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第41話 十七歳コンビの関係。

       ◆◆◆


 ヨシュアに言って、ピット・ギリーとミカエラ・ソラリスを呼んでもらった。

 二人は以前、移送法陣にて首都直上に現れた、赤肌の翼竜と青肌の吸血鬼を退けた男女である。


 呼び出してもらわなければならない理由なんてない。

 もう一度、否、もう一度と言わず、何度も話をしてみたいという純粋な思いがあるだけだ。


 夕方の時間帯、黒ずくめの二人は玉座の間を訪れた。

 赤絨毯の上を堂々と歩いてくる姿が素晴らしい。

 緊張している様子はまるでない。

 本当に肝が据わっているのだ。


 ピットとミカエラは同時に片膝をつく。

 スフィーダのゆるしに従い、揃って顔を上げた。

 立つように伝えると、目をぱちくりさせてみせた。

 よいよいと彼女は促し、二人を起立させたのだった。


「それで、陛下っつーかスフィーダ様、なんの用スか?」


 そんな口の利き方をしたからだ。

 ピットはミカエラに頭をぽかっと叩かれた。


「前にも言ったことじゃが、気軽に接してもらえたほうが、わしとしては嬉しいぞ」

「ですが、スフィーダ様」

「ミカエラよ、本当によいのじゃ」

「しつこくするつもりはありません。わかりました」

「そうじゃそうじゃ。それでよい」

「用件を言ってください」

「おぉっ。そなたもせっかちなのか」

「早く訓練所に戻って、サンドバッグを殴りたいんです」

「コイツ、ほっといたらメシも食わないで殴り続けるんスよ。ホント、馬鹿っぽいスよね」

「アンタにだけは馬鹿って言われたくない。っていうか、あたし、寝ぐせ直してこいって言ったよね?」

「水つけたよ。なんとかしようとしたよ。だけど、どうにもならなかったんだよ」

「ほら。やっぱり馬鹿」

「寝ぐせと馬鹿がどう関係してんだよ」

「察しろ、いい加減。これ以上、スフィーダ様の前でアンタの頭をぽかすか殴りたくない」

「そもそもなんで殴るんだよ」

「馬鹿だから」

「また馬鹿って言いやがったな」


 二人のやり取りがおかしくて、スフィーダは声を上げて笑った。


 続いて、本題に移ろうと考えた。

 実際、口に出すことにする。


「そなたらは付き合っておるのか?」


 すると、二人は顔を見合わせて、それからスフィーダのほうを向き、同じように激しくかぶりを振ってみせた。


 ピットは「幼馴染みってだけッスよ」と言った。

 ミカエラは「あたし、馬鹿は嫌いです」と言った。


「しかし、互いにそう言うわりには、いつも一緒なのじゃろう?」

「それはまあ、そうッスけど……」

「その昔、コイツはあたしの胸を触りました」

「い、いきなりなに言い出すんだよ。つーか、あれはおまえがいいっつったから――」

「そういうわけなので、コイツはあたしのことが好きなのかもしれません」

「ねーよ。それはねーよ。俺は女の胸が好きってだけだ」

「ピット、アンタ、ちょっと最低なこと言ってるよ? 気づいてる?」

「うるせーよ」

「うるさいのはアンタだよ」


 スフィーダ、また笑う。

 愉快すぎて、腹を抱えて足をばたばたさせてしまった。


 一通り笑ったところで、一つ咳払い。

 新しい話を切り出すのである。


「そなたらは士官学校を出たのじゃな?」

「そッスよ。十歳で入って、十五で卒業したんス」

「そうか。十歳か……」

「あれ? スフィーダ様、ひょっとして、ご存じなかったんスか? 十歳から入学できること」

「いや。その旨、少し前にヨシュアから聞かされた。それまではまあったく知らなかったのじゃ」

「ま、無理ないッスよね。スフィーダ様は知らなくてもいいことッスから」

「そう言われると、少々、寂しい気もするのじゃが」

「でも、もうなくなったッスよ、その仕組み」

「あまり大っぴらにはなっておらんらしいが、こやつが物申して、廃止させたと聞いた」


 スフィーダは左方を見上げた。

 玉座のかたわらには、ヨシュアが控えている。

 目を閉じている彼は「兵を志すにあたり、とおは早すぎます」と言った。


「でも、俺達って、実際、十歳で兵士になりたいって思ったんスよ」

「それはどうしてじゃ? 前に話していた通り、この国を守りたいと考えたからか?」

「具体的に言うと、社会とか歴史とかで、曙光のことを習ったからッス」

「教師は曙光を悪と教えたのか?」

「世界の統一に乗り出すかもしれないとだけ教えられたッス。ホント、それだけだったんスけど、でも、いざ曙光がこの国に攻め込んできたら、どうするのかなって」

「そうそう。アンタ、そう質問して、先生のこと困らせたよね」

「困るほうがおかしいんだよ。だってそうなったら誰かが戦うしかないじゃんよ」

「否定はしない。っていっても、あたしは気に入らない奴を殴るだけだけど」

「士官学校に入りたいと言ったとき、親の反応はどうだったのじゃ?」

「ウチは、あっそ、みたいな感じでした。もともとそれなりに軍人を出してる家系なんで。ミカは相当、反対されたみたいッスよ」


 スフィーダはふむふむ頷いてから、「ミカエラ、そうなのか?」と訊ねた。

 するとミカエラは呆れたように肩をすくめ。


「底辺貴族の女は上級貴族様の男を捕まえてなんぼ。そういうことです」

「なるほどのぅ」

「もう行っていいですか? 殴りたくてうずうずしているので」

「ホント、野蛮な女だよ、おまえは」

「ピット、アンタがサンドバッグになる?」

「ミカエラよ、すまんが今夜はわしのわがままを聞き入れてはくれぬか?」

「わがまま? どんなわがままですか?」

「そなたらとディナーをともにしたいのじゃ」


 また顔を見合わせた二人である。


「俺は全然いいッスよ。つーか、光栄ですって言わなくちゃなんないッスね」

「わかりました。あたしも今日はもう諦めます」

「色好い返事、痛み入るぞ」


 十七歳のこのコンビ。

 スフィーダはたいへん好きである。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 甘酸っぱいです。 二人の軽く明るい会話や態度に救われる感じです。 [一言] 作者さまもスフィーダも17歳コンビが好きなのですね。 私も好きです! 士官学校を出ているということは、ここにも戦…
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