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全力女王!~気高き幼女は死神に見捨てられたのか?~  作者: XI


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377/575

第377話 マキエはしばしば涙を持ってくる。

       ◆◆◆


「うおぉっ。うおぉぉぉぉぉ……っ」


 玉座の間を訪れたマキエは、赤絨毯に突っ伏して、いきなりそんなふうに泣き出したのである。


 さすがに事情がわからないので、スフィーダは当然、「の、のぅ、マキエよ、いったいどうしたのじゃ?」と訊ねた次第だ。


「私は実家暮らしなのです。恋人ができたらそのヒトに家に転がり込んでやろうと思っているのですけれど」

「うむ。それで?」

「私が生まれたときには、我が家には、もうそのわんちゃんがいたのです」

「マキエは十八じゃったの」

「はいわんちゃんが二つのときに、私は生まれたのです」

「ほぅ。して?」

「そのわんちゃんが死んでしまったのですよぉぉっ」


 マキエはおいおい泣く。

 突っ伏したまま、顔を上げようとする素振りすらみせない。


「それは、たいへんな不幸じゃったな……」


 スフィーダは言葉を失い、それくらいしか言えなかった。


「わんちゃんには右の前足がなかったのです。これ以上壊死しないようにと、お医者様に切られてしまったのだと聞かされました。わんちゃんはときどき、前につんのめるようにして転んだのです。だけど、一生懸命に立ち上がり、生きようとする姿は、とても美しく映ったのです」


 スフィーダは「それはなんとも……」と言いつつ、斜め上に目をやった。

 涙がこぼれないようにするためだ。


「いっぱい、たくさん、精一杯、生きてくれました。でも、死ぬときは苦しそうに息をして、苦しそうに血まで吐いて……。私は大好きなわんちゃんになにもしてあげられなかったのです……」

「それでも、多くのニンゲンで、見送ってやったのじゃろう?」

「そんな綺麗事は聞きたくないのです」

「綺麗事などではない。大切な考え方じゃ」

「私のわんちゃんは天国行きの馬車に乗れたのでしょうか?」

「乗れたに決まっておる」

「満員だったかもしれません。そうでなくともハンデを抱えています」

「でも、乗れたはずじゃ。ひょいと乗車できたはずじゃ」

「お伝えしたいのです。より多くのヒトに、私の愛犬の存在を認めてもらうために」

「名は?」

「ロズだったのです。男のコだったのです」

「忘れられんな。だから忘れんでおくぞ」


 話の腰を折るようで申し訳ない。

 スフィーダはそう断った上で、「わんちゃんのことを伝えに来たのか?」と訊いた。

 するとマキエは立ち上がり、ビシッと背を正してみせたのである。


「おぉ。やはりなにやら他にも用事があるのじゃな? フォトンの部隊のことについてか?」

「フォトン少佐もヴァレリア大尉もスゴく元気です。暇がありさえすれば、激しく求め合っていますから」

「む、むむむむむっ。そうなのか?」

「えっ、そうなのですか? かまわないのですか? 私が知る限り、こういう話をすると、スフィーダ様は残念がるはずなのですけれど」

「そのへんはまあ、受け容れておる」

「おぉ。心が広いのですね」

「わしがフォトンに抱かれてやるのは無理があるからの」

「やってやれないことはないと思います」

「むむっ、むぅ。やはりそうか?」

「ニンゲン、やってやれないことはないのです」

「ふ、深いことを言うのぅ」

「だってそれって真理ですから」

「しかし、いろいろかつさまざまな要因や原因があって、わしはフォトンに一つにはなれんのじゃ」

「いろいろとかさまざまとかって、一般的な常識に照らし合わせた上でのお話ですよね?」

「む、むぅ。そこになにか問題があるのか?」

「まあ、フォトン少佐はスフィーダ様に対して、はあはあしたりはしませんよね?」

「はあはあはやめてくれ。そこまで生々しい話にはしたくない」

「私はです、スフィーダ様」

「お、おぉっ。まだぶっ込んできよるのか?」

「ぶっ込みますですよ。だがしかし、ぶっ込んでばかりいていいのかという思いもあり……」


 マキエが暗い顔を寄越したので、スフィーダも真剣に対応することにする。

 彼女はなにを言いたいのだろうか。


「あるいは、フォトンの部隊を抜けたかったりするのか?」

「そんなわけないではありませんか」

「そういう話ではないのか?」

「私はヴァレリア大尉に憧れているのです」

「それはわかっておるが……」

「ヴァレリア大尉のおっぱいは最高で凶器です。あそこまで大きく美しく成熟した果実は他にないのです」

「か、果実、果実か」

「果実なのです!」

「わ、わかった。じゃから声を荒らげるな」

「私はヴァレリア大尉と濡れ事に興じたいのです」

「ぬ、濡れ事言うな。もうちょい言葉を選んでくれ」

「このもどかしさ、スフィーダ様はおわかりですか?」

「わ、わからんこともないぞ? ヴァレリアは男前じゃからの」

「ああっ!!」

「じゃ、じゃから、大声を上げるでないっ」

「私は日夜、ヴァレリア大尉のことを付け回しているのです」

「つ、付け回している?」

「はい。そしてそのたび、窓から覗く大尉はフォトン少佐の上で、あんあん言っており――」

「ややっ、やめよ! 具体的に話さんでよい!」

「ああっ! 私も男性であれば! 私にもあれだけ屹立するものがあれば!!」

「じゃから、もうよいと言っておるじゃろうが!」


 改めて、おいおい泣き出した、マキエである。


「私にも私にも、本当にあれだけ立派なものがついていれば……っ」

「マキエ、もうよい、やめよ。棒とか穴とか言うのは、もうやめよ」

「あれれなのです、スフィーダ様。私は棒やら穴やらという直接的な表現はしていていないのです」

「だ、だから、具体的に表現せんかったという話じゃろうが」

「棒を使ってボールを穴に入れるスポーツがあります」

「ゴ、ゴルフのことか?」

「そうなのです。ゴルフはスケベなスポーツなのです。

「それを言ったら怒るぞ? 全世界のゴルファーを敵に回すことになるぞ?」

「戻ります」

「なな、なんじゃ、いきなり」

「戻ると言ったのです。我が飛空艇にピザでも届けてもらおうと思います」

「ピザが好きなのか?」

「ジャンクフードは得意です」

「そうか。マキエよ。フォトンとヴァレリアによろしく伝えてほしい」

「わかっています。女王陛下に幸あれなのです」


 スフィーダは「そなたはとことん明るいのぅ」と目を細めた。


「それが私の立ち位置です。これからもがんばりますですよーっ」


 マキエは今日も元気である。


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