第401話 ヴァレリアの、もやもや?
◆◆◆
「最近になって、私はしつこいまでに妬いています」
玉座の間にて、片膝をついた姿勢から立ち上がったヴァレリアが言った。
「それは興味深い。して、そなたに嫉妬を覚えさせている張本人、フォトンはどうしたのじゃ?」
「少佐は眠っておられます」
「寝ておるのか?」
「こっそりベッドから抜け出てまいりました」
「それこそ、妬ける話じゃの」
ヴァレリアは目を細め、実に穏やかな表情を見せた。
「少佐は昔のことを引きずるきらいがある。その上、彼はいい奴です。だから私は、そこのところに嫉妬する」
「わしもそうじゃな。だから、そなたの言い分を否定することはできん」
「そうなのでございましょうね。ただ、なんというか、彼のことについて、陛下と意見をぶつけ合いたかった。それだけのことでございます」
ふふと笑んだヴァレリアである。
スフィーダは「なにが正しくて、どこからが嘘なのかのぅ」と言った。
正論も虚実もない。
ヴァレリアはそう答えた。
「じゃったら、わしは――」
「陛下がどうお考えになろうが、それは自由です」
「嘲られているように感ぜられる」
「気のせいでございます」
「とは、言ってものぅ」
スフィーダは今度は左方、ヨシュアを見上げた。
「陛下」
「んむ?」
「誰が正しいとも言えなければ、誰が間違いだとも言えないのでございます」
「むぅ。深いではないか」
「深くはありません。古から伝わるならわしでございますから」
「しかし、正しいと思わなければ、正しいことはできんじゃろう?」
「神に頼うのが間違いだと申し上げています」
「神はぬるいと?」
「違いますか?」
「違わん」
はっはっはと笑った、スフィーダ。
スフィーダは続けて、「そもそも神がいて、連中がまともな神経を有しているのであれば、この世に争い事が生まれるはずもない。すなわち、神は阿呆だということじゃ。そうじゃろう?」と言い、肩をすくめた。
ヨシュアは深く頷き、「それを踏まえた上で、陛下は陛下なんです。もう少し、言葉を選んだほうがよろしいかと」と紡いだ。
おまえは馬鹿だと言われたような気がしたので、スフィーダは「軽んじるな」と怒っておいた。
クックと喉を鳴らして笑った、ヨシュアだ。
ヨシュアは「我が国を取り巻く環境、あるいは状況は剣呑で、胡散臭い。最近、その旨、強く感じている次第でございますよ」と語った。
「おまえはおまえじゃ。唯一の存在じゃ。この国を守ってみせよ」
「重いお言葉でございますね」
「ばーかを言うな。戯言じゃ。国を守るためだったら、わしかてなんだってするぞ」
「本音を申し上げます」
「うむ。なんじゃ?」
スフィーダを見下ろし、ヨシュアはにっこりと微笑んだ。
「正しく生きましょう。楽しく生きましょう」
あまりにも原始的な言い分だったので、スフィーダの目は点になった。しかし、その通りだと思ったから、すぐに納得がいった。
「陛下に尽くします。私はそのために生まれてきたのでしょう」
「そんなことはあるまい。クロエのことはなんとする」
「まあ、そうでございますね」
「生きよ」
「言わずもがな」
「わしは死んでもよい。じゃが、おまえは死ぬな」
「お言葉ですが、陛下――」
「わしにだって、覚悟はあるのじゃ。その旨、忘れんようにな」
ヨシュアは上体を大きく屈め、礼をしてみせた。
「思っていたよりも、陛下はご立派なのですね」
「そうじゃ、わしは立派じゃぞ?」
「だからこそ、涙をためずにはいられない」
「嘘をつくな。おまえは泣いたりせんじゃろうが」
「そうでございますね」
ヨシュアがふわりと笑うと、場の空気もやんわりと凪となった。
ヴァレリアが、「では、そろそろ戻ります」と言い、「これ以上、二人のイチャイチャぶりを見せられるのはかなわない」と続けた。
「なんだかんだ言っても、仕事はあるのじゃろう?」
「はい。部下を鍛えてやらなくてはいけません」
「そなたに稽古をつけられると、あるいは自信をなくす者も出るのでわないか?」
「我が部隊に、そのような軟弱者はおりません」
「そうじゃった、そうじゃったの。まあ、そのへんはわかっておるのじゃが」
「なにか?」
「いつでもよいからマキエを寄越してくれんか? あの女子とじゃれると、ほんに面白いからの」
「わかりました。伝えておきます」
「頼んだぞ」
ヴァレリアは「はっ」と短く言い、誰よりも美しいお辞儀をした。




