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全力女王!~気高き幼女は死神に見捨てられたのか?~  作者: XI


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381/575

第381話 常識的な欲望。

       ◆◆◆


 ヴァレリアが現れた。

 夕刻の玉座の間に、だ。

 礼を尽くす格好で、赤絨毯の上で片膝をついている。


「よ、よいのか? そなたが現場におらんで」


 スフィーダは気が気でなくてそう訊ねたのだが、ヨシュアが「問題ありません。所定です」と言い、その言葉が頼もしかったので、彼女は少なからず安堵した。


 ヨシュアのゆるしを得て、ヴァレリアは立ち上がる。


「では、閣下、しっかりとご報告いたします」

「ええ、大尉。しっかりと報告してください」

「食い止めるだけなら、なんとかなるかもしれません。無論、命を賭してのこととなりますが」

「増援が欲しいと?」

「先刻、我が隊の者から報告があったことと存じます。中途半端な戦力は、荷物になるだけです」

「巨人は強いですか」

「あの体躯で移送法陣などを使われた日には、ぞっとします」

「やはり、一騎当千?」

「それでも、ウチの少佐はそんなこと、ものともしませんが」


 ヨシュアは顎に右手をやった。

 蠱惑的に微笑みながら、首をかしげたヴァレリアである。


 ヨシュアが「巨人族が表に出てきたのは、やはり純粋に日光を欲したからなのでしょうか?」と訊いた。

 するとヴァレリアは「事情や理由はともかく、地上に国を作ろうとしているようには見えます。それは確かです。とはいえ、今までに現れた人外とは違い、ある意味、評価できる点があります」と答えた。


「評価できる点。伺いたいですね」

「閣下、彼らはヒトを食らいません」

「ほぅ。なるほど」

「はい。野蛮なばかりではないということです。そして、今になっていよいよ見えてきました。連中はいたずらに一般人を傷つけることはしない」

「正しい敬意と高度な知能。それらを有しているということですね?」

「間違いありません」


 スフィーダは勢いよく「はい!」と挙手した。

 彼女には思うところがある。


「じゃったら、話し合いで片づけることもできるのではないのか?」


 ヨシュアは、「それは無理でございましょう」と否定した。


「なぜじゃ? 話せばわかり合えるのではないか?」

「その際には取り引きが必要になります」

「取り引き? なんじゃ、それは?」


 ヨシュアが額に手をやり、ゆるゆると首を横に振った。


「陛下。少しは頭を使ってくださいませ」

「な、なんじゃとぅ。おまえはとことん失礼な奴じゃな」

「取り引きと言いました。みやげが必要だということです」

「みやげとはなんじゃ?」

「テーブルにつけば、巨人族の王は恐らく言うはずです。攻撃をやめる代わりに領土を寄越せ、と」

「それは、そうなのじゃろうが……」

「申し上げておきます。簡単に折れるわけにはいかず、だから駆逐に至るまで攻撃を加え続けるしかないんですよ」

「他になにか、方法はないものじゃろうか」

「落としどころはあるんです。これまでの蛮行をゆるすことを前提に、改めて地下に戻ってもらえばいいんです」

「その条件は飲んでもらえるのか?」

「飲ませるより他にない。が、応じてもらえる確率は極めて低いでしょう」

「難しいところなのじゃな」


 スフィーダはヴァレリアに対して、「まずはそなたらに格好をつけてもらわねばならんのか」と、心外なことを述べるしかなかった。


「御意にございます」


 そう言うと、ヴァレリアはヨシュアに顔を向け、肘を抱え、小首をかしげたまま、妖しげな笑みだけを置いて、移送法陣で姿を消した。

 無愛想な飴色の筒も、彼女がまとえば今日も素敵だ。


「領土を割譲する。確かにそれは、あってはならんことじゃな」

「はい。彼らがハインドの外に飛び火することは、避けなければなりません」

「やはり、王には王が会うべきだと考える。傲慢か?」

「下地は整えます。しかるべきときに、堂々とお会いすればよいかと」

「過去に接した王に対してそうあったように、巨人族の王もまた孤独なのじゃろうか」

「情けは無用です」

「それはまあ、わかっておるのじゃが……」


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