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全力女王!~気高き幼女は死神に見捨てられたのか?~  作者: XI


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521/575

第521話 晩餐会と馬。

       ◆◆◆


 なぜだかとんとん拍子に話は進み、今、スフィーダはヴィノー家の邸宅にいる。


「週末に晩餐会を執り行います。出席なさいませんか?」


 ヨシュアのその一言がきっかけだった。


 まさかまさかの提案だった。

 だって、「玉座の上が定位置です」とばかり言われているからだ。

 ホールに入るにあたって、ドアマンが目を大きくした。

 びっくりしているに違いないのだ。

 なにせスフィーダってば、女王陛下なのだから。


 ヨシュアに続いて、スフィーダはホールに入った。


「ほえー」


 などという間抜けな声が漏れた。

 赤を基調とした広い絨毯は高そうで、大きなシャンデリアも値が張りそうだ。


 そしてなにより、ヒトの多さにびっくりした。


 なんだか悪いことをしているような気になってしまい、スフィーダはヨシュアの陰に隠れた。

 彼の背の布をぎゅっと掴む。

 こっそり顔を覗かせる。


「陛下、かまいませんから、いつものように、威張ってくださいませ」

「わわ、わしは常日頃から威張っておるつもりはないぞ?」

「言い方を変えます。かわいいスフィーダちゃんをご披露なさってくださいませ」

「む、むぅ……」


 スフィーダがいまだもじもじする中、ヨシュアが「食事の準備を!」と大きな声を発した。




       ◆◆◆


 立食形式である、ブッフェというヤツだ。

 料理が並べられている丸いテーブルは、スフィーダからすると少し高い。

 だから、あれこれ言うと、ヨシュアが取り分けてくれる。

 食いしん坊の彼女は、「おぉーっ」と目を輝かせる次第である。


 皿を持ったまま、んむんむと満足しながらローストビーフを堪能していると、もう年寄りと言っても過言ではないくらいの痩せた男が、スフィーダの前で片膝をついてみせた。

 ジャケットの左の胸に立派な勲章がついている。

 文化功労者に与えられるモノだ。


「やめよやめよ。わしはとってもリラックスしておる。そなたにもそうあってもらいたい。でなければ、わしは泣きじゃくって帰ってしまうぞ?」


 老人は「ご冗談を」と言い、微笑んだ。


「とにかく立ってくれ。申し訳なくてしょうがない」

「しかし、見下ろすわけには――」

「よいと言っておる。わしは幼女じゃ。ぜひとも見下ろしてやってくれ」

「やはりスフィーダ様はお優しい」


 立ち上がると、老人はいよいよ破顔した。


「私は競馬もゴルフもやります」

「おぉっ、そうなのか?」


 エルンスト・スタイナー公爵。

 彼の意志を受け継ぐ格好で、スフィーダは競馬においても、ゴルフにおいても、自らの名を冠した賞を受け持っている。


 ようやく肩の力が抜けたのか、出席者らは食事を楽しんでいるようだ。

 まさに、待ってましたの状況である。


「エルンスト公爵からのご依頼をスフィーダ様が受け取られたと耳にしたとき、私はとても妬きました。羨ましかったのです」

「エルンストが長くないがゆえのバトンタッチじゃ。そう喜べたものでもあるまい」

「そうでございますね」


 老人は目を閉じ、小さく頷いた。


「ゴルフはよいのです。自らの力だけでなんとでもできますから。しかし、馬はいけない」

「どういうことじゃ?」

「ゴルフで死人が出たという話はまず聞きません。ただ、馬が死んだという話はそれなりに耳にします」


 死という言葉を聞かされると、ドキリとして、気が気でなくなるというものだ。


「愚直に走る馬が死んでしまうのか? どうして死んでしまうのじゃ?」

「馬は脚を一本折るだけでも、生きてはいけません」

「そ、そうなのか?」

「馬の精神は強い。ですが、体は結構、ひよわなのです」

「レースで脚を折ってしまうようなことがあれば、それで終わりだということか?」

「その通りでございます」

「そんなの、医者の力でなんとかなるのではないのか?」

「それが無理だからこそ、競走馬は尊いのです」

「じゃあ、わしのレースでもケガをした馬がいれば、予後は不良だとされてしまうわけか?」

「はい。悲しいですか?」

「そうに決まっておるじゃろうが」


 スフィーダは泣きそうになるところを、右手で両目を拭うことで耐えた。


「馬は尊い生き物だと思う。しかし、馬は馬で、報われんケースもあるのじゃな……」

「それでも馬は素敵なのです。ヒトと一体となってゴールを目指す。そこになんの疑いを持てばいいことでしょうか」

「エルンスト・スタイナー。奴めはよい男だったのじゃな」

「私は敬意を抱いています」


 スフィーダは皿の上のモノをがつがつと食し、それからヨシュアに「ワインを持ってこい!」と指示を出した。


「幼女なのです。陛下、その旨、ご存じですか?」

「飲んだことはある。酔っ払ったこともある。いいから持ってこいっ」

「後悔されますよ?」

「あとのことは任せる。最後はおまえがわしを私室にまで連れていけ」

「途方もないくらい高いものがございますが?」

「安いものでよい。ワインの味などわからんからの」

「承知いたしました」

「今日はよい気分じゃ」

「そうなのですか?」

「そうなのじゃ」


 ヨシュアが笑った。


「くどいようですが、幼女の体ですから、深酒はやめてくださいませ。しかし、陛下を私室にご案内することはお約束いたします」

「おまえはイイ奴じゃの、ヨシュア」

「今後もイイ奴でいたいと思う次第でございます」


 世の中には魅力的な男が、ことのほか多いようだ。


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