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第38話 イライザとフレッド。

       ◆◆◆


 金曜日の夕方。


 女王の権限発動!

 というわけではないが、ヨシュアに言って、くだんの二人を呼んでもらった。


 くだんの二人とは、無論、イライザとフレッドのことである。


 両者に事情は何一つとして明かしていない。

 とにかく、来てもらってから話は始まる。


 この場で二人がどういう行動をするのか、それが楽しみでしょうがない。

 ヨシュアからは「野次馬根性や好奇心で事に首を突っ込むのは、陛下の悪癖でございますね」と言われてしまったが、どうしてもこの目で結末を確かめたいのだ。


 どこから一緒だったのだろう。

 両者は揃って頬を赤く染めながら、玉座の間に入ってきた。


 スフィーダ、ニコニコと二人を迎えた。

 つい「はようやれ、はようやれ」と囃し立てたくなる。


 イライザはハンカチを両手で握って、もじもじしている。

 フレッドは、はっとしたような顔になり「こ、こんにちは、スフィーダ様!」と大きな声で挨拶した。


「イライザはフレッドに、フレッドはイライザに話があるそうですよ?」


 そう言って、先を促したのはヨシュアだ。


 二人は、いっそう顔を赤らめた。

 その反応だけで両想いであることは明らかであり、二人もそれはわかっているはずなのだが、やはりこういうことにはきちんとした儀式が必要だろう。


 スフィーダはあえてなにも言わない。

 優雅に脚を組み直し、行く末を見守る。


 二人の「あのっ!」が重なった。

 二人が向き合った。


「な、なに? イライザさん」

「う、ううん。フレッド君のほうこそ、なに?」


 かたわらに立つヨシュアを見上げるスフィーダ。

 彼は穏やかな顔をして、まぶしそうに二人の様子を眺めている。


 ここは男子からじゃぞ?

 男子から行かねばならぬぞ?

 スフィーダ、そんなふうに期待をふくらませる。


 勢いよく「イライザさん!」と呼び掛けたフレッド。

 弾かれたように「は、はいっ!」と返事をしたイライザ。


「俺、明日、引っ越しちゃうけど……」

「あ、新しい学校でも、元気でね?」

「そ、そういうんじゃなくて、その……」


 ようやく心を決めたらしい。

 フレッド、顔を上げて、言った。


「好きだ! イライザさん!」


 予想できたことであろうとはいえ、いざ告げられると感極まったらしい。

 イライザはハンカチで口元を覆った。


「もういなくなっちゃうのに、ごめん。でも、後悔するから。言わなきゃ絶対、後悔すると思ったから……」

「私も……私も……好き」

「えっ」

「好きだよ……? フレッド君」

「そうなんだ……」

「そうなの……」


 スフィーダは心の中で叫ぶ。

 今じゃ、フレッド、イライザを抱き締めるのじゃ!


 でも、そうはならない。

 二人は優しい顔をして微笑み合い……。


「俺、自分で稼げるようになったら、ここに、アルネに戻ってくる。だから、そのとき、もし君に、イライザさんに恋人がいなかったら、その……」


 イライザ、「ふふ」と笑い、「おかしい」と言うと笑みを深めた。


「な、なにがおかしいのかな?」

「だって、フレッド君って、学校だといつも自信満々だから。なのに、今、スゴく弱気なこと言ってる」

「らしくないって……?」

「そう思うよ? 私はね? 貴方には私なんかより、もっとふさわしい相手がいると思う」

「いないから。そんなヒト、絶対にいないから!」

「そう。貴方はそう言ってくれる。だから、私の答えは決まってる」

「聞かせてよ、その答え」

「フレッド君、いつまでだって待ってるよ?」


 ついにだ。

 ついにフレッドがイライザのことを抱き締めた。

 彼女も彼の背に手を回す。

 しっかりと抱き合う格好だ。


 そして、少しだけ距離をとると二人は……。


 スフィーダ、左手を使ってヨシュアのことを招いた。

 彼が耳を寄せてくる。


「驚きじゃ。最近の中学二年生はここまで進んでおるのか?」

「なにがでございますか?」

「だって、ほれ」


 スフィーダは「きゃーっ」と発しながら、両手で目を塞いだ。

 しかし、指のあいだは開いている。


 二人はキスを始めたのだ。

 長いキスをしている最中なのだ。


「玉座の間で口づけとは。このようなケースは、最初で最後でございましょうね」

「前代未聞とは、このことじゃな」


 スフィーダ、目を細めて、二人のことを見届けた。

 幸せのおすそわけをしてもらったような気分だった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] じれじれ恋愛三部作完結! 新しい続き方でストーリーの行方が気になっていました。 [一言] イライザがいじらしい!可愛いかったです。 フレッドもいい少年で。 ほのぼの。 でもキスシーンはあて…
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