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全力女王!~気高き幼女は死神に見捨てられたのか?~  作者: XI


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527/575

第527話 闇夜の舞い。

       ◆◆◆


 スフィーダは玉座に。

 彼女の左のかたわらにはヨシュアが。

 二人の視線の先には、ことのほか肌が白い細く若い女がいる。


 そのおなは言った。


「私はなにに見えますか?」


 深い問いだなと感じ、スフィーダは右手を顎に当てた。


「美しい白いドレスじゃ。踊り子ではないのか?」

「スフィーダ様でも、それくらいはわかるのですね」


 嫌味を言われたわけではないだろうと思い、スフィーダは笑むだけにしておいた。


「舞いでも見せてくれようと言うのか?」

「はいっ!」


 いきなり元気のよい返事が返ってきたので、スフィーダ、びっくりした。


「バレリーナなのか?」

「いいえ。もっと安っぽい劇団の踊り子です。でも、誇りを持っています」

「それは素晴らしいことじゃ」

「本当に、そう思われていますか?」

「ん? 嘘に聞こえたか?」


 すると女子はにこりと笑い。


「やっぱりスフィーダ様は思った通りの方です。素晴らしいです」

「見るからに若い女子に、素晴らしいなどと言われたくはない」

「そうですよね。失礼しました」

「冗談じゃ、冗談じゃ。気さくに接してもらえて、嬉しく思う」

「スフィーダ様」

「なんじゃ?」

「私、もうすぐ死ぬらしいです」

「へっ……?」


 スフィーダの目は点になった。


「し、死ぬとは、どういうことじゃ?」

「死ぬんです、多分、いえ、本当に」

「なにかその兆候でもあるのか?」

「最近、吐血が続いているんです。肺の癌だろうと言われました」

「そう、か……」


 スフィーダは俯いた。

 なぜヒトは、自分より先に死んでしまうのだろう。

 どうして自分は、ヒトより長生きをしてしまうのだろう。


「……して、そなたはなにを言いにきたのじゃ?」

「私にはパートナーがいます」

「パートナー?」

「そうです。将来を誓い合った男性がいるんです」

「その男とは、どういった契りを?」

「なにも交わしていません。私が死んだら、彼には自由になってほしいから」


 鼻をすすった、スフィーダ。

 それを二度、三度と繰り返した。


「そなたは、優しいのぅ……」


 女子は笑った。


「本当に優しいのは彼です。添い遂げようとしてくれているわけですから」


 スフィーダは尚も鼻をすすりながら、前を向いた。


「して、そなたの望みはなんじゃ? なんなのじゃ?」

「今晩、最後のダンスをします」

「その様を見届けてくれということか?」

「まあ、そうなんですけれど」

「他になにかあるのか?」

「すぐそこで、彼と一緒に、踊らせていただけませんか?」

「すぐそこ?」

「はい。すぐそこで、私の最後の舞いを、見届けていただけませんか?」


 彼と一緒にとか言われると、鼻水が出てくる。

 私の最後の舞いとか言われてしまうと、涙が出てくる。


「ヨシュアよ」

「かまいません。至急、段取りを整えましょう」




       ◆◆◆


 白いドレスの女は舞った。

 漆黒のタキシードをまとった男との、宙での社交ダンスだ。


 これが最後?

 最期なのか……?


 涙があふれた。

 どうして自分は無駄に長生きをしているのだろう。

 どうして自分の寿命を他の生命に分け与えることができないのだろう。


 男女は並んで、二人して、宙で片膝をついて礼をした。

 ぱちぱちと手を叩いて祝福したスフィーダ。

 でも、次の瞬間、女子は激しく吐血し。

 そのしぶきが彼女自身の純白のドレスに飛び。


「大丈夫です。本当に、大丈夫、だから……」


 女子はそんなふうに言って、寄り添おうとする男のことも近づこうとするスフィーダのことも遮った。


 女子は口からだらだらと血を流しながら、笑った。


「もう明日死んだとしても、悔いはありません」


 潔い笑みに、苦しさと悔しさは垣間見えなかった。




       ◆◆◆


 ヨシュアが密かにエージェントをつけていたらしい。

 女子が亡くなったという旨を、後日、彼の口から聞かされた。


 スフィーダは泣いた。

 わあん! わああああんっ!!

 そんな大きな声を上げて。


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