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全力女王!~気高き幼女は死神に見捨てられたのか?~  作者: XI


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第40話 無限の可能性。

       ◆◆◆


 ヨシュアは関係各所と調整して、ビーンシィにスパイを送り込んだ。

 グスタフとの戦況を逐一報告させるためだ。


 スパイのビーンシィでの滞在期間はごく短いものだった。


 滅亡まで数日。

 それがスフィーダが聞かされた、最初で最後の報告だった。




       ◆◆◆


 ヨシュアとリンドブルムは、ひそかにフォトンと彼の部隊を西の備えから北へと移していた。


 ひそかに。


 そう。

 事がすべて終わるまで、なにも知らせてもらえなかった。

 教えたら「反対じゃ!」と意見すると思われたのだろう。


 フォトンに与えられた任務は、厳しいものだった。

 ビーンシィの国主カタリーナと、その家族を救い出せという作戦だったのだ。


 だが、フォトンがカタリーナに謁見したとき、彼女はすでに自らのみを残して、親しいニンゲンについては、西の隣国、ハインドに逃していた。


 どうして大国のプサルムではなく、小国のハインドに任せたのか。


 その理由は、ビーンシィがなくなってしまった今となってはわからない。




       ◆◆◆


 十五、六歳くらいに見える少年は赤絨毯の上にまっすぐ立ち、片膝をつこうともしなかった。


 黒い背広、正装。

 眉目秀麗とはこのこと。

 そして、確かに彼女の面影がある。


 スフィーダが「名を申せ」と言っても、少年は聞かなかった。

 睨みつけるような目をして「どうして母を助けてくれなかったのですか!」と声を荒らげる。


「名を申せ」

「貴女にならできたはずだ! 母を救うことができたはずだ!」

「名を申せ」

「どうして、どうして……っ」

「わしは名乗れと言っておるのじゃ」

「名乗らずとも話はできます!」

「じゃが、教えてほしい」

「……ラース」

「力強い名じゃ」

「母は処刑されました」

「知っておる」

「美しいヒトでした。断頭台に連れられる前に、野卑な男どもに凌辱されたのかもしれません……」

「そのようなことは考えるな。悲しくなるだけじゃろうが」

「どうして、どうして……っ! 曙光と事をかまえるのが怖かったのですか! スフィーダ様ともあろう御方が怯えてしまわれたのですか!」

「ラースよ、そなた、カタリーナからなにも聞かされて――」

「気安く母の名を呼ぶな!」

「カタリーナは自らの信念を貫いて死んだのじゃ。誇りを抱いて死んだのじゃ。立派だとは思わぬか?」

「立派だよ! 立派さ! でも、死んでしまったらなにも残らないじゃないか!」

「否。そなたが残されたではないか」

「僕になにができるっていうんだ……っ」

「それはこれから、じっくり考えるのじゃ。ただ」

「ただ、なんだよ?」

「絶望し尽くした挙句、復讐だけに執着するのはやめてほしい」

「そんなの無理に決まってるだろ!」

「でも、やるのじゃ。それがカタリーナの望みでもある」

「そんなのどうしておまえにわかるんだよ! 母親になったことなんてないくせに!」


 ヨシュアが動いた。

 相変わらず、その姿勢は美しい。

 背をまっすぐにしたまま、三段だけの階段を下りた。


 そしてさらに歩み、ラースの前に堂々と立つと、彼の左の頬を、右手でバシッと張ったのだった。


 ラースはびっくりしたことだろう。

 のっぽなヨシュアのの真剣なまなざしに晒されたら、気圧されて当然だ。


「誰彼構わず当たり散らすのはやめにしなさい。醜いことですから。ビーンシィは、もはや亡国と化しました。しかし、未来永劫、滅びたままかというと、そうとは言い切れないでしょう?」


 ヨシュアのことを黙って見上げているラース。


「私が貴方の立場なら、国の再興を目標に掲げます。果てしない復讐ではなく、希望ある未来を思い描きます。貴方の家系が長きにわたって国を維持できたのは、統べる者が優秀であり、また魅力的だったからです。恨むことはいつでもできます。すねることだってそうですね。ただ、けっして忘れてはいけないことがあります。貴方には、無限の可能性がある」

「無限の、可能性……?」

「ええ、そうです。若者にはそれがある。肝に銘じておきなさい」


 ヨシュアに優しく頭を撫でられたラースは、彼に抱きついた。


 つらいのだろう。

 苦しいのだろう。


 それでもラースは絞り出すようにして、「申し訳ありませんでした。どうか無礼をおゆるしください……っ」と言った。


「なにかあれば言ってください。力になれることもあるでしょう。でも、自分でできることは必ず自分でやるように。いいですね?」

「はいっ、はい……っ」


 ラースは本当に大きな声を上げて、泣いたのだった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 第39話・40話を拝読して、小国への侵攻と顛末いう重いテーマ。 普段とはまた色を変えスフィーダ始め主要人物の立場や気持ちの動きが見えたところ。 無駄なコマがないなと感じました。 [一言] …
[良い点] 母親を亡くしたラースがスフィーダを責めたくなる気持ちに胸が痛くなりました。 分かっていても誰かのせいにしないと立っていられない。 それでも厳しいことを言ったヨシュアは、ラースの器量と立場を…
2020/03/22 14:35 退会済み
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