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全力女王!~気高き幼女は死神に見捨てられたのか?~  作者: XI


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第400話 クライム。

       ◆◆◆


 玉座の間。


 赤絨毯の上に、男が二人いる。

 一人は黒い軍服姿の若者。

 もう一人は後ろ手に拘束されている老人である。


 老人は貴族ではないのか。

 茶色い着衣に派手さはないが、ただただ高貴さだけは伝わってくる。


 スフィーダは難しく、また険しい顔をして、「老人を拘束している理由はなんじゃ? あまり感心せんぞ」と告げた。


 すると男が「罪人を罪人として扱って、なにが悪いと?」と、ますます卑屈な笑みを寄越してきた。


「じゃが、その老人にはもはや逆らう気持ちはないように見えるぞ?」

「そう見えるだけでしょう? この男は立派な犯罪者だ」

「なにをどう犯したのじゃ?」

「レジスタンスと決起して、国に仇を成そうとしました」

「本当にそうなのか?」

「でなければ、この老いた男を拘束する理由がない」


 老人に対してスフィーダは「そなた、名前はなんという?」訊ねた。

 レイアムと申しますという返答があった。


「レイアムよ、やはりそなたは貴族に見えるが?」

「多くを語るつもりはありません。ですが、貴族であり、ぐぁぁっ!」


 レイアムのことを前のめりに、男は倒した。

 彼の背に右の膝を押しつけ、さらに悲鳴を上げさせる。


「やめよ。いい加減、怒るぞ。そなたはいったい、何者じゃ?」

「キュルクといいます。中佐です。以後、お見知りおきを」

「悪い記憶になるぞ」

「このじじいが蜂起しようとしていたことは事実です」

「じじいは言いすぎじゃ」


 スフィーダは顔をゆがめた。


「まずはレイアムを解放せい。でなければ、そなたの言い分など聞かん」

「聞いていた通りだ。スフィーダ様は甘いのですね」

「甘い……そうじゃの。しかしわしの期待を裏切るようなやからには容赦せんぞ」

「レイアム卿は犯罪者です」

「それは聞いた」

「重度の犯罪者です」

「それも聞いた」

「でしたら――」


 スフィーダはキュルクの右膝のせいで拘束されている老人に対して、「レイアムよ」と呼び掛け「わしにはそなたが悪者であるようには見えん」と告げた。


 するとキュルクは「ほぅ」と言い、嬉しげな含み笑いをしてみせた。


「罪人を擁護すると? スフィーダ様はそうあると?」

「キュルクよ、性格がひねくれていれば、それは表情に出るものじゃ」

「女王陛下にあるまじき発言ですね」

「レジスタンスだとしよう。じゃが、レイアムはなにをやった?」

「レジスタンスはレジスタンスです。そこに疑いようの余地などありましょうか?」


 キュルクに悲しみの視線を送るスフィーダ。


「キュルクよ、そなたはレイアムに対して、それはもうひどい拷問をしたのじゃろう?」

「だから、それは正しいことだとわたしは言って――」

「じゃったら、レイアムのことはこちらに任せよ。非道な犯罪に手を染めていたのであれば、その旨、関係者に伝える」

「スフィーダ様、貴女は後悔しますよ?」

「うるさい、馬鹿者めが。おまえは何様のつもりじゃ」


 スフィーダは玉座から立ち上がった。

 歩みを進め、そして、キュルクの左の頬を、右手でぶってやった。


「去れ、キュルクよ。そなたの顔など、もう見たくない」


 キュルクはまた、にぃと笑みを浮かべた。


 もう一度ぶってやろうとしたところで、ヨシュアに「陛下」と呼び止められた。


 ヨシュアは「私が代わりを担います」と言い、キュルクの右の頬を左手で強烈に張り飛ばした。


 赤絨毯の上に転がったキュルクは、癪に障る笑みを顔全体に張りつかせた。


「狭量なことだ、ヴィノー閣下」

「聞き捨てなりませんね。クビにされないよう祈ってください」

「本当に、実に狭量だ。私は真実を明かしただけだというのに」

「しかし、キュルク中佐、あなたの心の奥底には、サディスティックなニュアンスがあるようにしか思えない」

「そうお考えになるのはご自由です。まあ、見ていてください、閣下。わたくしキュルク中佐が、現実をご覧に入れてさしあげますよ」




       ◆◆◆


 キュルクの上司は部下を守ったらしい。

 レイアムに拷問を強いたことを許容したらしい。


 今日も玉座の隣に控えているヨシュアからその旨を聞いたスフィーダは、「馬鹿なっ!」と憤った。


「そこにあるのは事実じゃろうが! どうしてそんなことがまかり通るのじゃ!!」

「声を荒らげないでくださいませ」

「荒らげたくもなる!」

「キュルク中佐は裁判にかけます」


 意外なことだったので、スフィーダは「へっ?」間抜けな声を発し、それから「そうなのか?」と問い掛けた。


「私の判断です。寝かせませんよ、彼のことは。それこそ彼にはレイアム卿を拷問に晒した嫌疑かかっている。逃がしません。私の思いです」


 スフィーダはホッとした。


「さすがじゃ、おまえは。心強く思う」

「レイアム卿とは古い付き合いなんです。そして私が知る限り、レジスタンスだということはない。彼は今のプサルムに対して愛情を抱いている」

「ただ、今回の件は、わしが至らんかったからではないかと思っておってじゃな――」

「考えすぎでございます」

「そうか?」

「はい」


 ヨシュアの「はい」には、いつだって威力がある。


「それにしても、キュルクはどうして、わしのもとにレイアムを連れてきたのじゃろうか」

「自らの正当性を強烈に説きたかったからでは?」

「そういうことになるのか?」

「私個人はそう考えます。彼らを自然に通してしまったことによって、レイアム卿には悪いことをしてしまったのですが。しかしどうあれ、この場で断罪できたことは、よかった。失態ですね、キュルク中佐の」

「キュルクは思い切った行動をとったものじゃの」

「私がしばしば申し上げる言葉がございます」

「それはなんじゃ?」

「あまり深く考えないことですよ」


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― 新着の感想 ―
[良い点] スフィーダとヨシュアの関係性。じゃれているようで、いつもプサルムの国を考えて行動しているのがよく伝わってきます。 マキエは推しキャラクターなので、活躍して嬉しかったです。 色とりどりの人物…
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