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全力女王!~気高き幼女は死神に見捨てられたのか?~  作者: XI


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518/575

第518話 リエン・ヴァイスという国家元首。

       ◆◆◆


 スフィーダはヨシュアの移送法陣で運ばれ、国の北方、ティターンとの国境線、その空中に下り立った。

 真っ先に目に飛び込んできたのは、フォトンの背中だ。

 相手のリエンは仕立てのよさそうな黒の背広に身を包んでいる。

 深紅のネクタイが、よく目立った。


 フォトンの接近を防いでいるのは、まぎれもなくアポロンの宝玉だ。

 直径ニ十センチほどの赤い球は、問答無用で紅色の竜を生み続ける。

 フォトンでなければ、とっくにやられていることだろう。


 フォトンは竜に斬り掛かり、あっという間にそれらを駆逐してゆく。


 フォトンが竜を一通り裂いたところで、スフィーダは前へと滑り、改めて立った。

 リエンと話がしたいためである。


「リエンよ。国家元首が泥臭い戦闘か。その気概だけは買ってやるぞ」

「国家元首、ですか」

「違うというのか?」

「違いません。ああ、どうして私はここまで愚かだったのか」

「そうとも言い切れんじゃろう。そなたは常に民のことを思っていたのではないのか?」

「仮にそうであるならば、勝ち目のない戦いに身を投じようとは思わない」


 スフィーダは苦笑した。


「我が国最強の兵の味はどうじゃ?」

「私が手にしているのは神器なのですが。それでも敵いそうもない」

「神器を扱えるだけで、そなたは相当な器なのだと思う」

「それなりに消耗します。あまり長い時間は使えない」

「そのへんが才能の限界なのじゃろうか」

「そう考えます」

「だとしても、そなたは相当な実力者じゃ」

「スフィーダ様、一つお願いしても?」

「なんでも聞くぞ」


 死んでください!!

 そんなふうに、リエンは叫んだ。


 くだんの赤い球から、幾匹もの長い竜が生じ、それがスフィーダ目掛けて突っ込んできた。


 スフィーダは右足を一歩踏み出し、竜のすべてをバリアで遮断、相殺してみせた。


「フォトン! いいですよ、()りなさい!!」


 ヨシュアがそう叫んだ。

 途端の出来事。

 フォトンが突っ込み、リエンのことを袈裟斬りにした。


 この終結ではなにかが足りない。

 そう考え、スフィーダは地に落ちたリエンのもとへと急いだ。




       ◆◆◆


 仰向けのリエンは、もはや薄い息をしているだけで。


「ドがつくほど客観的に見ても、我が国と渡り合えるのは、曙光かアーカムしかない。リエンよ。賢いおまえのことじゃ。それくらい、わかっておったのじゃろう?」

「お預けします」


 細い息をしながら、リエンはアポロンの宝玉を手渡してきた。

 スフィーダはそれを両手で抱えた、胸に抱いた。


「悲しいのか悲しくないのか。それすら、私にはわからない。今の私には、わからない」

「ティターンという大国をまとめていたのじゃ。少なくとも無能ではないぞ」

「褒め言葉ですか?」

「それ以外になんとする」


 リエンが血を吐いた。


「私は孤児でしてね。親の顔すら、覚えていない、思い出すことができない」

「そうか……」

「悲しいお顔をなさらないでください。事実を言っただけなのですから」

「のし上がったのじゃな」

「それだけが生き甲斐だった。それだけが、生きる意味、価値だった」

「妻は?」

「いません」

「恋人は?」

「いません。持ってはいけないものだと思って生きてきた」


 目を閉じ、スフィーダは深く吐息をついた。


「次、生まれてきたときには、幸せにの」

「そう言ってくださるスフィーダ様には、感謝の言葉もありません」


 スフィーダは目を閉じ、少し泣いた。


「どうか世界の統一を。曙光、それにアーカムにも祝福を。あとのことはお任せします」

「わかっておる。まずはそなたが愛した国との関係を改善したい」

「よろしくお願いいたします。さようなら、スフィーダ様……」


 リエンはがくりと事切れた。


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