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全力女王!~気高き幼女は死神に見捨てられたのか?~  作者: XI


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第399話 過剰接種者。

       ◆◆◆


 タイミングが、よかったのだ。

 ヨシュアの移送法陣にて転送された先も、結果的にオッケーと言えた。


 赤備えがいる。

 渡り鳥らのような鶴翼の陣で構えている手合いがいる。


「目的は問わん。排除させてもらうぞ!」


 スフィーダは強い声でそう叫んだ。


 他の多数の赤備えらがあっという間に、村の上空に至る。

 ここに来て、村人に対して、無差別に攻撃をし始めた。


「やめよっ!」


 スフィーダはそう叫んだ。


 鶴翼の陣の先頭、すなわち、リーダーであろう赤備え。

 その男の表情には卑屈さがあった。


 醜くゆがんだ笑顔で、男は言う。


「早く防御に回ったほうがいいですよ? 私は部下らに対して、すべてを抹殺するよう聞かせましたから」

「おんのれぇぇっ!」


 ヨシュアが「雑魚どもは私が屠ります。陛下は目の前にいるあの阿呆の相手をしてくださいませ」と言った。

 任せてもらえるのは、信頼の証だ。


 ヨシュアが村目掛けて飛んでゆく。

 リーダーを除いた赤備えが、彼のあとをすかさず追う。


 スフィーダ、口をへの字にする。

 にっくき男に対して、「おまえはもう終わりじゃ。観念せい」と告げた。


「果たして、終幕なのでしょうか」

「そう言っておる」

「たとえばスフィーダ様は、ルフランという麻薬をご存じですか?」

「幸せだったときを取り戻せた気になるという、馬鹿馬鹿しい薬じゃろう?」

「ふふ……。馬鹿馬鹿しいと断じてしまわれますか」

「なに?」

「私には戻りたい過去などない。そんな男がルフランを打つことで、打ち続けることで、一つの可能性に気づき、結果、強大な力を得た」

「じゃから、そなたはなにを言って――」

「今の私にとって、スフィーダ様、貴女は敵ではない」


 男の背後に、液体がかたちを成したような数個の小さな黒い球が浮遊した。


 球はスフィーダ目掛けて、突っ込んできた。

 勢いがある、スピーディだ、頑強そうだ。

 刹那のタイミングで、スフィーダはそれをバリアで防いだ。


 威力十分。

 かなり強い。

 防御に徹さざるを得ない。

 だが、それでもなんとか弾き切った。


「赤備えぇっ! おまえは何者じゃぁっ!」


 二十メートルとまでは言わない距離で、くだんのニンゲンは両手を広げてみせた。


「ですから、ルフランにより新しい世界を掴むことができたニンゲンですよ」

「引け!」

「お断りする!」

「最後通牒じゃ!」

「だとしても、お断りする!!」


 スフィーダは舌打ちした。


 面倒なやからだ。

 奴が放つ黒い球には確かな力がある。

 どんどんどんどん向かってきて、バリアとぶつかって鈍い音を立てるのだ。


 不思議だ。

 ニンゲン一人が捻り出す攻撃力ではないようにも思われる。


 正直、じり貧だ。

 麻薬を食らって途方もない力を得る。

 それもまた、ヒトの可能性が成せる技なのだろうか。

 厄介な話である。

 恐ろしい事象だとも言える。

 体に悪いモノでしかないであろう薬も、妙なかたちでフィットするニンゲンがいるらしい。


 だからと言って、引いていいシチュエーションではない。

 倒すしかないのだ。


 敵は強い。

 幾度も何発も、黒い球をバリアにぶつけてくる。

 そこにはなにかの考えがあるのだろうか。

 そんなこと、どうでもいいのだが。


 そのときだった。

 男の頭上から、瞬く間にヒトが降ってきた。


 フォトンだ。


 ときにフォトンが得意とする不意打ちではあるものの、本当の強者ならそれすら凌ぐはずだ。

 しかし、フォトンは赤備えのリーダーを、その巨大な剣でもって、真っ二つに斬り裂いた。


 二つに分かれたリーダーの、男の死体を、上空からの筒状の炎で焼き尽くしたのはヴァレリアだ。


 フォトンとヴァレリア。

 相変わらず、いいコンビである。


 近づいてきたフォトンとヴァレリアが、宙に浮いたまま、スフィーダの前で片膝をついた。


 スフィーダは二人に立つように促した。


 スフィーダが「正直、ちょっと危なかったのじゃ」と苦笑を浮かべると、ヴァレリアは微笑み「またご冗談を」と返してきた。


「ピットの七宝玉に近い代物じゃった。異なるのは、魔法で練り出した球を直接ぶつけてきたという点じゃ。案外、そういった魔法は思いつかんものじゃ」

「陛下はある意味、お褒めになっているようですが、少佐が降ってくることに気づかなかったということを考慮すると、やはり大した敵だとは言えませんね」

「ヴァレリアよ、そなたの分析はざっくりじゃが、それでも的確だと思うぞ」

「恐れ入ります」


 ヨシュアが戻ってきた。

 例によって、宙で片膝をついてみせる。


「よい。ヨシュアよ、立て」


 立ち上がったヨシュア。


「どういったやからでございましたか?」

「手ごわくないこともなかった」」

「危険人物だったのでしょう?」

「そこまで大げさな話ではないように思う」

「相変わらず、楽観的な結論でございますね」

「そうでもないぞ」

「というと?」

「赤備えの全容が知れん。そうである以上、警備を緩くするのはいかんと考える」

「数で押し潰しには限界がありますが、その手法しかありませんね。事あるごとに陛下や私、それにフォトンが出るのは現実的ではない」

「ほんに、つらいところじゃのぅ」

「数ある部隊の中心には、常にやり手を配置しています。それでも敵わないとなると」

「それこそ、難しいところだというわけじゃな?」

「どの兵士の士気も高くあることが幸いでございます」

「無駄死にはしないようにと伝えてくれ」


 脱力するようにして、スフィーダは息をついた。

 勇者達に幸あれと、祈ることしかできなかった。


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