第512話 テロと薔薇。
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「わしにはわからん……」
そんなふうに、スフィーダはのっけから弱音を吐いた。
「なにがわからないのですか?」
玉座の脇からそう訊ねてきたのは、やはりヨシュアだ。
スフィーダはあっという間に、目に涙をためる。
「テロは理解できんのじゃ。どうしてじゃ? 話し合う余地など、いくらもあろう?」
ヨシュアは肩をすくめてみせた。
「話し合いで済むなら国すら必要ありません。ご理解くださいませ。誰も傷つきたいとは考えておりません。ですが、誰かが傷つく必要があるのが世の中なんですよ」
「わしはそんなの嫌じゃ。気持ちが悪くなるから嫌じゃ」
「陛下が個人的に気持ち悪い思いをする。それを世界の趨勢と比べないでくださいませ」
「じゃがっ!」
「怒りますよ?」
そう言われてしまうと、ビクッと身を引くしかない。
ヨシュアは天井のほうに目をやった。
「どうあれ陛下が正しいのです。私はそれを成すためのお手伝いしかできません。本当に、私はどこまで無力なのでしょうね」
スフィーダはグスグスと鼻を鳴らしている。
「テロリストの話じゃ。無力化できるか?」
「できないから、軍や警察は困り果てているんですよ」
「じゃったら」
「はい。誰かが仕留める必要があります」
「たとえば、フォトンか……?」
「そうですね。ヴァレリア大尉かもしれません」
スフィーダは顔を上げ、改めて鼻をすすった。
「どうしてじゃ? どうしてこんなにもヒトはあっけなく死んでしまうのじゃ? まるで薔薇の花びらが散るかのごとく……」
「そこに潔さを見る者もいます。薔薇としての生を謳歌するのか、もしくは薔薇らしくはかなく花びらを散らすのか、その点は自由だと考えます。要は私どもの対応の仕方次第なんですよ」
「それは悲しい。あまりに悲しい判断じゃぞ」
「そうお思いでしたら妙案を。ネタとなれば一考いたします。しかしながら申し上げます。やはり薔薇は散り際がもっとも美しい」
「偉人の言葉か?」
「いえ。今、私が作りました」
ヨシュアは意地悪だと、スフィーダは思う。




