぞ。あれは確か、確かじゃな――」

「潔さに欠けます。感心しませんね」

「う、ぅぅぅ。悪かった。要点だけ教えてくれ。忘却のかなたというわけではないのじゃ」


 昼食のさいちゅうに行われている会話である。

 白いテーブルを挟んでスフィーダの向かいにはヨシュアの姿。

 二人して今、口にしているのはえんどう豆の冷製スープである。


「グスタフについては?」

「あちこちから支援を受けつつ、再建中じゃろう?」

「では、それを邪魔する者達がいるのだとすれば?」

「なにが目的じゃ?」

「把握できていません」


 スフィーダは口元をナプキンで拭った。

 ヨシュアはいまだ品よく口をつけている。

 スフィーダ、自分はいつも、ずずずっと音を立ててしまうので、その点、改善したいと思っている。


「それこそ、PМCだとか言っておったな」

「文字通りでございます。私設の軍隊でございますよ」

「今一度じゃ。グスタフを掻き乱す目的は?」

「ですから、なにかが面白くないのでしょう。恐らく、自国であるグスタフ、そこに関わってくる国や軍隊が気に入らない。だから、テロ的な行為に走る」


 二度頷き、スフィーダは右手を顎にやった。


「首魁の人物の名は、ララというそうです」

「ララ? おななのか?」

「だから、手をこまねいているという事実があります」

「おまえが手を出しづらいというだけじゃろう?」


 肩をすくめてみせた、ヨシュア。

 苦笑まで浮かべた。


「シュンレイ・コンス自体は、グスタフから引っぺがさないといけません。国の復興を進めるにあたっては阻害的な要因でしかありませんから」

「たとえば、フォトンは?」

「彼は能動的に女性を殺すことはできない。その意思がある以上、ヴァレリア大尉に命令を出したところで、それはあまり意味はない。言わずもがな、大尉はフォトンの部下なのですから」

「命令なのに聞かんのか?」

「それもときと場合によるということです」


 ここでスフィーダ、「わしがララに会ってみるというのはナシか?」と訊いてみた。

 すると、「その案は思いつきませんでしたね」という回答があった。

 彼女が「なんとかできるか?」と訊ねると、彼は「冗談ではありません」と返してきた。


「とはいえ、テロリストごときに遅れをとってしまう女王陛下であれば、それはそれで心配なのですが」

「決まりじゃな。明日でよいな。ついてこい」

「無鉄砲で乱暴なご意向です。やはりあまり感心しませんね」

「それでも、わしは行くぞ。ララとやらに真意を問いただしたい」

「問いただすまでもありませんよ。彼女らの目的はグスタフの解放です」


 スフィーダは運ばれてきた鯛のカルパッチョを見て「わぁ」と、まあるい声を発した。

 いつも食べている料理なのだが、出されるたびに新鮮に映る。

 根が単純なのかもしれないが、誰よりも素直なのだろうと思うことにしている。


「そのララ氏に、ヒトの道でも説いてやろうかと?」

「そうは言わん。わしはそこまで偉くないしの。ただ、話を聞いてみたいという思いは強いのじゃ」


 ヨシュアがカルパッチョを食した。

 にこりと笑む姿が愛らしい。

 うまい料理、その味を共有できることは喜ばしいのだ。


「わかりました。明日の正午に訪れましょう。会えないことはないでしょう」

「すまんな。面倒ばかりかけて」

「ララ氏は美しい女性だと聞いています」

「じゃったら、どこかに嫁げばいいじゃろうにのぅ」

「陛下、それは差別的発言でございます」

「そうじゃな、その通りじゃ。すまんかった。とても、すまんかった」


 外に出られるのは本来ならナシでございます。


 ヨシュアはそう言ったのだが、最大限、意思や意向や意見を尊重してくれようとしている。


 感謝、感謝なのだ。


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