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第39話 曙光の影。

       ◆◆◆


 城内の小さな会議室。

 四角いテーブルが真ん中にあり、スフィーダの左隣にはヨシュアがいて、正面にはリンドブルムの姿がある。


 場は重苦しい空気に包まれている。

 呼び出してきたリンドブルムがものを言わず、ただ難しい顔をしているだけだからだ。

 しかし、二分、三分と経過したところでようやくしゃべる気になったらしく、彼は「例によって、陛下は呼んでないんだが」と口を切った。


「寂しいことを申すな。たまにわしと顔を合わせたところで、バチは当たらんと思うぞ?」

「まあ、そうなんですがね」


 リンドブルムが口をへの字にし、ごましお頭を掻いた。

 それから、彼はヨシュアに視線を向けて「大将閣下殿」と呼び掛けた。


「ついさっき、報告を受けた。八時間ほど前に、グスタフがビーンシィに攻め込んだらしい」


 スフィーダ、少し驚いた。


 ビーンシィ。

 プサルムの北にある小国だ。


 スフィーダが「二国は仲が悪かったのか?」と訊くと、ヨシュアが「いいとは言えないまでも、険悪な間柄というわけでもなかったはずです」と説明してくれた。


「交戦が始まって間もないことから、現状、情報はない。しかし、近いうちに判明するでしょう」

「何が判明するのじゃ?」

「攻め入った兵の中に、いわゆるあかぞなえがまじっている可能性があります」

「ま、まさか、そういうことなのか?」

「はい。曙光でございますよ」


 リンドブルムが「かの国は以前、グスタフを足場にして、ウチの領土を侵犯しましたからね」と言い、「奴さん連中、こっちの大陸でもいよいよ陣取り合戦をおっぱじめるつもりなんじゃないですかね」と続けた。


「我が国は動かんのか?」

「現状では動きようがないんですよ。ビーンシィから支援要請を受けたわけではありませんのでね」

「じゃが、それでは滅ぼされてしまうだけなのじゃろう?」

「本当に曙光が参戦しているのであれば、じきにそうなると見ていい。国主カタリーナは最期の瞬間まで戦い抜くことでしょうが。女傑の家系なんですよ」

「支援要請と言ったが、それは来るのか?」

「俺は来ないと見ています。女傑ゆえの意地ですよ」

「じゃったら、わしが説得してくる」

「陛下御自ら?」

「無理かの?」


 ヨシュアが「親しい隣国と言っても差し支えがないわけですから、会えないことはないはずです」と答え、「首相に調整してもらいましょう」と言った。


 リンドブルムは渋い顔をして、また頭を掻いた。


「陛下、それにヨシュア。あまり深く突っ込みすぎるとろくなことにならんと、俺なんかは思うがね」

「だからといって、見て見ぬふりはできぬじゃろう?」

「そのお考えは理解しますよ。理解するというだけですが。まあ、なんにせよ、北の件についての指揮は、俺が一手に担う。すでにローゼンバーグとシュナイダーには話をつけてある。いいよな? ヨシュア」

「お任せします」




       ◆◆◆


 翌日、会談に応じるとの返答があった。

 だからすぐにヨシュアを連れて、飛空艇にてビーンシィに入った。


 首都にある宮殿、その一室にて。


 カタリーナはまだ三十五歳。

 見る目麗しき美女である。

 身を包む高貴さは確かなもので、気高さも感じさせる。


 椅子の配置は三日月状。

 すすめられ、椅子に腰掛けた。

 適度にクッションが利いたよい品だ。


 自らも腰を下ろし、細い脚を綺麗に斜めに揃えたカタリーナは「ご訪問、感謝いたします」と簡潔に述べた。

 スフィーダは彼女と会うのは初めてであり、また国家間のことでもあるから礼を尽くすべきだと考え「こちらこそ、要請を受けていただき、感謝します」と丁寧に言った。


 すると、穏やかに笑んだカタリーナである。


「私は陛下と対等だとは考えておりません。どうか普段通りお振る舞いくださいませ」

「そうもまいりません」

「よいのです。私がよいと申しているのでございます」


 そこまで言われてしまうと、やむを得ない。


 スフィーダは「じゃったら、普段着の姿でしゃべらせてもらうのじゃ」と告げた。

 優雅に「ええ」と笑んだカタリーナである。


「まず聞かせてもらいたい。敵兵の中に赤備えはおるのか?」

「そういう報告を受けています」

「少し前に、我が国もグスタフとごたごたしての。その際、連中がまじっておったのじゃ」

「その旨は存じ上げております。曙光がこちらの大陸への進軍を、いよいよ始めたということでございましょうか」

「そうとも受け取れるが、ただ遊んでおるだけやもしれぬ」

「遊んでいる、ですか。確かに、曙光にはそういったところを感じますね」

「食い止められそうか?」

「食い止めます」

「できるのか?」

「やります」

「それでも、援軍を出したいと考えておる」

「要請はいたしません」

「なぜじゃ?」

「誇りゆえにでございます」

「敗北は独裁政権への編入を意味するのじゃぞ?」

「兵にしろ民にしろ、士気は高うございます」

「押し込まれれば、下がりもしよう」

「それでも私は否と言い続けます」


 スフィーダ、吐息をつき、目を閉じる。

 カタリーナ、意志の強い女だ。

 まったく、頭が下がる思いがする。


 ヨシュアが「一個大隊を寄越すだけ。それでも受け容れてはもらえませんか?」と訊いた。

 カタリーナはすぐさま首を横に振って「不要です」と答えた。

 続けて口にした「自国だけでやり抜きます」という言葉に、改めて彼女の決意が窺えた。


 あいわかった。

 そう言って椅子から立ったとき、スフィーダは敗北感のようなものを覚えた。


 事をうまく進行、管理できないことは、本当につらい、つらいのだ。


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