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全力女王!~気高き幼女は死神に見捨てられたのか?~  作者: XI


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380/575

第380話 目下の被害。

       ◆◆◆


 ハインドに兵を投入した、その翌日。


 日中。

 玉座の間。


 玉座の隣に設けさせたテーブルにて昼食をとっていたところに、黒い着衣をまとった男が突如として赤絨毯の上に現れた。


 移送法陣。

 軍人だ、間違いなく。


 男は礼を尽くす格好で片膝をつき、こうべを垂れた。

 若いその男は、頭部から血を滴らせている。

 だからスフィーダ、立ち上がって慌てて駆け寄りそうになる。


 はあはあと肩で息をする若い軍人は、「そのままでお願いいたします。私はメルドー隊のニンゲンです。上官からの報告事項だけを携えてきました」と伝えてきた。


 メルドー、すなわちフォトンの名を聞いて、スフィーダの胸はドキリとした。


 椅子から立ち、身を翻すと、ヨシュアが「報告願います」と静かに言った。

 すると黒服の軍人は「はっ!」とキレのよい返事をした。


「我が部隊だからこそ、まともに戦うことができています。閣下、お願いいたします。敵は私どもで請け負います。他の兵は引いていただきたいのです。まさに一騎当千。到底、数で圧死できる者らではございません」

「あなた方以外の隊は役に立ちませんか?」

「敵兵は私どもが厄介だと認識しています。ですから、私どもをターゲットにしています。のっぴきならない状況はありますが、願ったり叶ったりだと、ヴァレリア大尉はおっしゃっています。私もそう考えております。いよいよ危険度を増すようなら話はまた違ってきますが、今は我々があれば戦えます」

「わかりました。ヴィノーがうまくやってほしいと言っていたと、メルドー少佐に伝達願います。本当に申し訳ありません。私も先頭に立って戦えればよいのですが」

「ヴィノー閣下、顔を上げてもよろしいですか?」

「かまいません」


 すると軍服の彼は、にこりと笑い。


「ヴァレリア大尉は、ヴィノー閣下ならきっとそうおっしゃるだろう、と」


 一拍の間。

 そののち「治療を受けてから戻りなさい」とヨシュアは告げた。


「この程度、なんでもありません。仲間が待っています。すぐに戻ります」

「そんな貴方に、私は感謝したい」

「お言葉ですが、それは不要です。私はフォトン少佐とヴァレリア大尉に鍛えていただいたからこそ、今の立場にあります。今さらなにをと思われるかもしれませんが、感謝なら、お二人にされてください」

「貴方と部隊に祝福を」

「はっ!」


 若い男は立ち上がると、飴色の筒で自らを包んだ。

 移送法陣だ。

 前線に戻ったのだ。

 我が身の危険など顧みずに。


 だからスフィーダ、少し涙した。


 申し訳ない、申し訳ない、申し訳ない。


 いくさである以上、被害は出るのだ。

 我が子のようにかわいく、また尊い命も失われてしまうのだ。


 スフィーダは歩み出て、左方にいるヨシュアに「のぅ?」と呼び掛けた。


「おっしゃりたいことはわかります。自分が出れば話は早いとお思いなのでしょう?」

「その申し出はゆるされんのか?」

「それこそ、陛下の代わりはいないのです。我慢してくださいませ」

「国の運用の仕方において、わしはなにも言える立場ではないのじゃ。じゃがのぅ、じゃがのぅ……」


 切ない思いでいると、ヨシュアが「とはいえ」と新たに切り出した。


「とはいえ、なんじゃ?」

「ボスの顔くらいは拝見したいと考えています」

「ずるいぞ、ヨシュア。わしも面会させろ」

「そうおっしゃると思いました」

「そうなのか?」

「しかし、それを可能にするかどうかは、我が軍の力量にかかっています」

「地ならしができるかどうかという話か?」

「ハインドには多大なる被害が出ています」

「んなこた理解しておる」

「フォトン隊の働きぶり次第なんですよ」

「敵兵の数は? 実際のところ、おまえはどう見ておるのじゃ?」

「数はそこまで多くはないかと。以前、おびただしい数を寄越してくれた緑の魔物、それに骸骨兵、マーマンとは、また違った性質だということです」

「勘か?」

「願いです」


 願い。

 場違いなほどに、綺麗な言葉だ。


「よし。ときが満ちれば、やはりわしは現地に入るぞ」

「その際は当然、お供いたします」

「巨人族、か……」

「どうあれ敵に過ぎないのです。潰し合うしかない」

「この悲しみはどこにうっちゃればよい?」

「うっちゃれはしません。事実として受け入れなければなりません」

「おまえは真面目すぎる」

「陛下が楽観主義であらせられる以上、私はそうでなければ」

「すまぬ」

「もったいなきお言葉」


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