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全力女王!~気高き幼女は死神に見捨てられたのか?~  作者: XI


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520/575

第520話 ティターン戦役後の十七歳コンビ。

       ◆◆◆


 短い黒髪をつんつんにおっ立てているピットと、赤茶けた髪をショートに整えているミカエラが、玉座の間を訪れた。

 いずれも先のティターンとの争いに参戦していた人物である。

 年は揃って十七。

 戦士として戦場に出向くのは早すぎるとも思うのだが、本人達がそうあることを望んでいるので、上から目線で「ダメだ!」というわけにもいかないのである。


 スフィーダのゆるしに従い、両者は片膝をついた姿勢から立ち上がった。

 彼女は「ティターンとの争い事は、そなたら的にはどうじゃった?」と訊ねた。


「なんか、後味、悪かったっスよ。まさか、一国の大統領がくたばるだなんて思ってなかったし」


 ミカエラがピットの後頭部をぱしっと叩いた。


「な、なんだよ、ミカ」

「アンタの口の利き方がなってないから注意してあげたんだよ。感謝しな」

「厳しすぎんだよ、オメーの場合」

「うるさい」

「はいはい」


 二人のやり取りが微笑ましくて、つい笑ってしまったスフィーダである。


「俺達、まだまだッスよね」

「ん? どういうことじゃ?」

「だってその、奴さんを仕留めたのって、メルドー少佐だっていうじゃないッスか」

「フォトンと自分とを比べるのはよくないと思うがの」

「コイツ、馬鹿なんですよ。自信過剰もいいとこなんです」

「だからってミカ、ヒトの頭をパシパシ叩くんじゃねーよ」

「あたしらとメルドー少佐の部隊は役割が違うんだし、わきまえな」

「わかってるっつの」


 ミカエラが真剣な目をヨシュアに寄越した。


「でも、本当に、これでよかったんでしょうか」

「ミカエラ、貴女はなにが言いたいんですか?」

「だって閣下、ティターンは我が国に編入されかねないわけです。でも、そこに正解はあるのかな、って」

「編入というのは、ちまたの噂です。彼らには彼らの自治独立を促します」

「そうなんですか?」

「あくまでもそうですよ。それ以外のやりようなどありません」


 目元を緩めたミカエラである。


「余計なことを言ってしまいました。申し訳ありませんでした」

「かまいませんよ」


 口元に右の拳をやり、ヨシュアは目を細めた。


「なにを間違ったわけではない。なにが不足していたわけでもない。ミカエラ、私はね、自らの国の利益を慮った結果として、大きな間違いを犯したように思っているんですよ」

「それって、死亡フラグです」

「そうですかね」

「閣下は自らが倒れてしまったときの状況を、もっとつぶさに分析すべきだと思います。閣下とメルドー少佐の代わりは、誰にもできないんですから」

「わかりました。心得ておきましょう」

「よろしくお願いします。さあ、行くよ、ピット」


 そのとき、ピットは腕を組んで考えるような素振りを見せていて。


「やっぱ、ミカの言う通りっスよ。閣下。メルドー少佐も含めて、お二人がいないウチの軍隊なんて、紙切れ同然っスよ。舐められちまうと思うッス」

「だったら、もう少し張り切りましょうかね」

「そうしてくださいッス」


 するとピットはミカエラに「馬鹿」と後頭部を小突かれ。


「ピット、誰よりも苦労してるのが閣下なんだよ? わかってる?」

「わかってるよ。わかってっから、いちいち小突くなよ。いてーんだよ」


 ミカエラは立礼した。


「今回の一件は不幸な事故とも言えると思います。ですけど、そうするより他になかったのであれば、そうするより他になかったんだって思います」


 大きく一つ、頷いたヨシュア。


「ミカエラは、これからはどうしたいですか?」

「そのへん、言っちゃっていいんですか?」

「いいですよ。言ってみなさい」

「西の備え、どうなっているんですか? 私、よく知っているようで、よくは知らないんですけれど」

「西の、それも最果てですね。ヤオディという国家はご存じですか?」

「いくらなんでも聞いたことくらいはあります。ふぅん。やっぱり、揉めちゃってるんですか?」

「揉める要素があります」

「いよいよ強気に出られたってことですか?」

「そうなります。彼らは負けないと強く信じている。実際、曙光の兵をも退けてきたという実績があります」

「それは相当なことだと思いますけれど」

「そうでしょう?」


 ピットが「はいっ」と右手をあげた。


「そのヤオディって国に手を出すってんなら、声を掛けていただきたいッス。最近、思うんス。どうあれ世界が平定されていくんだったら、俺達の出番はなくなっちまうな、って」


 するといよいよ、ミカエラのローキックをもらったピットである。


「アンタ、馬鹿ぁ? 私らみたいなのはいないほうがいいんだよ? それくらい、わかんない?」

「わかってる。わかってんよ。だから、蹴る必要はねーだろ? つーか、おまえだって戦闘狂じゃねーかよ」

「すべて愛の鞭なんだよ」

「ああ、はい、そうですか」

「もう一発行っとく?」

「ば、馬鹿言え。冗談じゃねーよ」


 ヨシュアがここで、「お二人、どう思いますか?」と訊ねた。

 すると「なにがですか?」とミカエラは質問返しをし、ピットも「なにがッスか?」と問い返した次第である。


「西海に浮かぶ島と言えば?」

「イェンファにカナデ、あとはブレーデセンってところッスよね?」

「ブレーデセンが危険です」

「ブレーデセンが?」

「ええ。まだ支援が行き届いていない上に、彼らの技術力を狙って攻め入ろうとしている節がある」

「それがヤオディってことッスか?」

「そうなります」


 ピットは大きく頷いた。


「だったら、そっちにやってくださいッス。精一杯やるッスよ。政治的な判断はお任せするッス」

「承知しました。あなた方をブレーデセンに寄越しましょう」

「えっ、ホントに、いいんスか?」

「ティターンの件は片づきましたからね。あなた達兵士には、次の戦場があってしかるべきです」

「やっぱり、リンドブルム中将の下につけばいいッスか?」

「そのように手配します」

「でもなあ。リンドブルム中将って、もうじいさんじゃないッスか。そろそろ休んでいただいてもいいんじゃないかな、って」


 ミカエラにまた後頭部を叩かれた、ピットである。


「アンタ、やっぱり馬鹿じゃないの? リンドブルム中将より優れた戦略家って、ヴィノー閣下くらいしかいないんだよ?」

「そ、それはわかってるけど、でも、ご老体だからよ、そのへん、もうちょっと気を配っても――」

「それはあたし達が考えることじゃないよ」

「だからまあ、そうなんだけどよ」


 スフィーダは「あっはっは」と笑った。

 ヨシュアはクスクスと笑った。


「なにが正しくて、なにが間違っているのか、そのあたりを見極められるようになりなさい。それができるようになったとき、あなた達は初めて私の手元を離れることになるでしょう」


 二人とも、嬉しそうに笑った。


「私は閣下のことを兄のように思っています」

「俺だってそうっスよ。閣下は兄貴ッス」

「では、その兄の期待を裏切らないように」


 二人は「はいっ!」と元気よく返事をし、ビシッと敬礼してみせた。


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