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第51話 ネフェルティティの来訪。

       ◆◆◆


 傲慢。


 ネフェルティティという魔女を表現するにあたっては、その一言でじゅうぶんだ。


 会いたいという内容のふみはもらった。

 そこまではいい。

 返事が届くのを待たずに、巨大飛空艇でプサルムの領土に入ってきたことが問題だ。

 国境警備隊が乗船し、経緯の説明を求めたところ、「話はついている」と突っぱねたらしい。


 なっていない。

 本当に、なっていない。

 いったい、どこまで自己中心的であれば気が済むのか。


 とはいえ、プサルムはネフェルティティが女王として君臨する国アーカムとは同盟関係にあり、だから彼女を迎えるときは、いつだってVIP待遇だ。


 ヨシュアと相談した。

 セラー首相と話もした。

 結果、イレギュラーな来訪ながらも、今回も国賓として迎えることに決めた。


 決めたのだが、ネフェルティティは言ってくれた。

 客人用の船着場でスフィーダが出迎えるや否や、「わらわは腹がへったぞ。はよう食事を出せ」などと我道を貫いてくれたのだ。

 以前、やってきたときは、「毒を盛られてはかなわん」とか抜かしていたくせに、大した変わりようである。


 当然、スフィーダははらわたが煮えくり返るような思いに駆られたわけだが、そこは嘆息一つで済ませた。

 ネフェルティティになにを物申したところで、無駄に決まっているからだ。




       ◆◆◆


 プールサイドに設けさせた四角いテーブルでの食事。

 

 スフィーダの左隣にはヨシュアがいて、向かいの二席にはアーカムからの客人の姿がある。


 スフィーダの正面に座っているのはネフェルティティだ。

 ”熱砂の女王”と呼ばれる見た目は七つやそこらの彼女の衣装は、今日も金ぴかである。

 ドレスもティアラも黄金色である。

 日の光を受けて反射するので、見ているほうは目がちかちかする。


 浅黒い肌に金色というのは映えるには映える。

 だが、身につけすぎると下品に映るという側面もある。

 とにかくゴージャスであることが好きなのだろうが、趣味の悪いことだ。


 ネフェルティティの隣席には、”魔女に最も近い者”とされる、フェイス・デルフォイの姿がある。

 若い女だ。

 紅色のロングヘア。

 体を包み込むようなマントも紅色。

 紺色のローブ姿もサマになっている。

 色気に満ち満ちているのは、スフィーダも認めるところである。


 食事が終わり、皿が下げられた。

 速やかに食後の紅茶が用意された。


 ネフェルティティの「けっしてうまいものではなかったな」という余計な一言が、またスフィーダの神経を逆撫でする。

 ガチで「もう帰れ」と言ってやりたいところである。


「ところで、スフィーダよ」

「なんじゃ?」

「うぬはヒトと好き合っていると聞いた。本当か?」

「な、なぜ知っておる!?」


 そんなツッコミが飛んでくるとは思わなかったので、スフィーダ、かなり驚いた。

 しかし、かまをかけられたことは払拭できず、実際、ネフェルティティは「おや、事実、そうなのか」と、からかうように笑んだのだった。


「相手は誰か? フォトン・メルドー少佐あたりか?」

「ぐぬっ、ぐぐぐっ」

「おやおや、これまた当たりか」

「おまえの勘は無駄によすぎじゃ。気色悪いぞ」

「気色悪いのはうぬのほうぞ。ヒトとの色事など、けがらわしい女よのぅ」

「うるさいわ!」

「そう吠えるな。ああ、ヒトといっても、美しいヴィノー閣下は別ぞ。ぜひ迎え入れたいと考えておる」

「しつこいぞ。絶対にくれてやるものか」

「プサルムの大将職にうぬの最側近など、まるっきり宝の持ち腐れぞ。我が国に来れば、その手腕、存分に発揮できるであろう」

「おまえは戦争が好きなだけじゃろうが。まったく、なにかにつけて争い事に持っていきよってからに」

「兵も使ってやらねば退屈する」


 その考えにはどうしたって、賛同することができない。

 だからスフィーダ、ふんと鼻を鳴らしてやった。


「本音が出たな」

「わらわのやることに間違いなどあろうはずもない」

「まだ抜かすか。おまえみたいに偉そうな女は、一度、大きなしっぺ返しを食らえばいいのじゃ」

「ほんに、発想が子供よのぅ」


 スフィーダ、今一度「うるさいわい」と言い、ぷいっとそっぽを向いた。


「わらわが何用で参ったのか、訊かぬのか?」

「どうせまた親睦を深めたいとか、そんな取って付けたような理由じゃろう?」

「否」

「おー、なんじゃ。今回はちゃんとした用事があるのか。ネフェルティティのくせに」

「ともにこの大陸の統一に乗り出したいと考えておる」

「おーおー、いよいよ大陸全土を飲み込もうというのか。支配欲の強いおまえらしいのぅ」

「特段、急ぎの話というわけではない。いずれはということぞ」

「とかなんとか言っておきながら、実は我が国をも乗っ取るつもりではないのか?」

「今、そのつもりはない」

「今は、じゃろうが。おまえの言葉はとにかく信用ならんのじゃ」

「この先も親交を保てば、うぬともわかり合えるであろうと、わらわは信じておる」

「信じるのはおまえの勝手じゃ。好きにするがよいのじゃ」


 二千年以上生きてきた者同士、もっと仲良くあってもよさそうなものだが、やっぱりネフェルティティとは、根本的なところでそりが合わない。


 常時、上から目線なので嫌いだ。

 独善的なところに至っては大嫌いだ。


 政治力、統治力は買ってやってもいい。

 そういった点においては、自分より格段に優れているだろうとスフィーダは思っている。

 しかし、ヒトについては生かさず殺さず程度にしか考えていないところが、気に食わない。

 やっぱり嫌いだという結論に至るわけである。


 とはいうものの、感情的な外交などゆるされるはずもない。

 いつかはお互い真剣に顔を突き合わせ、真面目な話し合いをすることになるだろう。

 いざそうなったときには、最悪の事態、すなわち、けんか別れするような格好にならないようにしないといけない。


 そんなふうに考え、スフィーダは一つ溜息をついた。

 冷静になろうと思った次第である。


 そのときだった。


 背筋を冷たいものが滑り落ちた。

 得も言われぬ気配を感じて、スフィーダは天を仰いだ。


 十メートルほど先の宙に、半径一メートルほどの金色の輪が浮かんでいた。


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