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第524話 仲介役。

       ◆◆◆


 昼休みも、まもなく終了。

 スフィーダは玉座にいて、ヨシュアはその左隣、かたわらに立っている。


「西の果て、島国であり強国でもあるヤオディについて聞きたい」

「問題ありません」

「む。そうなのか?」

「はい。ですが、潰し合いになる可能性もございます」

「それはいかんではないか」

「いかんはいかんですが、仕方のない場面もあります」

「むぅ……」

「なんとかするつもりです。ご心配なさらないでください。といっても、陛下になにか訊かれてしまうと、詳しくお答えするよりないのですが」


 右手を顎にやり、ふむふむと頷いたスフィーダである。


「わかった。ヤオディの件は理解した。他にはなにかないのか?」


 両の肩をすくめてみせたヨシュアである。


「アーカムから会談の要請を受けています」

「は? ネフェルティティからか?」

「はい」

「それはまたどうしてじゃ? さすがになにか理由があるのじゃろう?」

「変則的な事案です。少し、お時間をいただいても?」

「いいぞ。わしは暇を持て余している女王であり、魔女じゃからの」


 右手を顎にやり、ふぅと鼻息を漏らしたヨシュア。


「アーカムに最近、吹っ掛けてきた軍があるそうです」

「へ? 軍?」

「具体的に申し上げます」

「そうじゃ。具体的に言え」

「リヒャルト閣下でございますよ」


 スフィーダはびっくりして、目を大きくした。


「はぁ? リヒャルトめが? それはまた、どうしてじゃ?」

「理由については不明です」

「そうなのか?」

「そうなのでございます。とはいえ、恐らくではありますが、以前、自らの右腕であるシオン大尉が傷つけられたことに対する報復では?」

「そんな理由で攻め入ったのか? しかも単独の部隊じゃろう?」

「そうですね。また、その作戦には、それこそシオン大尉自身も加わっていることでしょう」


 深々と溜息をついたスフィーダ。


「リヒャルトは阿呆じゃのぅ。ただ、思い切りがいい点は認める必要があるようじゃ」

「そういう御仁なんですよ。とにかく好戦的なんです」

「そのようじゃな。それで、ネフェルティティからの会談要請とは、どういうことじゃ?」


 いきなりだ。

 いきなり、ヨシュアが右手を伸ばして、スフィーダの頭のてっぺんをぐしぐしと撫でたのだった。

 まあ、驚きはしない。

 彼にはいろいろとゆるしている部分がある。


「それがですね、陛下。ネフェルティティ様は、リヒャルト閣下との仲介をお願いしたいのだ、と」

「はあ?」

「とにかく、そういうことなのでございます」

「今さらなにを言っておるのじゃ。そんなことをしてやる義務などないぞ」

「義務はなくとも、義理くらいはあるのでは?」

「む、むむぅ。ヨシュアよ、おまえは痛いところを突いてきよるな」

「その旨、自覚しております」

「わしが仲介してやったら、両者は矛をおさめるのか?」

「それは陛下の振る舞いいかんでございましょう」


 スフィーダ、腕組みをした。

 簡単な話ではないように思われるのだが、放っておいてよい話でもない。


「わかったぞ。わしはどちらと話をつければよいのじゃ?」

「それは愚問でございますね」

「愚問じゃとぅ?」

「先方、ネフェルティティ様から、こうしたいという話は伺っています」

「奴めはどうしたいのじゃ?」

「仲介役をしてほしいと依頼してきたわけです。要するに、リヒャルト閣下との会談の場に、陛下を寄越していただきたい、と」

「それはわかった。なにをして欲しいのかという話じゃ」

「仲介役というのは、そういうものでございましょう?」

「それはわかっておるのじゃが、リヒャルトのことが気に食わんのであればネフェルティティが焼けばよかろう? 少々不本意な物言いになるが、あやつはそれくらい強いぞ?」


 陛下はお馬鹿さんなのですか?

 ヨシュアにそんなふうに言われてしまった。


「こ、今度はお馬鹿さんじゃとぅ?」

「現時点において、ネフェルティティ様は曙光と揉めるつもりはないんですよ。しかし、自国の兵が食いちぎられたのであればそれはそれで気持ちがよくない。だからこそ、うまい具合に調整してくれと頼まれたわけです」

「そういうことなら、まあ、それこそ意図も意味も透けて見えるというものじゃが」

「どうあれ明日明後日のうちに会談の場は設けられます」

「うーん……」

「なにかございますか?」

「いや。ネフェルティティはネフェルティティじゃ。相手が曙光であるとはいえ、たかが一国の将軍と話をしようなどとは思わんはずなのじゃが?」

「では、ネフェルティティ様が弱気になられている可能性は?」

「あるわけなかろうが。あのネフェルティティじゃぞ?」


 スフィーダは口をとがらせる。

 ヨシュアはというと、前を向いたままでいて、肩をすくめてみせた。


「どうされますか?」

「しゃーない。ゆくぞ。今の世界は危ういバランスで成り立っておる。その天秤を傾けるようなことを、わしは望まん」

「承知いたしました」


 ヨシュアが玉座の間から去りゆく。

 スフィーダが会うと言っている。

 その旨を、関係各所に伝えるためだろう。


 スフィーダは申し訳なくなる。

 自分が手足を動かすだけで、へたをこけば国が傾いてしまうのだから。


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