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第5話 女王陛下の想い人。

       ◆◆◆


 スフィーダは玉座に腰掛けていて、かたわらにはヨシュアがいる。

 いわゆる、いつものフォーメーションである。


 長い赤絨毯の先、大扉が向こうに開いて、そこから現れたのは黒い軍服姿の二人である。


 一人は熊のような巨躯の男、若い男、黒い髪は短く、目つきは怖いくらいに鋭い。

 もう一人はメリハリのある体つきの背の高い女、若い女、茶色い髪は長く、目つきは実に柔らか。


 男の名はフォトン・メルドーという、階級は少佐。

 女の名はヴァレリア・オーシュタハウトゥという、階級は大尉。


 二人は部隊をともにしている。

 そう配置したほうがよい理由がある。


 フォトンは過去の戦闘で喉に傷を負い、口を利くことができないのだ。

 対してヴァレリア、彼女は体に触れるだけで、そのニンゲンの思考が読めるという種族の数少ない生き残りなのである。


 筆談させればいいのかもしれないが、それはそれで不便だ。

 だから、ヴァレリアの存在はとても貴重だと言える。


 フォトンとヴァレリアは、所定の位置で揃って片膝をつき、こうべを垂れた。


「フォトン・メルドー、並びにヴァレリア・オーシュタハウトゥ、まかりこしました」


 ヴァレリアが言った。


 少々ぎこちなく「う、うむ」と答えたスフィーダは、自分の顔が真っ赤になっていやしないかと心配する。


「フォトン、元気そうですね」


 ヨシュアが親しげに声を掛ける。

 彼とフォトンは、幼い頃からの付き合いなのだ。


「ヴィノー閣下も、お元気そうでなによりでございます」


 ヴァレリアが、そう返した。

 この程度の会話であれば、そうするまでもないということだろう。

 実際、彼女はフォトンに触れることなく答えた。


 ここで、顔を上げたヴァレリア。


「ところで、閣下、よろしかったのですか?」

「なにがですか? 大尉」

「移送法陣でございます」


 移送法陣。

 いわゆるワープする魔法。

 使い手は限られている。

 主にそれを根拠として、国際法で使用は禁じられている。

 訪れたことがある場所にしか瞬間移動できないという制限があるとはいえ、戦争をする上ではフェアとは言えない魔法だろう。

 だって、反則的な不意打ちをかますには、最適すぎる。


「まあ、国内を移動するだけですから。問題はないと、私が判断しました」

「急事だと?」

「急事と言えば急事ですね」


 ヴァレリアの問い掛けにそう答えると、ヨシュアはスフィーダに流し目を寄越して、クスッと笑った。


 すると、ヴァレリアは「なるほど」と言い、スフィーダに微笑みを向けてきた。


 スフィーダの頬はいよいよ熱くなる。


 スフィーダがフォトンに早く会いたいだろうから、移送法陣の使用を許可した。

 つまるところ、ヨシュアはそう言っているのだ。


 普段なら「からかうでない!」くらいは言うところだ。

 だが、スフィーダは気恥ずかしさからなにも言えず、玉座の上でただ肩をすぼめるだけだった。




       ◆◆◆


 三日後、西から引き返してきた自らの部隊の兵を連れ、フォトンは北方へと旅立った。


 スフィーダはヨシュアと一緒に、地上三百メートルの高さにある船着場で、フォトンの飛空艇を見送った。


 両手の指を絡ませて、スフィーダは無事を祈った。


 愛するフォトンの無事を祈った。


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