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全力女王!~気高き幼女は死神に見捨てられたのか?~  作者: XI


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第510話 ネフェルティティとの夕涼み。

       ◆◆◆


 久々の飛空艇。

 アーカムまでの旅路である。


 ロッキングチェアーの上で足をぷらぷらさせている、スフィーダ。

 向かいのごく普通の椅子に陣取り、小説を読んでいる、ヨシュア。

 そして、室内にはもう一人、マキエ・カタセ少尉の姿がある。


「マキエ、よいぞ。ベッドにでも腰掛けてくれ」

「スフィーダ様、それはできないのですよ。なにせ厳命なのですから」


 厳命。

 そうであるらしい。


 マキエ・カタセはフォトンの部隊の有望株なのだが、部隊は今、手が空いているらしく、だからスフィーダの護衛に回されたのだという経緯がある。

 彼女に得難い経験をさせようというわけだ。


 マキエが大あくびをした。

 でも慌てて弁解しないあたりが、彼女が大物たる所以だ。


「ああ、失礼いたしましたですよ、スフィーダ様。でも、本気で眠いのです」

「マキエよ、そなたは護衛には向いていないようじゃな」

「うぉぉぉぉ……。やはりそうなのでしょうか」

「い、いや。頭を抱える必要はないのじゃが」

「それにしてもなのですよ!」

「う、うむっ。いきなり声を高くしてどうした?」


 スフィーダ、マキエがいきなりバッと顔を上げたのでびっくりした。


「命に代えてもスフィーダ様はお守りするのです。約束なのです」

「マキエがやり手なのは知っておるつもりじゃ。しかし、いざというときには、わし自身でなんとかするぞ」

「お手を煩わせたくないのです」

「フォトンから、そう?」

「まあ、そんなところなのです」

「なれば、身の安全については、マキエに頼ることにしよう」

「お任せくださいなのですよ」




       ◆◆◆


 浅い川のほとりに豪奢な(こん)(じき)の一席が設けられている。


 金色、金色、金色だ。

 ネフェルティティは本当に趣味が悪い。

 静かな川のそばでの出迎えあれば、もう少し大人しくてもいいだろうに。


 それでも、川を見る格好だから、それほど雰囲気は悪くないのである。


「よくぞ参った、スフィーダよ」


 ネフェルティティは相変わらず偉そうだ。

 彼女の隣にはえらく顔立ちの整った若い男子が座っている。

 側近なのだろうが、名を訊く気にすらならない。

 とっかえひっかえだからだから、覚えたところで意味がない。


「そして、よくぞ参った、ヴィノー閣下」


 ネフェルティティの場合、ヨシュアを呼ぶときのほうが力が入っている。

 彼のことを側近として迎え入れたいのは、もはや言わずもがな。


「してスフィーダよ、後ろに控えている女は何者じゃ?」

「マキエ・カタセという。そう簡単にはやられんし、くじけんぞ」

「誰が戦闘を申し出た?」

「おまえは信用ならん」

「長い付き合いぞ」

「二度目じゃ。それでもおまえは信用ならん」


 これは異なこと。

 そう言って、ネフェルティティは高らかに笑った。


「それはそうとスフィーダ。この席は涼やかだとは思わんか?」

「その点は否定せん。この河原は非常に涼しげじゃ」

「ヴィノー閣下をもらい受けたい」

「馬鹿め。おまえはそうやっていきなり明後日のほうからモノを言うのじゃ」


 ネフェルティティがお吸い物をすすった。

 先ほどから、松茸の香りが漂っているのである。


「飲んで食ってするがよいぞ、スフィーダよ。誰も咎めん」

「なんの話かと訊いたつもりじゃが?」

「だから、ヴィノー閣下をもらい受けたいと申しておる」

「まだのたまっておるぞ、ヨシュア。おまえはモノ扱いされておる」


 スフィーダの左隣で、優雅に笑んだヨシュアである。


「ネフェルティティ様。私はプサルムを離れるつもりはない、と」

「その点、非常に疑問である」

「と、いいますと?」

「プサルムと比べれば、我が国のほうが力に優れておる」

「そうでございますね」

「また、国民すべてが強くある」

「それも事実でございましょう」

「そなたのことが欲しい」

「それは叶わないと申し上げているつもりです」

「そう、か……」


 いきなりだ。

 マキエが「しゃべってもよろしいですか?」と訊ねてきた。

 もうすでに発言しているのだが、一応の確認をとったということだろう。


「なんじゃ、マキエよ。言ってみよ」

「聞いてはいましたけれど、ネフェルティティ様は寂しい方なのですね」

「へっ……?」


 スフィーダの目は点になった。

 ネフェルティティもそうらしいが、彼女の場合、笑い飛ばした。


「マキエといったか。その通りである。わらわは寂しさの中で生きておる」

「やはりそうですか。でもですね、ネフェルティティ様、残念ながら、我が国は盤石です。ヴィノー閣下はなびきませんし、国としてもひれ伏すことはないのですよ」


 ネフェルティティの側近らしき男が、「きっさまあぁっ!」と声を荒らげ、立ち上がった。

 まだ若いであろうその人物に、マキエは即座に右手を向けた。

 いつでも魔法で仕留められるというサインだ。


「男のヒト。黙っていていただけますか? 私は今、ネフェルティティ様と話をしているのです」

「くっ……っ」

「いくらネフェルティティ様でも、この距離では防ぎようがないと思うのです。スフィーダ様にもヴィノー閣下にも、あまり無礼を働かないでほしいのです。あるいは私が怒り狂ってしまいますから」


 ネフェルティティはクックと笑って。


「わらわも舐められたものじゃ。死にたければなにをしてもらってかまわん」


 するとマキエは右手を引いて。


「死ぬのは嫌です。だから、やめておこうと思います」


 今度はフフと不敵に笑ったネフェルティティ。


「マキエとやらは賢明なようじゃ。そういうニンゲンを、わらわは好く」


 スフィーダは「別に議題はないのじゃな? だったらもう帰ってもよいか?」と訊ねた。


「かまわんぞ。呼びつけてすまなかった」

「ネフェルティティよ。おまえにそんなふうに言われると、気持ちが悪くてかなわん」

「宿を手配してある。泊まってゆけ」

「じゃからネフェルティティよ、わしは――」

「広いベッドで眠ってゆけ。幼女の体での長旅は疲れるものであろう?」

「その優しい言葉。いったいおまえはなにをどうしたいのじゃ?」

「そういうわらわもいるということでしかない。甘えておけ」


 スフィーダはやっぱり、ちょっと変だなと思った。


 ネフェルティティは、あるいは世界を牛耳ってもおかしくない存在だ。

 スフィーダはそう思っている。

 それくらい買っている。


 ただ、側近にはあまり恵まれていないことも知っている。

 だからヨシュアを欲しがるのだ。


 ひょっとしたら、ヨシュアならネフェルティティすらコントロールするのかもしれない。

 しかし彼は、そちらのほうへとなびくつもりはないのだ。


 部下に恵まれたことを喜ぶと同時に、ネフェルティティ、やっぱり彼女は不憫なのかもしれないなと感じた。


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