第388話 リンとレン。
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ハインドの首都直上に浮かび、陣取っていた二人は、聞かされていた通り、巨人族の者であると思われた。
確かに、身の丈は三メートル級。
大きい。
一般的なヒトを怯えさせるにはじゅうぶんな体躯、迫力だ。
一人は赤い鎧。
もう一人は青い鎧。
それぞれの髪の色は鎧の色とリンクしている。
先頭を飛んでいるのは、フォトン。
その後ろに並んでいるのは、ヨシュアとヴァレリア。
スフィーダが最後方という、ちょっとしたひし形の陣である。
スフィーダはすぐに前へと躍り出た。
自らが大きな声で問いをぶつけてやろうと思った次第だ。
「そなたらが王の側近か! こちらは堂々と来てやったのじゃ! 名前くらい言ってもバチは当たらんぞ!」
すると赤髪のほうが静かに「失礼いたしました」と言い、「私はリン、隣の者はレンと――」と紡ぎかけたのだが。
相手がまだ名乗っている最中であるにもかかわらず、フォトンが赤い鎧のリン目掛けて突っ込んだ。
まったく、なんとせっかちな男だろうか。
なんだかんだ言っても、親友の行動に触発されたのだろう。
ヨシュアも似たような行動をとった。
レンへと魔法、渦巻く炎を放ったのだ。
驚くべきことに、リンとレンは、フォトンとヨシュア、それぞれの第一撃を防いでみせた。
リンはフォトンの巨大な剣をさらに巨大な剣で受け、レンはヨシュアの魔法を薄紫のバリアで凌いだのだ。
スフィーダ、目を見開いた。
先制攻撃だからこそ、むしろ力の加減はしないフォトンとヨシュアだ。
なのに、あっさりと受け止め、あるいは受け流してみせた。
やる。
リンもレンも、かなり使える手合いだ。
だがしかし、相手がどれだけ戦闘に優れていようと、そんな要素は顧みずに突っ込むのがフォトンであり、またヨシュアなのである。
女王陛下を危険に晒すわけにはいかないという絶対的な気概ゆえの行動だろうか。
いや、案外そういうことではないのかもしれない。
二人とも、かなり好戦的なのだから。
「首魁、あるいは王を仕留めろ。どうやら二人はそうおっしゃっているようですね」
隣でヴァレリアがそう言った。
「見た感じ、リンとレンか? 奴らは強靭そうじゃ」
「敵方の二人は、確かに相当できるのかもしれません。ただ、敵ではないでしょう。戦闘とは残酷なものです。閣下と少佐に敵う存在がいるのであれば、私はそれを拝んでみたい」
「じゃったら、わしらはやはり?」
ヴァレリアは、にこりと笑った。
「参りましょう、陛下。トップをとっちめてやりましょう」
「よいのか?」
「閣下も少佐も、陛下のことを、あるいは陛下の力を、信頼なさっています。だから進んで道をあけてくれた」
「そういうことであれば、わし自ら、喜んで相手になってやるぞ」
「その意気でございます」
にこりと笑った、ヴァレリアである。
「では、早速、突撃しましょうか」
「しかしじゃ、ヴァレリアよ」
「いかがなさいましたか?」
「今さらですまん。だがわしは、話し合いで片づけられるのであれば、そうしたいのじゃ」
「巨人族に対する憎しみは多くの人々に間違いなく浸透しています。もはや待ったなしなのです」
「それでも、わしはのぅ、わしはのぅ……」
「悪事を働く者は、駆除しなければなりません」
「駆除、駆除、か……」
「気が引けますか?」
「そうは言っとらん」
「惰性は不可解であり、また不義理です、不条理です。殺すべきはその場で殺す。そこになにか問題がありましょうか?」
時間が惜しい。
そう言ったヴァレリアは、目的地である地下に続く巨大な穴へと向かう。
スフィーダはヴァレリアの隣に並んだ。
「地ならしを終えたタイミングで、王は表に出てくるつもりなのじゃろうか」
「恐らく。慎重であるだけなのかもしれませんが、あるいは賢く、また豪胆だとも表現することができます」
ヴァレリアが、ふふと笑んだ。
「相手がどの程度なのか、楽しみでございますね」
それを聞いて、眉をひそめたスフィーダである。
「そなたは強すぎる、強すぎるぞ、ヴァレリア・オーシュタハウトゥ」
「久しぶりにファミリーネームを呼んでいただきました」
「チョロいか? わしは?」
「どうしてでしょうね。やはり私には、陛下が子供に映ってしまう」
「それは悪いことではないぞ。そなたは確かに、大人じゃからの」
「そのお言葉は私にとって、朗報です。さて、おしゃべりはもうやめにいたしましょう」
「目下の戦闘をヨシュアとフォトンに押しつけてしまい、申し訳ないのぅ」
「本気でそう、お考えに?」
「冗談じゃ。奴さんとは、わしが決着をつけてやる」
「頼もしい限りです」
地下へと続く大きな穴倉、その入り口。
敵兵の姿はない。
来るなら来い。
そんなふうに、誘われているのだと感じた。
スフィーダは穴倉の中に着地すると、両手で頬をピシャピシャと叩いた。
気合いを入れて、ヴァレリアのあとに続く。
やがて、ひんやりとした空気が体の表面を刺激した。
鳥肌が立ったくらいだ。
到着した大きな広間は、床も天井も周囲の壁すらも、氷に包まれていた。




