第38話 イライザとフレッド。
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金曜日の夕方。
女王の権限発動!
というわけではないが、ヨシュアに言って、くだんの二人を呼んでもらった。
くだんの二人とは、無論、イライザとフレッドのことである。
両者に事情は何一つとして明かしていない。
とにかく、来てもらってから話は始まる。
この場で二人がどういう行動をするのか、それが楽しみでしょうがない。
ヨシュアからは「野次馬根性や好奇心で事に首を突っ込むのは、陛下の悪癖でございますね」と言われてしまったが、どうしてもこの目で結末を確かめたいのだ。
どこから一緒だったのだろう。
両者は揃って頬を赤く染めながら、玉座の間に入ってきた。
スフィーダ、ニコニコと二人を迎えた。
つい「はようやれ、はようやれ」と囃し立てたくなる。
イライザはハンカチを両手で握って、もじもじしている。
フレッドは、はっとしたような顔になり「こ、こんにちは、スフィーダ様!」と大きな声で挨拶した。
「イライザはフレッドに、フレッドはイライザに話があるそうですよ?」
そう言って、先を促したのはヨシュアだ。
二人は、いっそう顔を赤らめた。
その反応だけで両想いであることは明らかであり、二人もそれはわかっているはずなのだが、やはりこういうことにはきちんとした儀式が必要だろう。
スフィーダはあえてなにも言わない。
優雅に脚を組み直し、行く末を見守る。
二人の「あのっ!」が重なった。
二人が向き合った。
「な、なに? イライザさん」
「う、ううん。フレッド君のほうこそ、なに?」
かたわらに立つヨシュアを見上げるスフィーダ。
彼は穏やかな顔をして、まぶしそうに二人の様子を眺めている。
ここは男子からじゃぞ?
男子から行かねばならぬぞ?
スフィーダ、そんなふうに期待をふくらませる。
勢いよく「イライザさん!」と呼び掛けたフレッド。
弾かれたように「は、はいっ!」と返事をしたイライザ。
「俺、明日、引っ越しちゃうけど……」
「あ、新しい学校でも、元気でね?」
「そ、そういうんじゃなくて、その……」
ようやく心を決めたらしい。
フレッド、顔を上げて、言った。
「好きだ! イライザさん!」
予想できたことであろうとはいえ、いざ告げられると感極まったらしい。
イライザはハンカチで口元を覆った。
「もういなくなっちゃうのに、ごめん。でも、後悔するから。言わなきゃ絶対、後悔すると思ったから……」
「私も……私も……好き」
「えっ」
「好きだよ……? フレッド君」
「そうなんだ……」
「そうなの……」
スフィーダは心の中で叫ぶ。
今じゃ、フレッド、イライザを抱き締めるのじゃ!
でも、そうはならない。
二人は優しい顔をして微笑み合い……。
「俺、自分で稼げるようになったら、ここに、アルネに戻ってくる。だから、そのとき、もし君に、イライザさんに恋人がいなかったら、その……」
イライザ、「ふふ」と笑い、「おかしい」と言うと笑みを深めた。
「な、なにがおかしいのかな?」
「だって、フレッド君って、学校だといつも自信満々だから。なのに、今、スゴく弱気なこと言ってる」
「らしくないって……?」
「そう思うよ? 私はね? 貴方には私なんかより、もっとふさわしい相手がいると思う」
「いないから。そんなヒト、絶対にいないから!」
「そう。貴方はそう言ってくれる。だから、私の答えは決まってる」
「聞かせてよ、その答え」
「フレッド君、いつまでだって待ってるよ?」
ついにだ。
ついにフレッドがイライザのことを抱き締めた。
彼女も彼の背に手を回す。
しっかりと抱き合う格好だ。
そして、少しだけ距離をとると二人は……。
スフィーダ、左手を使ってヨシュアのことを招いた。
彼が耳を寄せてくる。
「驚きじゃ。最近の中学二年生はここまで進んでおるのか?」
「なにがでございますか?」
「だって、ほれ」
スフィーダは「きゃーっ」と発しながら、両手で目を塞いだ。
しかし、指のあいだは開いている。
二人はキスを始めたのだ。
長いキスをしている最中なのだ。
「玉座の間で口づけとは。このようなケースは、最初で最後でございましょうね」
「前代未聞とは、このことじゃな」
スフィーダ、目を細めて、二人のことを見届けた。
幸せのおすそわけをしてもらったような気分だった。




