第509話 賞金首と賞金稼ぎ。
◆◆◆
「旦那が死んで、もう二十年にもなるんだよ」
◆◆◆
二十年という月日は、けっして短いものではない。
かといって、極端に長いわけでもない。
悠久のときを生きるスフィーダからすると、そんな感じだ。
◆◆◆
改めて、謁見の場。
「ココは何用じゃ?」
「私はいくつくらいに見えるさね」
「夫を亡くしてずいぶんと経つという話じゃが、まだまだ若く見えるぞ」
「私の旦那はなんで死んだと思う?」
「さあ。どうしてじゃ?」
「賞金稼ぎだったんだ。そして本人もまた、賞金首だった」
「そのへんの話には詳しくない。申し訳ないと思う」
ココは「あっはっは」と豪快に笑った。
「スフィーダ様が謝ることはないさね。私が意地悪をした。すまなかった」
「賞金首に賞金稼ぎ。いったい、どういう仕事なのじゃ?」
「賞金首は賞金稼ぎに狙われる。それだけのことさね」
「ココの夫はなにか悪いことをしたのか?」
「してないさ。ただ賞金稼ぎに熱心で、だから賞金首から狙われて、それで賞金をかけられて、結果、死んじまったんだ」
悲しい以前にむなしい話だと、スフィーダは感じた。
「スフィーダ様、じゃあ今の私は、なにをやっていると思う?」
「なにをやっているのじゃ?」
「賞金稼ぎだ。旦那のあとを継いだんだ」
「女だてらにか?」
「私には武器がある」
「それは?」
「飛空艇さ」
スフィーダは目を見開いて、少々驚いた。
「一般人が飛空艇乗りをやっているのは、やっぱりおかしいかい?」
「そうは言わん。ただ、どうやって手に入れたのかと思っての」
「こう見えても、ウチは貴族の家系さね。私有地は結構、広大さね」
「要するに、なんらかの理由で庭を掘っていたら見つかったということか?」
「そうさね」
ココは「あっはっは」と、また豪快に笑った。
「温泉を当てようとしていたのさ。そしたら、飛空挺が出てきた。ウチはみんなで驚いた。国に申し出ようと思ったし、実際にそうした。でも、召し上げられるのはまっぴらごめんだと思った。国の要求を突っぱねて、私は旦那と飛空艇を使って旅に出た」
「旅といっても、国は出られんかったじゃろう?」
「そうでもないさね。あちこち飛び回った。楽しかったんだ、本当に」
スフィーダはこくこくと二つ頷き、それから笑みを作った。
「個人が飛空艇を所持している。それもよかろう」
「あれまあ、女王陛下のオッケーが出ちまったよ。どうしようかね」
「そなたのファミリーネームはなんというのじゃ?」
「スパイキー。その道では、知らない者はいないさね」
「わしはあまり乗ったことがないのじゃ」
「飛空艇にかい?」
「ああ、そうじゃ」
「案外、乗り心地は悪くなかったろう?」
「うむ。そう感じた」
「不思議な話さね。ちょっと機械に詳しい仲間を呼んでみたら、マニュアルっていうのかい? それがついていて、だからその仲間は簡単に運用した。また運用している」
再び、こくこくと頷いたスフィーダである。
「どうやら飛空挺とは、そういうモノらしいの」
「私はこれからも、賞金稼ぎを続けるさね」
「あまり感心できることではないのぅ」
「それでもそういう役割を誰かが担うからこそ、バランスがとれるんだ」
「礼を言う」
「その必要はないさね。なんだかんだ言っても、こちとら好きでやっているんだからね」
スフィーダは苦笑を浮かべた。
「わしはのぅ、ココ、中途半端なのじゃ」
「あるいは殺しを是とも非ともできないからかい?」
「悪いか?」
「悪くはないさ。ただ、身の振り方は決めておいたほうがいいさね」
「肝に銘じる」
「そこまでたいそうな話でもないさね」
ココは三度、豪快に笑った。
「私はこの国が好きさね。だからどうか、守ってほしい」
「約束しよう」
「それにしても、ヴィノー閣下はイイ男さね」
ヨシュアは笑んだ。
「恐れ入ります」
「あれまあ。大将閣下に喜んでいただいたよ。ヴィクトル、見ているかい? 私は元気にしているよ?」
ヨシュアはモノを言わない。
スフィーダもなにかを言うことはやめておいた。
ヴィクトル。
ココの旦那様の名を聞けたことで、なんだか満足した。




