表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/575

第37話 フレッド。

       ◆◆◆


 ジャケットは黒、ズボンはグレー。

 黒いネクタイをきちっと結んでいる。

 見事なディンプルだ。


 非常に顔立ちが整った少年である。

 鼻筋がすっと通っているところがいい。

 なにより誠実そうな点に好感が持てる。


 少年は頭を下げると「スフィーダ様、こんにちは!」と大きく言った。

 肝も据わっているようだ。


 スフィーダが「まあ、座るのじゃ」と気さくに告げると「はい! 失礼します!」と清々しい返事を寄越してから椅子に腰を下ろした。

 本当に気持ちのいい少年だ。


「まずは名を聞かせてもらおうかのう」

「フレッド・アーリーといいます」


 ……フレッド?

 フレッド・アーリー?

 まさか、さっきの少女が言っていたのは――。


 そんなふうになかば驚き、目をしばたいていると、フレッドに「スフィーダ様?」と不思議そうな顔をされた。


 スフィーダは急いで立て直す。

 コホンと一つ咳払いをして、彼女は「あいわかった。フレッドじゃな?」と言い、微笑んでみせた。


「はい! よろしくお願いします!」

「フレッドはなんの用で参ったのじゃ?」

「その前に、一ついいですか?」

「おぅおぅ。なんでも申してみよ」

「ヨシュア・ヴィノー様」

「おや。なんでしょう?」

「どうしてたかが中学生に過ぎない僕を、謁見者として選んでくださったんですか?」

「理由が必要ですか?」

「あるなら聞かせていただきたいです」


 ヨシュアは、優雅にふふと微笑した。


「秘密です」

「えっ」

「秘密だと言いました」

「そうなんですか?」

「ええ。そうなんです」


 きょとんとした表情を浮かべたフレッド。


 いつもひょうひょうとしていて、肝心なところは話さないヨシュアだ。

 だからこういった対応は、スフィーダからすれば、じゅうぶん予測の範疇と言えた。


「では、話を戻すのじゃ。先を紡いでくれるか、フレッドよ」

「はい。昨日の放課後、告白されました。学校一の美人と言われる女のコからです」


 いきなりずばっと本題に入るあたりには、思い切りのよさを感じる。


「それはめでたいことなのじゃ」

「はい。とっても嬉しかったです」

「返事は? なんと答えたのじゃ? 無論――」

「断りました」

「へっ? そうなのか?」

「はい」

「それはまたどうしてじゃ?」

「他に好きなヒトがいるからです」

「学校一の美人より、好きなのか?」

「そうです」

「あるいは、その美人には、なにか問題があるのか?」

「いいえ。ありません。スゴくいいヒトです。優しくて、思いやりもあって。だから、学校でも人気があるんです。美人でも嫌なヒトだったら、モテませんよね?」

「まあ、そうじゃの」

「でも、僕が好きなヒトは、スゴくスゴくいいヒトなんです。スゴくスゴく優しくて、スゴくスゴく思いやりのあるヒトなんです。だから、僕は……」


 ここに来て、ハキハキと話していたフレッドの顔に変化が生じた。

 苦笑じみた表情を浮かべたのだ。


「僕、明後日の土曜日に引っ越すんです……」


 やはりそうなのかと思い、スフィーダ、一つ頷いた。


「時間がないんです。だけど、どうしてだろう……。どうしても、彼女が応じてくれるとは思えないんです……」

「そなたに告白されて断るおななどおらぬと思うぞ?」

「そんなことありません。僕みたいな奴なんて、いくらでもいます」

「しかし、そなたは学校一の人気者なのじゃろう?」

「えっ」

「あっ」


 スフィーダ、思わず両手で口にふたをした。

 つい、しゃべってしまった。

 さっきここを訪れた少女のことは、とりあえず、秘密にしておいたほうがいいに決まっている。

 幸い、フレッドは特に疑うような素振りは見せなかった。


「後悔だけはしたくないんです」


 それは先ほどの少女も言っていた。


「でも、ダメなんです。言い出せそうにありません。断られることが本当に怖いんです。こんな気持ち、初めてです」

「わしの意見を言ってもよいか?」

「はい。お願いします」


 スフィーダは右手を握って拳を作り、前方に向けてパンチした。


「フレッドよ、当たって砕けろじゃ!」


 勢いに押されたのか、フレッドは少し面食らったような顔をした。


「そ、そうでしょうか?」

「なにもせずに後悔するより、なにか行動して後悔するほうがよいに決まっておる」

「それは……そうですね。はいっ。その通りだと思います!」


 フレッドは、すっくと立ち上がった。


「ありがとうございました、スフィーダ様! 踏ん切りがつきました! 勇気が湧いてきました!」

「ダメだったからといって、しょげることはないぞ? 人生、長いのじゃからな」

「はい!」

「ちなみにじゃ、想い人の名前はなんというのじゃ?」

「イライザさんです。イライザ・ウォーカー」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 36話からの37話、とても素敵でした! 36話の終わりで、何かしら次に繋がるのだろうな、と思ってはいたのですが、予想以上の微笑ましい展開に心温まりました。 若いって素晴らしいなぁ、なんて甘…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ